第23話:鍛冶師見習い少女の意外な正体。
響夜たちは、新しい武具が完成するまでの一週間、『イーストブルグ』に滞在する事になった。
その間、ラジアナが快く街を案内してくれる事になった。
「こっちが僕のおすすめの工房だよ!色んな素材を扱ってるんだ!」
「うわぁ、本当にいろんな種類があるんですね!」
「見て!このアクセサリー、すごく可愛い!」
ラジアナの案内で、響夜たちは工房やアクセサリー店を巡り、この街の多彩な名産品をたくさん見て回った。
ドワーフたちの職人技が光る品々に、一同は感嘆の声を上げるばかりだ。
そんな中、武具を制作する際、肝心な一部の材料が不足していることが判明した。
* * *
「ええっ?……困ったわね。これじゃ、滞在期間までに完成しないわ……」
新しい武具を一番心待ちにしていたティアは、弓を引く弦が切れたように、残念そうに肩を落とした。
傍にいたドワーフの職人たちが、顔を見合わせ、声をひそめる。
「仕方ないですね。素材を取りに行くにしても、この辺りのオーガの森は魔獣が多くて危ない。私たちで手配するしか……」
「でも、どうすんだよ?だとしても間に合わねぇぜ?親方にこの事を知られたら…」
「う……。ラジアナお嬢の親父さん…めちゃくちゃ怖えからな…」
「いや……この場合、おフクロさんの雷の方が……」
職人たちは顔面を蒼白にしながら、ラジアナの両親の「雷」の恐ろしさについて、小声でどよめき合っている。
そんな職人たちの後ろで、リゼッタはチラリと響夜の顔を見た。
その瞳には、"マスターを危険な目に遭わせたくない“という強い懸念が滲んでいる。
リゼッタが何か言い出すよりも早く、響夜は一歩前に出て、工房の職人たちに頭を下げ、声をかけた。
「あの、よろしければ、俺が素材集めの手伝いをしますよ?」
工房のドワーフたちは、一斉に目を見開いて、響夜を振り返った。
「いやいや、客人にそんなことはさせられませんよ!材料不足は私どもの不手際ですから、どうか滞在中はゆっくりとなさって下さい!」
職人たちは申し訳なさそうに両手を振って拒否する。
しかし響夜は、彼らの気持ちを理解しつつも、真剣な瞳で再び微笑んだ。
「俺は一応、冒険者です。それに、工房のお世話になっている身ですから。お礼と言ってはなんですが、何かお役に立てればと」
響夜の真っ直ぐな言葉と優しさに、ドワーフの職人たちは頭を悩ませながらも、何かを察したように、やがて顔に笑みを浮かべ、深く頷いた。
職人の代表が、大きく息を吐きながら、深々と響夜に頭を下げる。
「わかりました。そこまで言ってくれるなら……どうか、宜しくお願いします」
「でも、どうするんですぅ?こんな事……親父さんに知られたら…」
再びどよめき始める職人たち。
そのとき、工房の奥からひょっこり娘であるラジアナが顔を出した。
「OK!父ちゃんには黙ってておくよ!」
ラジアナの父親が娘に甘いことを知っている職人たちは、一斉に肩を撫で下ろし、この場は丸く収まった。
そして、素材を取りに行くことになり、ラジアナが自ら同行を申し出た。
「大丈夫!僕が案内するから!」
そして、素材が採取出来る場所へ向かう途中、ラジアナは突如としてその姿を変えた。
彼女の体が光に包まれ、驚く響夜たちの目の前で、巨大な竜へと変化したのだ。
「えええーーっ!?」
響夜とティア、リゼッタは同時に叫んだ。
あまりの出来事に言葉を失う。
「あれ?言ってなかったっけ?僕、『エンシェント・ドラゴン』なんだー!」
ラジアナは、全く悪びれる様子もなく、あっさりと自身の正体を明かした。
呆然とする響夜たちを他所に、ラジアナは楽しそうに尻尾を振る。
「さ、僕の背中に乗って!すぐ着くから!」
呆気に取られながらも、響夜とティア、リゼッタの三人は、巨大な竜と化したラジアナの背に乗った。
空を駆ける竜の背からは、『イーストブルグ』の街が宝石のようにきらめいて見えた。
ラジアナの背に乗って到着したのは、大柄で力強い『オーガ』が生息する森だった。
高い体力と攻撃力を持つ種族だが、響夜たち四人にかかれば全く問題はない。
響夜の魔法剣、ティアの治癒魔法と弓術、リゼッタの吸血鬼としての身体能力、そしてラジアナの竜としての圧倒的な力。
連携の取れた攻撃で、オーガたちはあっという間に倒されていく。
オーガと戦う響夜を見ていたラジアナは、彼の魔法剣に目を奪われた。
まるで生きているかのように輝き、状況に応じて変幻自在に形を変えるその剣に、彼女の職人としての魂が揺さぶられたのだ。
「キョウヤ!君のその魔法剣、すごく面白いね!僕に、オーダーメイドの剣を作らせてくれないかな!?」
「えっ…それは、願ったり叶ったりだけど」
「じゃあ決まりだね!」
「腕が鳴るぅー!」と、興奮気味に喜ぶラジアナ。
帰還中も、楽しそうに武器の性能の話や、相性の事など、たくさん話をした。




