(6)悪・即・斬
そんなわけで、まともな山登りの格好をしているオレたち二人に加え、侍の格好をした若者四人、姫様一人、そしてスーツ姿の二人という、凸凹チームでの登山と相成った。
大文字山辺りまでは、人も多いので、結構な好奇の目にさらされたが、三角点を過ぎたあたりからは人も少なくなって、薬師堂に着くころには誰ともすれ違わなくなった。
高野さんと四手井さんは、スーツで登りづらそうにしてたけど、さすが警察官、遅れることもなく皆についてきた。
そして薬師堂が視界に入った時、一見して登山客ではないとわかる人物たちがお堂の周りをうろうろしているのが見えた。
「高野さん、あれ!」
四手井さんがその中の一人を指さして、小声で叫ぶ。
「あぁ、古物窃盗で手配されてるヤツだな」
「傷害も起こしてますよね」
「そうだな。見た感じ、六、七人はいるか…。四手井、無線で応援呼んでくれ」
「はい!」
すると一年が、
「応援? そこもとら二人を入れれば、こちらも男手は七人。数は足りるのではないか?」
高野は、何を言ってるんだみたいな顔で、
「アイツらは仏像を盗むために平気で人を傷つける奴らだ。侍の真似事をしてるあんたたちじゃ怪我するだけだ。数に入りもしない」
侍の真似事、と言われ、むっとした表情で、何だコイツは、的にオレを見る一年。
オレは、まぁまぁ、と両手でなだめた。すると正孝が、
「一年よ、あの一番左手にいる男、見覚えがないか?」
と聞いた。
「あれは、いつぞや河合神社で!」
と源太が一年を見る。
「いかにも」
「どうする一年よ」
「是非に及ばず」
「おい一年!」
やる気満々の一年に、ここは警察に任せた方がいいと思ったので、思わずオレも声を掛ける。一年は振り返りながらニヤリと笑って、
「わかっておるよ」
といつものセリフを言った。
「名和一年、参る」
立ち上がる三人衆。一年を先頭にお堂に近づいていく。
「おいおい、待て待て!」
と高野さんと四手井さんが声を掛ける。
「相手は七人、しかも武器を持ってるぞ、きっと!」
「コスプレ侍が敵うわけがない! さっき署に連絡をしたから応援を待て!」
10か月前、拳銃片手に一年に勝負を挑み、あっさり負けたアニキと呼ばれていた男が、ここを仕切っているようで、あれこれ指示を出していた。
「またお会い申したな」
一年がおもむろに声を掛けると、仏像を運び出そうとしていた一味の動きが止まり、一斉に一年を見る。
一年は本差の柄に両手を重ね、懲りないやつだとでも言いたげな笑みを浮かべながら近づいていく。すると、アニキの顔が、お前はあの時の的な表情になるのが見てとれた。
手下と思われる連中が、運んでいた仏像を地面に置き、身構える。
「佐平太、八瀬殿たちをお守りしてくれ。某は右手四名、正孝は左三名を頼む。源太は弓で足止めを」
「承知!」
「佐平太はもし源太と正孝が打ち漏らし、八瀬殿たちに近づく者あれば頼む」
「打ち漏らしなどしませんよ」
と源太。
アニキが懐に手を入れるのが見える!
「ヤバい、銃だ!」
四手井さんが叫ぶ。
ニヤリと笑みを浮かべた一年が、
「いざ!」
と言うや、源太の矢がひゅんひゅんとうなりをあげて窃盗団の足元に突き刺さる!
うわっと驚き、足が止まる窃盗団。
拳銃を構えたアニキにだけは源太の矢が足を射抜いた。うぉっと叫んで地面突っ伏すアニキ。
矢に驚いた窃盗団が再び顔を上げると、既に目の前にいる一年。
えっと言う表情を見せる暇もなく三人が次々に切り倒される!
