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(2)四手井佐平太

翌日、ハナちゃんの気晴らしと、昨日のリベンジで大文字から山科方面へ降りて、焼き肉下山ランチでも食べようとハナちゃんと出発した。


火床までは快調だったが、三角点を過ぎたあたりから俄かに雲が出て来て、毘沙門堂方面に降りるときにはゴロゴロと雷雨になってしまった。オレたちはたまたま見つけた古いお堂の屋根の下でしばらく雨宿りをさせてもらうことにした。


ざあざあと雨が振る中、時々、ゴロゴロとカミナリが鳴る。


その時、ゴトンとお堂の中から音がした。思わず顔を見合わせるオレとハナちゃん。ハナちゃんが格子の隙間から中を覗いたとき、稲妻が光って、

「ひ~」

っと言って後ずさった。そして、お堂の中を指さしながらこっちを向いて、

「ひ、人!」

と言った。

先に雨宿りしてた人だろうかとオレも覗いてみたら、それは確かに人だったが、登山者ではなく、なんと侍だった!

「侍だよ」

と言ってから、勇気を出して扉を開けてみた。そこには大小たくさんの仏像が置いてある中、一人の侍が倒れていた。よく見れば腕から血も出ていて怪我をしているようだった。


オレは、相手が侍なので、

「もし、どうなされた!」

と三人衆のように声を掛けてみた。すると、その侍は、かろうじて頭をもたげ、

「そ、某は山科は音羽村の四手井佐平太しでい さへいたと申す。こ、この書状を修学院村の名和一年なわ かずとし殿にお届けくだされ」

と言って、オレに書状を渡してよこした。

「一年だって!? おい、しっかりしろ、まさか足利にやられたのか!」

「な、何者かに突き飛ばされ、お堂の階段から転げ落ち…」

そこまで言って、もたげた頭ががくっと落ちた。

「え、死んだの?」

驚いたようにハナちゃんが聞く。

「いや、息をしてるから気を失っただけだと思う」


その侍は、刀は差してるけど、足軽のような恰好ではなく、何となくよそ行きっぽい正装に近い格好に思えた。

「それにしても修学院村の名和一年にって…この人、700年前から来たってことだよね?」

オレはハナちゃんに聞いてみた。

「そうね、間違いないでしょうね」

「参ったなどうしよう。放っては置けないし、外は雨だし、止むまでここで待つしかないか」


しばらくすると雨も止み、四手井佐平太なる侍も目を覚ました。

オレたちは水を飲ませ、手持ちのチョコやら一乗寺中谷の栗羊かんを食べさせた。腹が減ってたのか、それともチョコレートの甘さに感激したのか、ついさっきまで気を失っていたとは思えないくらいに、むしゃむしゃと食べた。そんな佐平太に、

「修学院村の一年はよく知っているが、冷静に聞いてくれ。佐平太さんが今いるここは700年後の世界なんだよ。なので、この書状を渡しようがないんだ」

とオレは真実を伝えた。


佐平太は、かつての一年たちのように、何を言ってるんだ、信じられない、と言った表情だったので、例によってスマホで写真を撮り、それを見せつつ、以前に撮った一年たちの写真も見せたら、

「なんと、これはどうしたことか! 一年殿ではないか! そこもとは一年殿をご存じであったか!」

と驚きながらも信じてくれた様子だった。


「ところで書状を一年に渡せと言ってたが、この書状には何と?」

聞いてみたら、

「読んでもらって構わない」

と言うので、開けてみたけど、達筆すぎて…読めなかった…。

そう伝えると、佐平太さんは、

「自分の兄の四手井新平太しでい しんぺいたが音羽村のお館に就任するので、その祝いの席にぜひご招待したいと書いてあります」

と説明してくれた。

「なるほど、それは大切だ。一年に届けたいのもよくわかる。でもとにかく今は、ちゃんとした手当した方がいい。雨も止んだし、オレたちが送るから下山しよう」

と提案し、佐平太さんもしぶしぶながら頷いてくれた。


そしてお堂の扉を開けると、周辺の木々の様子が入った時と異なっていた。ハナちゃんも気付いたようで、

「健太郎、これって、まさか700年前?」

「うん、どうやらそんな感じ」

カラスの鳴き声がするので、上を見たらヤタガラスが、いや正確には足が3本かどうかまでは確認出来なかったけど、くるくると旋回していた。

オレとハナちゃんは顔を見合わせて確信した。


「佐平太さん。どうやら佐平太さんの時代に戻ったみたいです。これなら一年に会えるけど、どうしますか」

と聞いたら、兄から預かった手紙を届けねばならぬし、自分は大丈夫だから、修学院村まで行くという。


骨折とかはしていないようだったので、オレとハナちゃんは、手持ちのバンドエイドやテーピングで佐平太の応急手当てをして修学院を目指すことにした。ぺたぺたと自分の体に張られていくテープを見て、不思議そうな顔をしていた佐平太だけど、痛いと言っていた足首を、ハナちゃんが何とか法とかいう貼り方でしっかりテーピングしたら、普通に歩ける!とびっくりしていた。ハナちゃんはああ見えて、学生時代はバスケ部のマネージャだったので、テーピングとかは得意なのだ。


さて、このまま山科に降りてしまうと遠回りなので、オレたちは大文字方面に戻ることにした。ただ修学院まではさすがに遠いので、オレのアパートで一泊したいところだが、700年前にそんなものがあるわけもなく、頑張って歩くことにした。佐平太の様子を見ながら、休み休み歩き、なんとか夕方には見慣れた雲母坂に到着した。


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