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(4)盗まれたもう一人のババ様

帝にご挨拶だけしたら佐平太と別れる予定が、御所の石薬師御門から入って森を抜けたら…あぁ、なんと…この景色はオレたちの御所。また700年後に戻ってしまった。


しばし呆然としながらも、オレは、

「もう、ゼッタイこうなると思った…」

と言うと、

正孝は前回のことを思い出したのか、

「この門は鬼門でござるな」

と言い、

「文字通り北東でござるからな、鬼門というのもあながち間違ってはおらぬ」

と一年が続けた。


ただ一人、

「こ、これは一体…」

と愕然としていたのは佐平太だ。

そんなオレたちを見て、

「今度は誰に何をさせようとしているのかしら?」

とハナちゃんが言う。

「全くだね。このタイミング、このメンツで現代に戻ってくるとは。ハナちゃん的にキーパーソンはは…佐平太さんかい?」

とオレが聞くと、

「うん、それしかないと思うんだけど、場所が御所ってのがね…。佐平太さん、佐平太さんは一年さんに書状を届ける以外に、何か用事がありました? 特に御所で」

「いえ、滅相もございません。私ごときがこのようなやんごとなき場所に用事など」

と謙遜しきりだ。でも用事がないのは本当のようだった。


「そうか…もう行き詰っちゃった」

とオレが、さぁ困ったといった感じで言うと、

「困ったときは…玉依姫命!」

とハナちゃんと千姫がハモって言った。仲のいい二人だ。


「夢枕にも立ったしね!」

ハナちゃんを見ながらオレが言うと、

「え?」

と千早がびっくりしたように言う。その千早を見ながら、

「何日か前、私の夢枕にババ様が立ったの、朱色の着物を着たババ様だった。何も言わなかったけど…」

とハナちゃんが説明した。


「え、それは本当ですか! 実は昨日、私の夢にもババ様が立ちました、そして何も言いませんでした」

とは千姫。二人は顔を見合わせて、

「まさか、ババ様に何かあったのでは…」

一同は急いで河合神社に向かうことにした。


今出川通りが向こうに見えたところで、一年が佐平太に向かって、

「佐平太よ、これから河合神社までの道中、何があっても取り乱すではないぞ! 弓など射るはもってのほか!」

と言った。

それを聞いて笑う千早とハナちゃん。


佐平太は何を言っているのかわからない様子だったが、今出川通りをびゅんびゅん行き交う車や背の高いビルなど、見るものすべてに呆気に取られている様子だった。クラクションを鳴らしながら車が通りすぎた時には、矢は射なかったけど、腰を抜かしそうなくらい驚いていた。


そうして、今回は矢を射ることもなく、チンピラにも出会わずに無事河合神社に到着した。

突然現れた侍然とした一年たちを見て、ひそひそ声の現代の参拝客たち。

千早がさっそく両手を合わせて玉依姫命の祠にお祈りをささげる。


しかし、ババ様もヤタガラスも現れなかった。千姫が言う、

「一年様に嫁いだ後も、折につけ河合神社の巫女として玉依姫様にお仕えしておりますが、何日か前からババ様のお声が聞こえなくなってしまいました…。今日もダメでした」


そんな千早を見て、オレは思い切って聞いてみた。

「千早ちゃん、祠を開けることはできる?」

「え?」

と少し驚いた顔の千早。


「実は、オレたちの時代の千丘寺で会ったババ様を覚えてる? あれは河合神社から分祀されて千丘寺に祀られていた玉依姫命なんだ。ハナちゃんの夢枕にババ様が立った次の日に千丘寺に行ったら、その玉依姫命が祀られている祠が盗まれたって、じー様から聞いたんだよ。だから、ここは無事だろうかと思って…」

「なるほど、そういうことなら」

わかりました、と言って、祝詞を上げ、祠を開けてくれた。

そこには御樋代があった。

「あ、ちゃんとあるね」

とオレは安心したが、千早が御樋代を開けると、なんとご神体が無なかった!

「なんと!」

「無い!」

「どうりで千早の呼びかけにも返事がないわけだ」

でも、金色こんじきの褥は残っていた。

「金色だ!」

「千早ちゃんの夢枕に立ったババ様は金色の着物だった?」

「えぇ」

「ってことは千早ちゃんに立ったのは700年前の河合神社のババ様で、ハナちゃんに立ったのは現代の千丘寺のババ様ってことか!」

これは何か訳ありだ的な感じでオレは言った。続けて、

「今回のタイムスリップ、ババ様の盗難と言うか誘拐に関係ありそうだけど、それだと佐平太さんが来た意味が分からないままだね。とりあえず千丘寺のじー様に報告がてら相談してみようか」


