かんぱい と 合流
名古屋で酒の肴といえばー?
そう、手羽先です!
私たちはよっしーに連れられ、名城線1本で栄駅に戻ってきました。1本で来れたんです。
駅に着いて漸く、仁さんは栄を自分の庭だと言わんばかりに案内し始めました。我々は世界の山ちゃんを目指します。
途中、ビリヤードで少し時間を潰しました。仁さんはバックスピンで手前に転がして落としたり、背中側でスティックを持って打つなどの魅せプをしてきます。凄いと思いましたが、同時にムカっともしました。ここで、仁さんの恰好を思い出してください。独特な模様の高い上着に、ブルーのサングラスをしているのです。こうやって書いている訳ですから言語化すべきでしょうが、ここは私の感情を皆さんの想像にお任せします。
ビリヤードを2ゲーム行い、いよいよ世界の山ちゃんです。手羽先と言えば、で出てくるチェーンの1つだそうです。
着席したところにあったのは、メニュー表、そして金属製の容れ物でした。容れ物は骨入れなのですが、デフォルトで置いてあるのは流石だなと感心しました。
さて、手羽先を食べるのですから、alcoholを頼まないといけませんよね。私はビール大ジョッキ、仁さんはコロナビール、そしてよっしーはジンソーダで乾杯しました。そう、「おつかれさまでしたー!かんぱーい!」と!
私の大ジョッキを見て、仁さんが「何でそんなでかいの頼んだん」と訊いてきました。尤もです。重いし、しかも私は左手の神経が痛んでいますので持ちづらいです。しかし、飲みたいのです。
「いーじゃん、これでも足りないくらいだもん。仁さんもそれでぶっ倒れないようにね」
私が仁さんの小さいコロナビール瓶を指すのを見て「流石に舐めすぎ」と言いました。しかし、実際ビール1杯で顔が赤くなる人なので妥当な指摘に違いありません。
「てか」
さらに仁さんが続けます。
「よっしーこそ絶対足りないっしょ」
「別にええんよ。
わしはあめがぶっ倒れたら連れて帰らないといけないけん」
彼のジンソーダは、一般的なジョッキに入っていましたから、酒に強い人なら何も感じない程度のものです」。
「大丈夫。よっしーはあめより飲んでも連れて帰れるから」
私は安心しました。
「じゃあ私はたくさん飲んでも大丈夫だ」
私たちは、胡椒のかかった手羽先を苦戦しながら食べ始めました。
「ねえ、手羽先食べるの難しくない?」
私は、2人に意見の同調を求めました。
「あめ手羽先食べるの初めてなん?」
「関東でも食べるけど、こんな食べ方しないから」
折って歯で引き抜く。食べ方が席に書いてあるのですが、簡単そうに見えてとても難しいのです。
私がそうして苦戦していると、仁さんのカバンからバイブレーションが鳴り、そのまま電話を取りました。
「ねえ、ウチのカノジョが次のバーで合流したいっていうけどいい?」
さあ、漸くタイトルの回収です。もちろん「いいよー、顔見たことないし。よっしーもいいよね?」と同意を促しました。
よっしーも同意したので合流することになりました。
「ごめんね、ホントは2人を家に泊めたがってたけど」
「嘘だあ」
「流石に気を遣うけん無理じゃあ」
当然です。そもそもホテル取ってありますしね。まあ取ったの私じゃなくてよっしーですけど。
「挟まれるなよ」
2軒目のバーの入り口は、回転扉になっています。それをくぐると(回転扉はくぐるで合っているでしょうか)、10人ほど座れるカウンターと、奥にテーブル席がいくつかあります。後は、皆さんが思う所謂“雰囲気の良いバー”のイメージで相違ないかと思います。
そして我々が席に着こうとすると、カウンター席から声が飛んできました。
「おう!」
「先週来なかったじゃん」
「今日は誰と?」
「2人とも遠くから?」
つまり、ここは仁さんの行きつけです。何人もの常連さんと、タメ口で話しています。余程来ているのでしょう。何かこう……、洒落すぎですよね。別に何も語りませんが。別に。
仁さんが、テーブル席を指定してもらって直ぐに言いました。
「じゃあ、オレのキープボトル入れるわ」
一度はバーで言ってみたいです。私は居酒屋になら焼酎のキープがありますが、全然違います。同じ蒸留酒でも彼のはウィスキーですからね。あ、私の行く居酒屋でもウィスキーありました。でもそうじゃないんですよね。
