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(3)修学院村

村へ続くメインストリートと思しき道の先には、前にはなかった頑丈そうな、大きな門が立っていた。ご用のないもの通しゃせぬ、という歌が聞こえてきそうな堅牢な門だ。さて、門だけに、どうしたモンか、と途方に暮れていたら、

「お任せを」と佐平太さんが言った。


佐平太さんは門の前に立ち、

「開門! 某、山科は音羽村の四手井佐平太と申す。本日は修学院村お館様の名和一年殿に当村お館就任予定の四手井新平太よりの書状を預かり参り仕った。どうか開門願いたい!」

と大声で叫んだ。


しばらくすると、ぎぃっと音がして門が開き、誰かが出てくる。…源太だ! 夕暮れとはいえ、まだ人の顔が識別できなくなるくらい夕闇が迫っているわけではない。数人の若武者を伴って門から出てきたのは源太だった!


源太は、杖をついた佐平太を見て、そしてゆっくりとその後ろに立つオレとハナちゃんに目をやった。目が合うと、オレは、

「よっ!」

てな感じで手を挙げた。すると源太の目が見る見るうちにまん丸く開き、驚きの表情に変わった。


「八瀬殿、それにハナ殿!」

叫ぶが早いか、源太は踵を返し村の中へ戻っていった!

「え? あれ、源太…」

とあっけにとられていると、

「一年様ぁ、八瀬殿とハナ殿がぁ!!」

と叫ぶ声が聞こえた。

残された若武者たちは、え、なに、どうすればいいのこれ、的な表情でお互い見つめ合っている。佐平太も、自分ではなく後ろの二人の名を叫んで戻るとは、一体何ごと的な表情だ。


しばらくすると、全力ダッシュの駆け足の音が聞こえてきた。息を切らせて出てきたのは、一年と正孝だった! 二人は大袈裟なくらい八瀬殿、ハナ殿!といいながら駆け寄り、変わりはないか、元気であるか、よくぞ来てくれたと、こちらの返事も待たずに一気にまくし立てた。


オレは少々気圧されながらも、

「あ、あぁ、元気だよ、ありがとう。ご無沙汰だね。でもね、今日の主役はこの人なんだよ」

と佐平太を指さした。

佐平太は、いったい誰だろう、と言う顔をしていたので、オレが、

「さっき見せた写真は戦ぞなえの姿だから、ちょっと違って見えるかもしれないけど、こちらがお館様の名和一年殿だよ」

と紹介してあげたら、

「えぇっ」

と驚いてから、痛い足腰をひきずりながら2歩3歩と近づき、片膝ついてさきほどと同じ挨拶をした。

一年は、

「おぉ、新平太の! そうか、そうか。遠いところご苦労であった!」

とバシバシ肩をたたいて遠路の訪問をねぎらっていたが、痛そうにしている佐平太を見かねてハナちゃんが、

「一年さん、実は、佐平太さんは山で転んでけがをしているの」

と伝えると、

「そ、それは申し訳ないことをした」

と謝り、若い衆に、すぐに屋敷に運び手当てするように指示を出してくれた。くれぐれも丁重にな、と付け加えて。


若い衆に抱えられて屋敷に入って行く彼らとすれ違うように出てきたのは千姫だった。ハナちゃんが目ざとく見つけて、千早ちゃんと叫んで駆け寄った!


二人は手を取り合って再会を喜んだあと、食事は済まされましたか、泊っていけるのでしょう、今日はどうして、いやどうやってこの時代に?など、ハナちゃんも矢継ぎ早の質問攻めにあっていた。


オレは、登山をしていたら雷雨に遭ってお堂に避難したこと、そのお堂の中で佐平太さんを見つけたこと、雨が止んだのでお堂を出たら一年たちの時代であったこと、そこから頑張ってここまで歩いてきたことを話した。そうでしたか、と頷きながら、一年は、

「某と佐平太の兄、新平太は幼少のころ、毘沙門堂門跡の寺で、互いに修業を積んだ仲です」

と説明してくれた。


その晩は一年や正孝たちが盛大な夕食でオレたちをもてなしてくれた。宴もたけなわになったころ、ハナちゃんが

「そうそう、櫛は受け取ったよ、千早ちゃん! ちゃんと大切にしてる!」

「今日は持ってないのですか?」

「山に行くときは部屋にしまってあるの。だって、持ってたら今日みたいなとき、健太郎だけこっちの時代に来て、私は置いてきぼりになっちゃって千早ちゃんたちに会いに来れないでしょ?」

