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最終話:旅立ちの空へ、繋がる感謝の想い。

 イーストブルグの街に、別れの時を告げる鐘の音が響く。

 武具の最終調整が終わり、響夜たちが『聖なる森』へと帰還する日がやってきた。

 昼前の広場は、朝早くから集まった大勢の街の人々で溢れかえっていた。

 彼らの凱旋を祝うかのような賑やかな声が、あちこちから聞こえてくる。


「キョウヤ様、本当にお世話になりました! これ、つまらないものですが、ぜひ旅のお供に!」

「ラジアナ様、お元気で! またすぐに遊びにいらしてくださいね!」


 温かい祝福と惜別の言葉が飛び交う中、響夜は笑顔で応えながらも、心のどこかに寂しさを感じていた。

 この街で出会った人々の温かさに触れ、彼にとってイーストブルグは、もはや単なる拠点ではなく、大切な思い出が詰まったもうひとつの故郷となっていた。

 しかし、喜びと感謝の裏で、一つだけ頭を悩ませる問題があった。

 街の人々が持たせてくれた贈り物の量が、予想をはるかに超えていたのだ。

 山と積まれた食料品や日用品、手作りの土産物など、とても一回のフライトでは運びきれない。


「うーん……どうしたものか。これじゃラジアナの背に乗るスペースも危ういな」


 響夜が困ったように呟くと、隣にいたラジアナが少し申し訳なさそうに言った。


「僕が一旦、荷物を森まで持っていって、二往復しようか? 少し時間はかかるけど、それが一番確実じゃないか?」


 真剣な彼女の提案に、響夜は慌てて首を振る。


「いや、それは流石に申し訳ないよ、ラジアナ。君にばかり負担をかけるわけにはいかない」


 と、その時、広場の片隅から聞き覚えのある声が響いた。


「水臭えぜ、ラジアナの姐さん! 良かったら、オレらが運びますぜぃ!」 


 声の主は、ラジアナが日頃から気にかけている、竜族の五人衆だった。

 彼らは屈強な体躯を誇り、このイーストブルグの有名な運び屋パーティーだ。


「ホントか?! うわぁ…助かるう! じゃあ、頼めるか?」


 ラジアナが笑顔で返すと、五人衆は胸を叩いて応えた。


「へっ、任せてくださいよ! いつも姐さんには世話になってるんでね! それにキョウヤ様にもこんなに世話になったんだ!なんかお返しぐらいさせて下さいよォ!」


 彼らの言葉に、響夜は感謝の気持ちで一杯になる。


「ありがとうございます。本当に助かります」

「良いってことよォ!」


 いよいよ出発の時が迫り、ラジアナの家族や友人たちが別れを告げに来た。


「ラジアナ! キョウヤさんの言う事、ちゃん聞くんだよっ!」


 ラジアナの義母が、目に涙を浮かべながら、それでもしっかりと彼女の肩を叩く。

 その隣では、友人が今にも泣き出しそうな顔で、ラジアナに訴えかけた。


「ラジアナ! ちょっとでもいいから、たまに帰ってきて元気な姿を見せてよ!」


 そんな賑やかな別れの風景の傍らで、ラジアナの義父が響夜の元へと歩み寄ってきた。

 彼は少し照れくさそうに、しかし真剣な眼差しで響夜を見つめ、深々と頭を下げた。


「キョウヤさん。ウチの馬鹿娘……いや、ラジアナの事、これからもどうか、よろしくお願いします」


 その言葉には、親が子を託す切ない思いと、響夜への絶大な信頼が込められていた。

 響夜もまた、義父の言葉に心を打たれ、深く頭を下げた。


「ラジアナは、俺にとってかけがえのない仲間です。それに…こちらこそ、本当に長い間お世話になりました。ありがとうございます」


 響夜が真っ直ぐに答えると、義父は満足そうに頷き、そして静かに広場に集まった人々の方を向いた。

 響夜もそれに倣い、これまで出会ったイーストブルグの全ての人々に向けて、心からの感謝を込めて深々と頭を下げた。

 ラジアナの背には、旅の安全と快適さを考慮して特注であしらわれた、六人乗りの豪華な鞍が装備されていた。

 それはまるで、遊園地にあるような、誰もがワクワクするような乗り心地を約束する特別仕様だった。

 響夜、ティア、コハク、リアーナ、リゼッタ、そして、特注で作成してくれた武具を乗せ、ラジアナは大きく翼を広げた。

 街の人々が手を振り、声援を送る中、ラジアナの巨体がゆっくりと空へと舞い上がる。

 夕日に向かって力強く飛び立った竜の姿は、まるで新たな伝説の始まりを告げるかのようだった。


 煌めく夕陽が彼らを包み込み、光の中へと消えていく。

 彼らの背後には、暖かな街の灯りが小さく瞬いていた。




『黎明篇』 完。

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