第37話:夕焼けの空へ、冒険の翼広げて。
コハクに言われ、響夜は公園に足を運んだ。
夕暮れ時。
街の喧騒から少し離れた公園は、静かな時間を迎えている。
「キョウヤぁぁーーー!!」
響夜が公園の入り口に差し掛かると、高く澄んだ声が響いた。
視線を向けると、そこにはすでに、ラジアナがベンチの背もたれに立って、大きく手を振っていた。
響夜は急いで彼女の元へ向かう。
最短ルートを熟知しているかのように、周囲にある岩々を軽々と飛び交い、階段を上がるのを省略して、ラジアナの元へと鮮やかに着地した。
「ヒューーー♪」
ラジアナは、響夜の鮮やかな動きに口笛を吹き、拍手を送る。
「んー! 身軽! さっすがキョウヤだねッ!」
「これぐらい、ラジアナだって出来るでしょ?」
響夜がそう返すと、ラジアナは少し首を傾げた。
「うーん。キョウヤほど最短でここには来れないかなぁ……。やっぱ竜族って元は竜だし、人の姿していても、質量は変わらないんだよ」
「へえ…そうなんだ」
「あ! それより! これ!!」
ラジアナは、耳元でチャリ……!とクリスタルが揺れる音を立てながら、自慢げにピアスを見せた。
「早いね。もう付けてくれたんだ」
響夜の言葉に、ラジアナはクリスタルを指で摘まみながら、不思議そうな表情を浮かべる。
「これ……なんだ? こんな魔石は見たことないんだけど?」
ラジアナの問いに、響夜は答える。
「それ…多分魔石じゃないよ。クリスタル」
「えー? あ……確かに、見た目はクリスタルだな……」
ラジアナが納得したように頷くと、響夜は少し照れたように付け加えた。
「おまけ要素として、補助魔法を付与しているから、違和感を感じたのかも」
「えっ?! ホントか?!」
ラジアナは身を乗り出し、響夜に顔をぐっと近付け、目を輝かせた。
その勢いに、響夜は少し後ずさる。
「あ…うん……。なんか、不味かった?」
「いや…。アイテムに補助魔法……。かなりの魔法士……いや、大魔導師ぐらいの魔力が無いと出来ないことだぞ!」
「そ…そうなの?」
「うん! ウチの鍛冶師でも、出来る人は限られてるし、付与できるとしても、一日に一・二回程度が限界なんだ」
「そ…そうなんだ……」
響夜は、自分の行動がどれほど稀有なことだったのかを知り、マズったかな……と、少し青ざめた。
だが、ラジアナはそんな響夜の様子には構わず、更に前のめりになる。
「それでそれで! なにが付与されてるんだ? 教えてくれよ! キョウヤぁ!!」
「あ、えーと……ラジアナのピアスは『飛翔加速』だよ。君の持つ竜族としての身体能力、特に飛行能力を強化する魔法かな。一時的に風の抵抗を減らして、飛行速度や滞空能力を高め、空中での機動力を向上させる……てとこかな」
「うわあぁ…! 僕にぴったりの魔法! ありがとう! キョウヤ!!」
無邪気に飛び跳ねて喜ぶラジアナ。
夕日を浴びながら、その場でクルクルと回り、喜びを全身で表現した。
そして、ピタッと動きが止まり、真剣な眼差しで響夜を見つめる。
「?……なに?」
響夜が問いかけると、ラジアナは満面の笑みを浮かべた。
「試そうか!」
「え……?」
響夜が困惑する間もなく、ラジアナは一瞬にして巨大な竜の姿へと変える。
彼女は強引に響夜を背に乗せ、そのまま大空へと飛び立つ。
「うわーー!!」
「あはははは!!!」
二人の声が、夕焼けの空に吸い込まれていく。
眼下には、先日激戦を繰り広げた戦場、『オルデン平野』が広がっていた。
夕日が地平線に揺らめき、平野をか細く照らしている。
橙色とほんのり紫がかったグラデーションの空は、どこまでも続く。
「キョウヤ、本当にありがとう! 僕、君に会えて、本当に嬉しい! これから君とこうしてたくさん冒険できるんだね! 凄く……楽しみだ!!」
「……こちらこそ、ありがとう。ラジアナ」
二人は空中で笑い合い、暫く夕闇の空を駆け巡るのだった。