とはいえ、キープ=(私が払うのは)タダですからね、うれしい限りです。
「かんぱーい」
私たちはハイボールで2度目の乾杯をしました。
結局のところ、人の金で飲む酒がイチバン美味いんです。
そのあとは常連さんが席に遊びに来るなどしながら楽しくハイボールを愉しみました。
ハイボールが空いたところで、彼女は姿を現しました。
「仁さーん」
「紹介します。ウチのカノジョです」
私が仁さんのカノジョを見て思ったのは、
『普通だ』
です。
私は仁さんの家に行ったことがあるのですが、そこにはいくつか同じテーマの本が置かれていました。『発達障害』です。
仁さんのカノジョは──発達障害なのです。
仁さんが、カノジョさんを自分の隣に座らせます。
私は先ず、「何て呼べばいい?」と訊きました。歳上の可能性もありましたが(というか今も知りませんが)、酒の影響もあっていきなりタメ口で話していました。
「サヤちゃーん」
私は高専出身で陰キャですしDAZNの配信を観るのに忙しいため、あまり外出しません。ですから、自分をちゃん付けで呼ぶよう指定する人種と会ったことが無く、新鮮な気持ちでした。
「じゃあ、私はあめ、こっちはよっしーって呼んで」
「わかった!」
よっしーの了承を待たず、サヤちゃんは呼称を承知してくれました。
そして彼女は仁さんに甘えます。
「ねえねえ、仕事帰りで疲れたー」
「大変だったねー、おつかれさまサヤちゃん」
このとき、土曜の22時前くらいでしたので、じゃあそういう系の職種なのかな?と思ったことを記憶しています。
「そういえばさ、あめもラツーダ使ってんの」
仁さんが急に切り出しました。
「えー!嘘ーっ!?なかまー」
ラツーダは、向精神薬の一種です。ドーパミンやセロトニンの働きを調整し、気分や思考のバランスを整える薬だそうです。何の薬かよく知らなかったので、今書きながらCopilotに聞きました。
「私もね、3級なら取る準備できてるんだ」
「そーなんだ、アタシ2級」
これは、精神障害者福祉手帳の等級のことです。
「でも3級だと恩恵少ないよ?」
「まあそうなんだけどねー」
「何の症状で手帳取るの?
アタシは“AS──」
ここで仁さんが、「ちょっと、こういうとこで言うのはね?」と制してました。ASD──つまり自閉スペクトラム症のことです。
「私は──」
ここで仁さんが、ギロッと睨んできたのを思い出します。
せめてもの抵抗として「こんな感じ」と指を“波”の様に動かしましたが、サヤちゃんには伝わったようです。私は双極性障害です。ん?と思われた方のために、躁鬱病という言い方も記しておきます。
そして、お互いの大変さを労いました。
頃合いを見計らって、仁さんが話を切ります。
「じゃあ2人だけの話はやめにしてさ、飲も」
2人だけの話になるような薬の話を始めたのは仁さんですが、そこは黙っておきました。
「じゃ、ワインをボトルで頼もうよ。ジンファンデルがいいかな」
雰囲気の良いバーで品種名の注文しています。気取っていますね、ええ。私だって品種や産地を名前だけなら知っていますが、何かこう、ええ。
さらにボトルが到着すると、それを手に持った仁さんは片手で瓶を掴み各々のグラスに注ぎ始めました。ソムリエの注ぎ方ですね。
そうして歓談しているうちに、終電が迫ってきました。
「サヤちゃん、帰るよー」
「えー、まだ居たいー。
何でこの2人ウチに泊めないのー?」
サヤちゃんは駄々をこねます。
「ほらー、泊めたがってるって言ったでしょ?」
本当だとは思っていなかった。凄いな。
「だってみんなでスマブラやりたいんだもん
じゃあ明日着いていきたい!」
「明日10時集合だよ?起きれるの?」
「自分で起きようと思って起きれるわけじゃないもん。難しいけどさー」
「私は一緒に行くの全然いいよー」
取り合えずフォローします。
「わしもええよ」
よっしーも頷いてくれました。
同期で一緒に名古屋を回る機会は少ないですが、それはサヤちゃんと回れる機会と同数ですから。
私たちは玄関の回転扉の前で別れを告げました。
私はよっしーの案内通りにホテルへ行き、ゆっくりと休みました。




