第6話:ギルド長公認?!最強冒険者との公式対戦。
ギルドへと向かう道中、ティアは響夜に、先ほど倒した『ギガント・サラマンダー』がどれほど危険な上級モンスターだったのか、そしてそれが街に、どれほどの危機をもたらすはずだったのかを、丁寧に説明し始めた。
ティアの説明を聞きながら、響夜の頭の中では、『現世の記憶』が次々と呼び起こされる。
親友の瑞希が話していたラノベの話に、この状況がまさに酷似している事に気付き始めた。
(もしかして俺(私)……これ、異世界でありがちなチート能力まで持ってるの?!)
内心かなり混乱する響夜。
(いやいやいや、待て待て待て! そんなことある?! いや、でも、現に性別変わってるし、剣も勝手に出てきたし、あのデカいのもなんか斬っちゃったし……)
硬めの小説しか読まない自分にとって、この状況はまさに、難題過ぎた。
思わず小声でポツリと呟く。
「瑞希の話……もっとちゃんと聞いときゃ良かった……」
嘆く響夜の隣で、ティアは「え?」と不思議そうに首を傾げた。
「な……なんでもない…です」
響夜は慌てて首を横に振る。
ティアに促され、二人の目の前に冒険者ギルドの大きな建物が見えてくる。
「着いたわ」
というティアの声に、響夜は内心で大きく溜め息をついた。
* * *
ギルド本部の奥にある大会議室に、響夜、ティア、そしてコハクは呼び出された。
中央に鎮座する大机の奥には、見た目は10歳ほどだが、威厳を纏う和服を着たエルフの少女が腰掛けていた。
彼女はゆっくりと口を開いた。
「わっちがこの街、『旧王都ルアール』のギルドを統括する者。ギルド長の『瑠華』じゃ。以後よろしゅうな」
瑠華は扇で口元を隠しながら、花魁風の口調で告げた。
その右隣には、硬質な軍人のような男性が、まるで石像のように直立不動で立っていた。
左隣には、屈強の筋肉を纏った大男が、大剣を背負い、腕を組み立っている。
ドアを固める数人のギルド専属傭兵。
会議室の空気は張り詰めている。
そんな中、先に口を開いたのは、興奮冷めやらぬコハクだった。
「ギルド長っ!!」
真剣な眼差しで瑠華に訴える。
「キョウヤさんは凄いんです! 凄い冒険者になります! これから必ず必要になる人材! だから…! だからぁ…!」
言葉に詰まるコハクを、ティアが
「ちょっと、コハク!落ち着いて…!……しっ…失礼しました、ギルド長!」
と慌てて制止する。
瑠華は「ふふふ…」と静かに微笑んだ後、また右隣に視線を向けた。
「カインズ・アルファルド。そなた…殺気を出しすぎじゃ。新人が怯えておろう」
カインズはスッ…と目を伏せ、「……失礼しました」とだけ言った。
(怖かったぁ〜………)
内心で溜息を吐く響夜。
次に瑠華は左隣に視線を移す。
「それと……バルド・ラインハルザ。お主はもう少し、興奮を抑えよ。気持ちは判るがのう」
「はっはっは!悪ィな!久々に体が疼いちまってよォ!」
豪快に笑う。
そして、バッ!と響夜に向かって「なァ!にいちゃん!」と呼ぶ。
「え?俺?」と驚く響夜。
「ありがとな!本来なら俺らが駆けつけなきゃいけなかったんだがよォ!マジ助かったぜ!」
バルドの言葉に、少しだけ緊張感が解ける。
彼は改めて名を名乗る。
「バルドって呼んでくれな!俺ァ、普段はギルド長専属護衛やってんだがよォ。冒険者ランクはAで『緋色の剣』のリーダーもやってる!」
響夜の隣で、少し緊張気味のティアが、小声で補足をする。
「キョウヤさん。あの人は、この『ルアール』の街で最強の冒険者よ」
「さ……最強?!」
響夜は驚愕する。
「だっはっはっ!!そう褒めるなよ、ティアの嬢ちゃん!嬢ちゃんだって、最近活躍してるじゃねェか!」
「き……恐縮です」
とティアは軽く頭を下げた。
そしてまた大声で、がははと笑うバルド。
ちらりと瑠華は、目線を右にやる。
「カインズ。お主も自己紹介せぬか」
「……」
また、沈黙が流れる。
「カインズ」
また瑠華に煽られ、仕方なく口を開く。
「カインズ・アルファルド。瑠華の秘書を務めてる」
瑠華はふふ…と笑い
「お主は…相変わらず堅物じゃのう。……さて」
ぱしん!…と、扇を閉める瑠華。
「報告を聞こうかのう」
場の空気が切り替わる。
少し小さく深呼吸をし、ティアが説明を始めた。
正確に見たままを。
* * *
「ふむ……。成程のう」
「ふん!すげえな。俺でも一撃じゃぁ倒せねえ。やるじゃねえか!」
「………」
瑠華は再び扇を広げ、響夜へまっすぐ視線を向けた。
「さて、キョウヤ。わっちらは、聞いた話が真実なのか、確かめる必要があるのじゃが……」
響夜が「え…?」と困惑の声を漏らすと、瑠華は続ける。
「心配しなすんな。そなたを疑っておるわけではない。ただ、ギルドの秩序と、この街の安全のためじゃ」
その言葉に、バルドは待ちかねたようにニヤリと笑う。
「フフ…。待ってましたと言わんばかりじゃのう、バルド。よかろう、真実を確かめるのに最も手っ取り早い方法は、実際に目の当たりにするのが一番じゃ」
瑠華はそう言うと、静かに立ち上がり、会議室にいる傭兵たちに命じた。
「人払いを済ませよ。場所は闘技場じゃ」
その言葉に、バルドは瞳を輝かせ、ワクワクしながら、部屋を出る。
一方、響夜は突如として浮上した状況に、ただ茫然と立ち尽くすばかりだった。
「キョウヤ。これからバルドと公式試合じゃ。覚悟は良いか?」
瑠華の視線が響夜へと向けられる。
そのセリフに響夜は驚愕した。
「え…?!俺…?!」
「ゆくぞ」
(ちょっと待って…!なんで俺抜きで話進んでるの?!)
響夜は内心ずっと混乱ばかりでどうしたらいいか判らなく、困惑していた。