「マジか、切った!」
さすがのオレも相当ビビった! 一年たちが手錠を掛けられ連行される様子が走馬灯のように頭をよぎる。正孝の方を見てみれば、同じく三人が既に地面に突っ伏してうめいている。
さすがにヤバいヤバいヤバい、と焦ったが、よく見たら、誰一人血を流していない。
「え、峰打ち?」
そう思った時、源太の矢を足に受けながら、一人、鬼の形相でアニキが拳銃を構えてこっちに向かって来る。
「佐平太ッ!」
振り向きながら一年が叫ぶのと同時に、
「ふんッ」
という佐平太さんの気合いが聞こえ、その瞬間、キンッっという甲高い音がして、構えていた拳銃の銃身が宙を舞っていた。
驚くその男の首には、既に一年の百鬼丸の切っ先があてられていた!
「動けば、切る。捨てよ」
ひくひくとまばたきしながら視線だけ動かし、一年の顔を見るアニキ。
オレはアニキに近づきながら、
「銃身が無くても弾は出るのかもしれないけど、引き金を引く前に首が無くなると思います、本当に。前も言いましたけど、この人たちは本物の侍なので勝てませんよ」
とオレが言う。
アニキは素直に拳銃を捨て、がっくりと膝まづいた。
悪・即・斬とは、まさにこれを言うのだろう。
口をあんぐりと開けたまま言葉もない高野さんと四手井さん。
「とりあえず手錠を」
とオレが言うとはっと我に返って、アニキに手錠をかける。
「か、彼らは映画のためのコスプレじゃないのか?」
高野さんがオレを見ながら言うので、
「本物だって言ったじゃないですか。言っても信じてくれないと思ってましたけど。それに警察署内では信じてもらえない方が、銃刀法違反とかで逮捕されなくて済むし都合いいやと思ってました」
すいません、と言ってオレは頭を下げた。
「え、じゃあ…ホントにほ、ホンモノ?」
「はい。本物のサムライです!」
倒れている六人は、峰打ちとは言え、相当痛かったようで、まだうめきながらゴロゴロと地面を転がっている。こちらは手錠の必要は無さそうだ。
「すごいご先祖様ですね」
と四手井さんに声を掛けると、
「ご…先祖?」
「さっき佐平太さんも聞いてましたけど、四手井さんの本家、と言うか実家はどちらですか?」
「実家は山科だ。本家も山科にある…」
「ほら、佐平太さんの言った通り! あの人はきっと700年前のご先祖様ですよ!」
オレは片目を瞑ってみせた。
四手井さんは、大きく見開いたままの目で、ゆっくりと佐平太さんを見つめた。佐平太さんは、少し肩で息をしながら、刀を鞘に納めた。
ほどなく下鴨署から応援が到着し、窃盗団は全員逮捕と相成った。
薬師堂からは十数体の仏像に加え玉依姫命の祠も回収され、千姫がちゃんと祝詞を上げたうえで祠を開けたところ、ご神体である鏡もちゃんと入っていた。でも佐平太さんの毘沙門像は、このお堂にははなかった。
現場検証をしている警察官たちから少し離れて、何やら四手井さんとこそこそ話をしていた高野さんが、こっちへ来いとオレに手招きをした。派手な大捕物を演じたから事情聴取とかされるんだろうなと思ったら、すぐに山を降りろという。
「え、いいんですか?」
と聞くと、
「本物のサムライが本物の刀を振り回し、本物の矢で足を射抜いたなんて知られてみろ。それこそ事情聴取くらいじゃ済まない。ここは私と四手井で何とかする」
「でも病院とか行ったら、峰打ちの傷とか、矢の刺さった後とか、すぐにバレちゃうんじゃ…」
「まぁ、そうなんだが、この窃盗団はな、特に拳銃を持ってたアイツは、下鴨管内で強盗はするわ、殺人未遂は犯すわで、署長も逮捕に躍起になってたんだよ。映画撮影をしていた連中が模造刀で逮捕を手伝ってくれたとか、撮影用の矢が偶然刺さっちゃったとか、何とか誤魔化しとくから」
そんなことで警察組織が誤魔化せるんだろうかと思ったけど、行け、と言ってくれてるうちに、素直に山を降りることにした。
ハナちゃんがダメ元で、あのお侍さんたちにも深くかかわっている千丘寺の祠を持って帰ってもいいかと聞いたら、盗難品の検証は後日寺まで行くから、とOKしてくれたそうだ。
いい人たちなのか、それともルールを自己解釈してる人たちなのか、ちょっと心配にはなったけど、ババ様を今日連れて帰れるのはありがたい。じー様もきっと喜ぶだろう。




