(10)ババ様のお礼
祠が戻ってきて、じー様は防犯カメラを新しくしたそうだ。なんでも今度のものは夜間でもばっちり映る赤外線式とのことだった。他にも人感センサーやらセキュリティ会社と契約したことなどの防犯自慢話を聞いていたら、
「茶でもどうかな」
とババ様がまた茶を運んで来てくれた。が、そのババ様を見て、オレとハナちゃんは、
「え!」
と言ったきり、固まってしまった。
なんと、金色と朱色、二人のババ様が茶を運んできたのだ!
「何で、金色のババ様まで!?」
驚くオレたちに向かって、じー様が事情を説明してくれた。
なんでも、先週ハナちゃんが預けた櫛を、一年の小刀と一緒に御樋代の中に収めたところ、何日かして金色のババ様が現れるようになったとのことだった。自分の光から作った櫛、つまり金色のババ様の分身がここに置かれるようになったので、河合神社だけでなく、ここにも出て来れるようになったのではないか、と言っていた。
「それからちょいちょい出てくるようになってな、おかげで金色と朱色のババ様とは、すっかり茶飲み友達じゃわい」
と笑っていた。
「ということは、祠の御樋代の中には、ご神体の鏡と小刀と櫛があるってことですよね。まさに三種の神器!」
とオレが言うと、
「その通りじゃな」
とじー様も頷いた。
ハナちゃんがババ様二人に向かって、
「ババ様、私たちと700年前の千早ちゃんたちが、何かやり取りできる方法はありませんでしょうか?」
と聞いた。
「わしは700年前にはまだおらんから無理じゃ」
とは朱色のババ様。
「河合神社の祠の御樋代の中に手紙を置いてみたらどうじゃ」
とは金色のババ様。
「ん?」
なんで、と聞くハナちゃんに、
「お主たちには茶を淹れるだけでは足りんくらい世話になったからのう。御樋代の中に入るものであれば、あっちとこっちを行き来させてやるわい。手紙や写真ならやり取りできるじゃろ」
「ホントですかーっ!」
と叫んだ、ハナちゃんのその瞬間の顔こそ写真に撮りたかった。
確かにオレにとっても嬉しい申し出には違いなかったが、
「しかし、私たちが勝手に祠を開けるわけには…」
とオレが冷静に聞くと、
金色のババ様は、
「お主が巫女になればよかろう」
と事も無げにハナちゃんを指さした。
「いや、さすがにそれは…」
というオレ。
「その手があったか!」
と喜ぶハナちゃん!
彼女は決めたら動くのが早い。翌日早速巫女に応募し、まだ右も左もわからないお勤め初日に、大胆にも祠を開け、なんと、手紙ではなくスマホと写真の撮り方を書いたメモを置いたらしい。
翌日、朝のお勤めと称して、祠を開けたらスマホが無くなっており、日の入り前に、今度は夕方のお勤めと称して、祠を開けたらなんとスマホがあったそうだ!
急いでカメラロールの写真を見れば、一年に正孝、源太、千早、そして佐平太までも写った写真が何枚も入っていた。天にも昇る気持ちでやったーっとか叫んだに違いないハナちゃんにオレは、巫女の姿で、他の参拝客もいる祠の周辺でスマホをいじりながら大騒ぎするのはやめなさいと、一応忠告だけはしておいた。
こうして、オレたちは河合神社のババ様の力を借りて、祠の御樋代経由ではあったが、いつでも会話、というか手紙や写真の交換ができるようになった。
ハナちゃんは、河合神社の鳥居の前で、巫女姿の写真を撮ったスマホを祠に置いたら、千早からは、親指を立て、ウィンクしながら「いいね!」のポーズをした写真が返ってきた、と言って喜んでいた。こんなポーズ、どこで覚えたんだ…。
それからほどなくして、オレとハナちゃんは築70年を超える町屋を借りて一緒に住み始めた。もちろん、ババ様とじー様、千種さんの碑、そして千早たちにも報告した。オレたちの祝言には何としてでも出る、と一年が張り切っているらしい。
そして猫を一匹飼い始めた。三毛猫で、柄がちくわそっくりだったので、名前はそのまんま「ちくわ」にした。そのちくわが、オレたちを巻き込んだ大冒険をするのだが、それはまた別のお話し…。
了




