(7)帰ってきたババ様
後日、玉依姫命の祠の確認に千丘寺を訪れた高野・四手井コンビからじー様が聞いたところによると、署長はこの窃盗団の逮捕を随分と褒めてくれたそうだ。確かに一連の窃盗団事件解決の記者会見を署長さんらしき人がしているニュースをオレも何度か見たけど、喜色満面の笑みだった。
だけど、峰打ちの傷や矢の傷については案の定、病院から報告があり、コンビから本当の事情を聞いた署長は頭を抱えたらしい。
それを見た高野さんは、
「せっかく長年の懸案だった窃盗団を一網打尽にして、この手柄を土産に本庁栄転もあるかもしれませんよ、署長! なのに実は逮捕に一役買ったのは本物の刀を振り回したサムライ一派で、それが現在行方不明、なんてニュースが流れたら、どっかの島の駐在所に左遷ですよ、それでもいいんですか!」
と詰め寄って、署長も腹をくくったらしい。
TVで流れるニュースだけがすべてじゃないのう、とじー様は笑いながら話してくれた。
オレたちは山を下りたその足で千丘寺に向かい、じー様に玉依姫命の祠奪還の報告をした。
「これは間違いなく玉依姫様のご神体じゃ。よかった! 礼を言うぞ!」
と、じー様はたいそう喜んで、お礼にと、夕飯までごちそうしてくれた。
源太はお調子者の性格を全開に、切った張ったの大立ち回りおじい様に見せて、夕食の席は大いに盛り上がった。ただ一人、佐平太だけは、笑ってはいるものの、少しばかりその席に溶け込めていないようだった。
じー様は今日は遅いし、泊っていきなされと本堂に布団まで敷いてくれた。
観音菩薩様に見下ろされながら寝るなんて、中々できる経験じゃないから、しばらく起きていたかったが、山にも登り、大立ち回りもして疲れたせいか、そのうちに誰かの寝息が聞こえだし、気が付いたらオレもいつの間にか寝入っていた。
夜半過ぎ。みんなの夢枕に朱色の玉依姫命が立った。
「感謝するぞ。今一度薬師堂に行って見なされ。探し物はそこにあるじゃろう」
翌朝、朝のお勤めに来たじー様のお経で目が覚めると、そこにいたのはハナちゃんとオレだけだった。読経が終わるのを待って、
「おはようございます、和尚様。みんなは…庭掃除とかでしょうか?」
とハナちゃんが聞くと、じー様は、
「わしが来たときにはもうおらなんだ。どうやら戻ったようじゃの」
と答えた。
え! いつかは戻るんだろうとは思ったけど、こんな形で…って感じで、オレとハナちゃんは顔を見合わせたまま、しばらく動けなかった。
「また、ちゃんとさよなら言えなかったな」
ハナちゃんは少し寂しそうだった。
「そういえばハナちゃん、朱色のババ様立った?」
と聞いたら、はっと思い出したように、
「あ、立った立った! お礼を言われて、もう一回薬師堂に行けって言ってた!」
「やっぱり同じだ」
「健太郎も? 櫛を持って行けって言ってたよね」
「櫛? いやオレの夢では櫛のことは言ってなかったけど?」
「あれ、私だけ? 何でだろう」
「ま、でもこりゃ、まだ何かあるね。二日連続だけど、行くよ薬師堂!」
「もちろん!」
そう返事をしてハナちゃんは勢いよく布団を跳ね上げた。
じー様は、精進料理だが、と言って朝ごはんまで用意してくれた。オレとハナちゃんはありがたく頂戴して、ババ様が夢枕に立って、もう一度薬師堂に行けと言った話をした。
じー様は、うんうんと頷きながら、
「本家がまだじゃからのう」
と呟いた。
茶碗を洗い、お礼を述べ、千丘寺を後にしたオレたちは、一度ハナちゃんのアパートに寄って、櫛を持ってから一路薬師堂を目指した。




