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第40話:月光の誓い、涙を包む優しき抱擁。

 リゼッタの場を後にした響夜は、蛍の舞う洞窟内をしばらく走り続けた。

 ひんやりとした空気が頬を撫で、時折、微かに光る蛍が彼の行く先を照らす。

 やがて、奥にまばゆい光が見え始めた。

 出口に辿り着き、響夜は思わず眩しさに手を翳す。

 視線を上げると、三日月の逆光を背負って、一人の人影が立っていた。

 そのシルエットは、まるで月の女神アルテミスのようにも見えた。

 だが、そこにいたのは『女神』ではなく、聞き慣れた少女の声だった。


「キョウヤ!」


 そこに立っていたのは、ティアだった。

 彼女は駆け寄ってくると、申し訳なさそうに眉を下げた。


「ごめんなさい。私たちの我儘に付き合わせて……」


 ティアの言葉に、響夜は優しく首を横に振る。


「ううん…嬉しいよ。ありがとう」


 響夜はティアと向かい合った。

 彼女の胸元には、月光を反射してきらりと光るブローチが輝いている。


「うん…すごく似合ってる」


 嬉しそうな表情で、素直な気持ちを伝える響夜。

 その言葉に、ティアは顔を赤くし、少し俯いた。


「あ…ありがとう、キョウヤ」


 二人の間に、しばらく沈黙が流れる。

 しかし、それは決して気まずいものではなく、これまでの多くの時間を共有してきた二人にしか許されない、穏やかな沈黙だった。


 響夜は、初めてティアに会った日のことを思い出していた。

 あの時、まさかここまでの長い付き合いになるとは

 夢にも思っていなかった──。

 ティアに導かれ、さまざまな人々と触れ合い、多くの事を経験させてくれた。


「これが、俺に出来る精一杯の感謝の気持ち…かな。ちっぽけな形になって、申し訳ないけど……」


 響夜は照れたように言う。

 ティアは顔を上げ、彼の言葉を遮るように震える声で訴えた。


「ちっぽけだなんて……! そんな事…ッ」


 響夜はそんなティアの唇を、人差し指で優しく塞いだ。


「そのブローチに補助魔法を付与してある。壊れない限り、その補助は継続するから、上手く活用してほしい」


 響夜の言葉に、ティアは驚きに目を見開いた。

 そして、改めて胸元のブローチに視線を落とす。


「……そうか…。だから……こんなに暖かいんだ……」


 ティアはゆっくりとブローチを頬に押し当て、目を閉じた。

 響夜からの贈り物に、心からの感謝を捧げるように。


「キョウヤ。何が付与されてるの? 教えて!」


 興味津々に、ティアは響夜にぐっと距離を詰めてくる。

 さすがは魔法に特化したエルフ族。

 魔法に関する事の好奇心は隠せない様だった。

 響夜は微笑みながら、その性能を説明し始めた。


「『精密射撃(イーグルアイ)』っていう補助魔法だよ。君の弓の腕前を更に補助出来る。どんな状況下でも的を捉える視認能力と、矢の軌道を修正し命中精度を極限まで高める効果がある」


 ティアは再びブローチを見る。

 美しく煌めく銀の光沢。

 その精密に象られた弓の形は、月明かりに美しく反射する。


 「……だめ。嬉しくて…また…。ごめんなさい……泣かないって……決めたのに…こんな…」


 ティアの瞳から、再び大粒の涙が溢れ出した。

 響夜はそんなティアを、そっと引き寄せて抱き締める。


「…ッ?!」

「これなら、君の涙は見えないよ。だから、我慢しないで」


 響夜の優しい言葉に、今まで抑えていた感情が一気に流れ込む。

 ティアは響夜にしがみつき、胸に顔をうずめ、感情を爆発させた。


 ティアの暖かい体温を感じながら、響夜は満天の星と月光を見上げた。

 かつては孤独だった彼の世界に、これほど色彩豊かな光が差し込むなど、想像もしなかった。

 咲き誇る花々、舞い踊る蛍、そして傍らにいる大切な仲間たち。

 この瞬間の輝きが、彼の心に深く刻み込まれていくのだった。

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