「そうでした。あの櫛は、今は村のお寺に預けてあるんでした」


「ところで」

と真顔になるハナちゃん。


「千早ちゃん、一年さん、どうしてあの櫛を私にくださったのですか!」

あぁ、と言って顔を見合わせる千早と一年。

「いつか生まれるかもしれない、お二人のお子様が持つべきでは!」

とハナちゃんが聞くと、

「もちろん、それも考えました。一年様とも何度も話し合いました。でも、ハナさんと八瀬様のご活躍のおかげで、私はあの櫛を母に渡すことができ、その結果帝も健康を取り戻され、櫛が私の元に戻ってきました。ですから、この櫛はハナさんにお持ちいただくのが一番いいと考えたのです。私たちが子を持つことができた時には、村一番の刀鍛冶に守り刀を打ってもらいますからご心配なく」

千姫はニッコリ笑って説明してくれた。そして続けて、

「ところでハナさん、あれから比叡山には登られました?」

「うん、今でも健太郎とたまに登ってるけど?」

「途中の、最澄様が休まれたと言われる岩に一年様が彫られた文字を覚えておいでですよね? あれから見ました?」

「あ、そういえば、最近は見てないかも」

「では次登ったらぜひ見てみてください!」

「え、なになに、教えて!」

「うふふ」

いたずらっぽく笑って、次はぜひ見てください、と言うばかりの千姫だった。


正孝は、一年の小刀を譲り受けるほどになったことを父親に認められ、家督を相続することになったと教えてくれた。そのお披露目式の案内を親類縁者に出したとかで、なんとオレにまで招待状をくれた。

「え、オレなんかが出てもいいの!?」

「もちろんです。もっともその時に八瀬殿とハナ殿がこっちにおられれば、の話ですが。某としてはぜひともお立合いいただきたく思っております」

「ありがとう! ババ様とじー様に何とかしてくれって頼んでおくよ!」


「それで…せっかく返していただいた小刀なのですが…」

「小刀って、あの一年の?」

「はい、それです」

「返すも何も、あれは預かってただけだし」

「まぁ、そうなのですが、きちんとお伝えせねばと思いまして。実は、家督を継ぐにあたって、一乗寺家の守り刀を新しく打ってもらうことになりました」

「おぉ、それはすごい!」

「はい。それで、一年とも相談をして、あの小刀は、元はと言えばお館様の守り刀でしたので、今後もこの村を見守っていただけるよう、村の寺に奉納することといたしました」


「…え、ちょっと待って。村の寺って、オレたちの時代の千丘寺の元になるお寺、だよね?」

「えぇ、以前確かそのようなことを仰っていたかと思いますが」

「あるよ! ある、その小刀! 今もある!」

「えぇっ!」

「今回ここに来る前にさ、千丘寺に寄ったらじー様が蔵にあったからと見せてくれたんだよ。傷も錆もなく、きれいな状態だったよ!」

「ほ、本当ですか! ということはこの村をずっと守って、そして玉依姫様と一緒に千丘寺に伝わるのですね!」

正孝は天を仰ぎながら、あぁよかったぁと呟いた。


それからオレたちは数日の間村に滞在した。千種さんのお墓参りもしたし、一年たち以外にも知った顔があって懐かしかった。改めて、これが千種さんが命を掛けて守った村なんだ、と実感した。


ハナちゃんは相変わらず子供たちの人気者だ。写真もいっぱい撮った。充電器も持ってきてたし、士道覚悟、どうだ!


佐平太のねん挫の具合もだいぶ良くなり、そろそろ山科に帰るという。一年は、新平太には文で事情を知らせてあるのだから、もっとゆっくりしていってはどうかと勧めたが、

「いえ、体も治りましたし、これでも弟なので、兄のお館就任の準備を仕切らねばなりません」

と、気丈なところを見せた。ならばと一年が、

「佐平太の見送りがてら、我らも千早のおじい様である帝の御機嫌伺にでも参ろうか」

ということになり、一年、正孝、源太、千早、ハナちゃん、そしてオレ、の六人で久しぶりの旅となった。そして、今回は佐平太も一緒だ。


御所に行くからだろうか、三人衆はいずれも侍の正装で二本差しだ。加えて源太は矢筒も背負っている。久しぶりにこのメンバーでの旅なので、心なしか、みんなニコニコしている。

ただ、ちょっと気になることがあったのオレは一年に聞いてみた。

「お館様の一年が村を空けて大丈夫なのかい?」

すると、

「帝の孫娘が嫁いでくれましたので、襲ってくる敵などもうおりませぬ」

との返事だった。うん、確かに。


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