第35話:真心に触れて、溢れる感謝の涙。
響夜にとっては、まさに波乱万丈な入浴となった。
湯に浸かって疲れを癒すどころか、違う意味で疲労困憊となった時間だった。
それでも、彼女たちの楽しそうな姿を見て、響夜は小さく笑みを溢す。
彼女たちに対し、自分に出来ることはないか、響夜なりに真剣に考えた。
そして、湯上がりで体が温まったばかりのその時。
「あ…、そうだ」
響夜は、少しだけ照れ気味にみんなに向き直る。
「今更かもしれないけど、これ……俺からみんなに」
そう言って響夜は、ひとりひとりに丁寧に包みを配り始めた。
「…キョウヤさん……これは……?」
コハクが、両手で小さな包みを受け取りながら、おずおずと尋ねる。
響夜は頬を赤らめながらも、皆にその想いを伝えた。
「色々考えたんだけど……みんなに感謝の気持ちを形にするにはどうしたら良いかな…って。……これが俺の精一杯かな」
その言葉と、響夜の真心がこもった贈り物に、彼女たちは皆、静かに感銘を受ける。
「えーーー!! 開けていいか?!」
嬉しそうに尋ねるラジアナに、響夜は優しく頷く。
ラジアナは、弾けるような笑顔で贈り物を開け始める。
それに続き、他の彼女たちも、期待に胸を膨らませて包みを解き始めた。
「……わあ!」
「まあ……素敵…!」
「綺麗……!」
「……これは……!」
それぞれがプレゼントを手にして漏らす感嘆の声に、響夜はさらに照れて視線を逸らす。
中には、感動のあまり涙ぐむ者までいたため、響夜は居たたまれなくなり、そっと一人でその場を去ろうとした。
……が、その瞬間。
「ありがとーーー!キョウヤ!!」
「ああー!マスター!我が愛しきマスター!!」
歓喜に満ちた叫び声と共に、ラジアナとリゼッタが勢いよく響夜に飛び付いてきた。
響夜はまたしても、バランスを崩して押し倒される。
「ぃっ…て…。二人共……大袈裟だって…」
困惑しながらも、響夜は二人の頭を優しく撫でる。
「そんなこと無い!僕はとても嬉しい!嬉しいから抱き付いただけだ!」
ラジアナは響夜の胸元に顔を擦り付けながら、無邪気に喜ぶ。
「あぁぁ!マスター! マスター! マスター!」
リゼッタは、いつも以上に濃厚に響夜にしがみつき、強く抱きしめた。
普段であれば、ティアが怒って止めに入ったり、リアーナが圧力で諭したりする場面だが、この時ばかりは違った。
ティアは、手にした贈り物を見つめ、嬉し涙でそれどころではなかった。
リアーナもまた、自分の贈り物を見つめながら、静かに涙を落とした。
その様子を見た響夜は、少し困惑し、内心動揺を隠せず。
(え……?みんな大袈裟過ぎない?!)
予想外の反応を示した彼女たちの姿に、響夜は居たたまれない気持ちになった。
顔が熱くなり、どうすることも出来ず、まるで逃げるようにその場を離れた。
「あーあ…。キョウヤ、逃げちゃった」
ラジアナが、遠ざかる響夜の背中を見つめながら、楽しそうにそう言った。
リゼッタは、頬に手を当ててうっとりとした表情を浮かべていた。
「フフフ……。そんなシャイなマスターもス・テ・キッ♡」
リアーナは、涙を拭いながらその様子をしばらく見ていたが、ふ…と何かを思いついたように、ゆっくりと口を開いた。
「じゃあ…これからリレーみたいにひとりずつキョウヤに感謝の気持ちを伝えに行こうか?」
その提案に、それまで嬉し涙に暮れていたティアの涙が、一瞬にして引っ込んだ。
彼女は目を丸くして、リアーナに詰め寄る。
「り、り、り……リアーナ?!なんでそんな事を…ッ、言い出……ッ!!」
ティアの慌てた様子に、リアーナは悪戯っぽく微笑み返す。
「えー?ティアはキョウヤに伝えたいことはないの?」
その言葉に、ティアは口ごもった。
顔を赤くして、視線を泳がせる。
「……ッ…。無いことは……ない…けど……」
そんなティアを見て、ラジアナが楽しそうに笑い声を上げた。
「あはは!ティアも照れ屋さんだなぁ!」
リアーナは、そんな彼女たちの反応を面白そうに眺めながら、みんなの顔を一人ずつ伺った。
「じゃ、順番は……」
そう言って、彼女は選抜を始めるのだった。