千丘寺に向かう叡電の中では、10か月前の三人衆同様、佐平太さんも大騒ぎだったが、一年がなだめて、これまでのオレたちとの経緯を説明していた。

なるほどそのような由縁が、といいながらも、目は外を流れていく景色に釘付けだった。


修学院駅を降りた時、もしかしたら、と思ったが、10か月前のようにヤタガラスはいなかった。

それでも千丘寺まで行き、何もヒントがなかったらどうしようという不安を持ちつつも、意を決してインターホンを押した。


じー様が中から出てくる。


一年たちが懐かしさを込め、

「和尚!」

と叫ぶ。

「ほほほ、今度はお前さんたちも一緒か。ん、見たことのない顔が一つあるのう」

「山科は音羽村の四手井佐平太にござる。実は…」

「なるほど、お主も700年前から来たか」

じー様は、まるで一年たちが来ることがわかっていたかのようにニッコリと見まわして、オレたちを寺の中に招き入れてくれた。


本堂の正面には観音菩薩が鎮座している。一年たちはじー様から言われるまでもなく、矢筒を降ろし、刀を抜き、胡坐をかいて座り、床に額が付くほどに頭を下げて礼をした。


オレは、河合神社のご神体も盗まれていたこと、そして、その前日ハナちゃんの夢に立ったババ様と、千姫の夢に立ったババ様の着物の色が違ったことおじい様に説明した。

「それと、今まで何度か現代と700年前を行ったり来たりしていますが、必ずキーとなる人がいました。今回佐平太さんが現代に来たということは、佐平太さんがキーだと思うのですが、理由がわからず…玉依姫様に聞こうと河合神社に行きましたが、返事はなく…最後の砦、と思い住職の元を訪ねた次第です」

とハナちゃんが続けた。


じー様は、

「なるほど。夢枕に立った玉依姫様の着物の色が違ったのは、褥の色が河合神社は金、千丘寺は朱と、それぞれ違うからじゃろう。それにしても河合神社の玉依姫様も盗難にあっとったか。せめてここの玉依姫だけでも残っておれば、何か話が聞けたかもしれんが、ここも盗まれてしまっておるからのぉ…」

と残念そうに下を向いた。


その時、それまで黙って聞いていた佐平太が、

「実は」

と切り出した。

「玉依姫様の盗難と関係があるかどうかわかりませぬが…実は、四手井家御本尊として、毘沙門堂からお分けいただいた毘沙門天木像が先日盗難に遭いました。以来、兄新平太が病の床に臥せっております。本来ならば、今回の名和様への書状も新平太本人が持参すべきところ、床から起き上がることもままなりませぬ故、某が代理で持参した次第です」


そして、オレの方を向き、続ける。

「八瀬殿と初めてお会いしたお堂は、薬師堂と言い、兄が臥せってから、お百度を踏むため、日参しておりました。あの日は修学院村に兄の書状を届ける途中に、いつものようにお参りしましたところ、お堂の中から音が聞こえましたので、覗いたところ、扉が急に開いて、何者かに突き飛ばされました」


佐平太は正面の観音菩薩像を見て続ける。

「ですがその時、咄嗟に見えたのです。某を突き飛ばした者の後ろ、お堂の隅に四手井家の毘沙門像が! 恥ずかしながら突き飛ばされたときにしばし気を失ったようで、正気を取り戻して、慌ててお堂に飛び込んだのですが、最早もぬけの殻でした。と言うか、気を失うまでのお堂と様子が全く違っていました」

「というと?」

じー様が聞く。


「お堂の中には、毘沙門像こそありませんでしたが、阿弥陀如来様や大日如来様など、あのお堂では見たことのない、祀られているはずのない木造がいくつか置かれておりました。これはどうしたことかと座り込んでおりましたら、雷雨が来て、足も痛くなってきて、臥せっていたところに八瀬殿とハナ殿が現れてくださった、という次第です」

そこまで佐平太の話を聞くと、じー様は小さく頷きながら、

「窃盗団か」

と言った。


「窃盗団?」

皆が一斉にじー様を見る。

「仏像や刀剣などを専門に狙う泥棒集団じゃ。場合によっては手荒なこともするらしい。おそらく、佐平太が突き飛ばされたときに後ろに見たのは、四手井家の毘沙門像じゃろう。長い間、四手井家にあったものじゃ。見間違えることはないであろう。突き飛ばしたのは盗んだ奴らじゃろう。そして気が付いた時に、つまり700年後の、この今の世で見たのは、窃盗団が一時的に保管している盗んだ仏像たちかもしれん」

「700年前の窃盗団と現代の窃盗団…」

オレが呟くと、

「まぁ、つながりはなく偶然ではあろうが、いつの世にもそういう輩はおるからのぅ」

とじー様が答える。

「確かにあのお堂は、都方面からの毘沙門堂参道からは外れておりますので、知っている者でない限り近くを通ることもあまりないと思われます」

佐平太も窃盗団説を信じたような口ぶりだ。

すると、

「八瀬殿!」

と一年が立ちあがりながら、オレを見て言った。

「他にあてもないので行ってみますか!」

と言いながらオレも立ち上がった。


するとじー様が、

「少し待ちなさい」

と言って部屋に行き、二枚の名刺を持って戻ってきた。

見れば、下鴨警察 警部補 高野左京、四手井浩二 とある。

「四手井とは珍しい苗字なので、お前さんと関りがあるかもしれん。困ったら尋ねてみるといい」

と言って名刺を渡してくれた。


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