第36話:秘められた贈り物の力、心暖まる想い。
響夜は、独り宿に戻って、自室の窓枠に腰掛けていた。
遠くの景色を眺め、風に当たる。
だいぶ気持ちも落ち着いて、冷静になってきた……その時だった。
コンコン、と控えめなノックの音が響く。
「き……キョウヤさん? いらっしゃいますか?」
(……! コハク?)
予想に反して、意外な人物に響夜は驚き、すぐにドアに向かい、開けた。
「あ……あの…」
コハクは、顔を赤らめながら、もどかしそうに言葉を探している。
だが、意を決したようにパッと顔を上げた。
「キョウヤさん! 少しお時間をく……く、く、くださいッ!」
その必死な様子に、響夜は目を丸くした。
もちろん、断るはずもなく、彼は優しく促す。
「うん。とりあえず中入って」
「お……っ、お邪魔しましゅ……ッ!」
緊張のあまり、コハクが言葉を噛んだ。
その可愛らしい失敗に、響夜は思わずくすっと笑ってしまう。
「わ…ッわわ…笑わないでくださいよぅ…!」
コハクは、両手をぶんぶん振って、恥ずかしい気持ちを紛らわせる。
その時、彼女の胸元から微かな音が響いた。
チャリ……!
「!」
それは、小鳥のチャームが付いた懐中時計。
先程、響夜がコハクにプレゼントしたばかりの懐中時計だった。
「うん…かわいい。似合ってるよ、コハク」
響夜は嬉しそうに、コハクに微笑んだ。
「ふえ…?!…は、はい! とってもかわいい懐中時計を、ありがとうございます!!えっと…あの、キョウヤさん。この懐中時計、何か…普通とは違う感じがするんですぅ。なんかこう……微細な魔力を感じるというか……」
「さすが…。獣人族は鋭いね。俺なりに考えたおまけ要素……とでも言うのかな。みんなの贈り物に、補助魔法を付与しているんだ」
「ほえ……!」
コハクは、響夜の言葉に興味津々といった様子で耳を傾ける。
「コハクの懐中時計は、『状況察知』。広範囲の魔力の流れや、隠れた危険、有利な地形などを直感的に察知する能力を高める効果が付与してある」
「す…、凄い……!」
「以前、『ベイリー・スノー』を倒しに行った時に、咄嗟にバルドさんやカインズさんの剣に魔法を付与したことがあってね。その時はその場限りのものだったけど、このアイテムは、壊れない限りずっと継続するから」
響夜の説明を聞いて、コハクはさらに感動した。
彼女は懐中時計をそっと額に当てる。
チャリ……と、小鳥のチャームが揺れた。
「とっても…とっても素敵なプレゼント…。ありがとうございます…ッ!!」
涙ぐむコハクに、響夜はまた困ったように苦笑いを浮かべながら、人差し指でコハクの頬を伝う涙を拭った。
コハクは咄嗟に響夜の手を取り、自分の額に当てる。
「キョウヤさんから頂いた懐中時計……大切にします!」
「うん…」
コハクは、袖で涙を拭うと、きゅっと顔を引き締めて響夜に尋ねた。
「あの……差し支え無ければ、他の方に贈った贈り物に付与された魔法……どういったものか、教えて欲しいですぅ…!」
「え……? あ、うん。いいよ」
響夜が快く頷くと、コハクは身を乗り出し、興味津々な雰囲気で聞く体勢に入る。
耳をピーンと立て、嬉しそうに尻尾を振る姿は、まるで好奇心旺盛な子犬のようだ。
* * *
「キョウヤさん……やっぱり凄いですぅ…! 魔法の選び方のセンスが、しっかりみなさんの相性にぴったりですぅ!」
目を輝かせながら称賛し、感動するコハクに、響夜は照れたように苦笑いを浮かべた。
「役に立てれば良いけどね」
「立ちます! 絶対立ちますよ!」
コハクは力強く断言し、胸を張る。その真っ直ぐな言葉に、響夜はまた温かい笑みをこぼした。
コハクもつられてふふ、と笑い、二人で穏やかな空気に包まれる。
その時、ふと懐中時計に視線を落としたコハクが、ハッと息を呑んだ。
「コハク?」
響夜が声をかけると、コハクは慌てたように顔を上げる。
「きっ…、キョウヤさん! 貴重なお話し、ありがとうございました! あ…あのっ……! ラジアナさんが、呼んでました!」
「え? ラジアナが?」
唐突な話の切り替えに、響夜は少し困惑した。
だが、コハクの真剣な目に、すぐに状況を察する。
「…そうなんだ。どこに?」
「あの公園で……と」
「ああ、うん。わかった。……今日は楽しかったよ。ありがとう、コハク」
響夜の感謝の言葉に、コハクは再び頬を赤く染め、両手をぶんぶん振って否定した。
「ほぇ……! あ…、いえっ……、その…私も凄く楽しかったでしゅ……! ……ふぇ…」
またしても、緊張のあまり言葉を噛んでしまうコハク。
響夜はまた、その可愛らしい失敗に思わず吹き出した。
「笑わないでくださぁいーーーっ!」
コハクはまた顔を赤らめ、両手で隠す。




