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(8)もう一人のババ様

お堂では、高野さん、四手井さん他数名の警察によって現場検証中だった。オレとハナちゃんに気づいた四手井さんが手を挙げて挨拶してくれたので、オレたちは頭を下げて昨日のお礼を述べた。そして、

「中にはもう何も残っていませんか」

と聞くと、

「あぁ、元々ここに安置されていたものも含め、仏像の類は全て押収した。中は空っぽだ」

と言いながら、規制線の黄色いテープを回収した。


もう入ってもいい、と言うのでオレとハナちゃんでお堂を開けてみた。中は空っぽ…と思ったら鏡が一枚、真ん中に置かれていた。

「四手井さん…」

この鏡は?と言おうとお堂を出ると、空にはヤタガラスが鳴きながらくるくる旋回していた。

「これは…!」

とオレが言うと、ハナちゃんが、

「うん、タイムスリップの条件が揃った気がする。何かが起きるよ!」

と叫んだ。


高野さんと四手井さんが不思議そうな顔でオレたちを見つめ、

「あれ、八瀬君、そんな鏡どこにあった?」

と言って、鑑識を呼び戻そうとした四手井さんの手が止まる。視線も止まる。オレとハナちゃんがその視線の先を辿ると…なんとそこには金色こんじきの着物のババ様が立っていた!


「我は玉依姫命。河合神社のご神体である」

そしてハナちゃんを指さしながら、

「そこにおるものが、我の光より作りし櫛を持っておる。それに導かれやってきた」

と言った。

ハナちゃんが、

「ババ様!良かった、ご神体の鏡もほら、取り返しました! すぐに河合神社にお戻ししますからね」

と言った時、お堂の奥で音がした。

一斉に振り向き、お堂の中を見る一同。


そこには刀を抜いたままの一年たちが立っていた。佐平太の手には毘沙門像が握られている!

四手井さんは手に持っていたペンを落とし、高野さんは後ずさって尻もちをついていた。


聞けば、千丘寺で眠りについた時、夢枕に朱色の玉依が立って今一度薬師堂に行けと言われたそうだ。

「オレたちと同じだ」

オレが言うと、佐平太さんは興奮した面持ちで続ける。

「今朝起きたら、千丘寺ではなく、修学院村の寺におりました。これはどうしたことかと慌てましたが、お告げ通り急ぎ薬師堂に向かったところ、盗賊団に遭遇し、全員切り捨てお堂を開けたら、たくさんの仏像の中にご神体と思しき鏡とこの像がありました! よかった、とお堂の中に入り、千早様がご神体を拾い上げたところ、不思議なことに消えてしまったのです! その時、どこからともなくカラスの鳴き声が聞こえ、扉の方を振り返ったら、八瀬殿たちがおられたのです…」

佐平太を始め、一年たちもみな、まだ肩で息をしている。ついさっきまで、700年前の世界で河合神社のババ様と毘沙門像を取り戻すために戦っていた証拠だ。


ハナちゃんが鏡を持って千早に駆け寄る。

この鏡を持って帰って河合神社にお戻ししてあげてください。

千早が優しく抱き上げる。そして金色のババ様を見つめ、

「盗難に遭っていたのですね、気づくことができずに申し訳ありません。だからわたくしたちがお参り申し上げた時、お返事がなかったのですね。これからはしっかりお守りさせていただきます」

と言うと、ババ様は安心したように微笑み、すぅっと消えてしまった。


唖然と見つめる高野さんと四手井さん。何も喋らなかったけど、その顔は、そんなバカな、さっきまで誰もおらず、何もなかったのに…と言っていた。


佐平太が四手井さんに近づいてきて言う。

「某は四手井佐平太。たまには音羽の本家も訪ねよ」

そう言われ、恐る恐る佐平太の顔を見る四手井さん。微笑みながら納刀した佐平太に、四手井浩二はすっと背を伸ばして最敬礼をした。


「八瀬殿、ハナ殿。今回も大変世話になってばかりで…」

一年がオレに言う。

「何を言ってるんだよ、助けられたのはこっちの方さ。みんながいなかったら祠も取り戻せなかったし、毘沙門像も戻ってこなかったかもしれない。本当にありがとう」

そう言って、オレはみんなにボールペンを一本ずつ渡した。

すると正孝が、

「家督相続のお披露目の案内状を書いていたら、途中で書けなくなってしまったので助かります」

と嬉しそうに礼を言ってくれた。インクが無くなるまで書くなんて、一体何人に書いたのだろうと思って、オレは少し笑ってしまった。


 千早が鏡を抱きながらハナちゃんに向かって言う。

「もう少し、ハナさんの世界を見てみたいのですが、今は一刻も早くこの玉依姫様のご神体を祠に戻して差し上げたいので…」

「うん、そうしてあげて! 大丈夫、またきっと近いうちに遊びに行くから!」

というハナちゃんに、にっこり頷く千早。

「我らも八瀬殿の世界に行けるよう、ババ様にお願いしてみることにいたします」

オレはこくりと頷きながら、

「きっと、きっとまた会おう、一年、正孝、源太!」

三人衆が黙って、でもにっこりと頷く。

「佐平太さんも、傷が癒えたらまた遊びに来てください」

とハナちゃんが言うと、佐平太は、はい、と返事をした。


 一年が一歩扉に近づき、

「それでは、八瀬殿、ハナ殿。また!」

と言って、お堂の扉を閉めた。

すると頭上をくるくると旋回していたカラスが鳴きながら修学院の方へ飛んで行った。


四手井さんがふらふらしながらオレに近づいてきて、

「ご、ご先祖様たちはどこへ?」

と聞くので、

「開けてみてください」とだけ言った。

恐る恐るお堂を開ける四手井さん。しかし中は空っぽだった…

「そんな…」

これは一体、といった顔でオレを振り返るので、

「だから言ったでしょ。700年前から来たサムライだって!」

オレはまた片目を瞑ってみせた。


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