第10話:共闘の閃光!最強パーティーの爆誕。
響夜とカインズは互いに頷き合うと、再び前線へと視線を戻した。
氷雪の獣王『ベイリー・スノー』。
討伐隊は、山脈の最も深い場所にある『黒の樹海』。
そこにある巨大な氷の洞窟へと到達した。
そこが、今回の魔族の根源であり、討伐目標である上級モンスターが潜んでいる場所だ。
洞窟の入り口から吹き出す冷気は、尋常ならざる魔力を帯びていた。
「ここか……。おい、キョウヤ、カインズ! 気をつけろよ。メインディッシュのお出ましだ!!」
バルドが、舌なめずりをし、背中の大剣を握りしめ、警戒を促す。
カインズもまた、無言で剣の柄に手をかけた。
洞窟の奥へと進むと、巨大な空間に、氷と雪でできたような巨大な獣が姿を現した。
その全身は鋭利な氷の結晶で覆われ、蒼い瞳は冷たく輝いている。
「あれが……氷属性の上級モンスター、『ベイリー・スノー』か!」
バルドが唸るように呟いた。
その巨体から放たれる圧倒的な威圧感は、並の冒険者では立ち向かうことすら難しいだろう。
カインズ、バルド、そして響夜の三人が、『ベイリー・スノー』の前に立つ。
騎士や他の冒険者たちは、連携を取りながら周囲の魔族の増援を食い止める。
「はっはっは! コイツァは骨がありそうだァ!!キョウヤ! 行くぜぇ!」
バルドが豪快に笑い、大剣を構えて突撃する。
カインズもまた、冷静な表情のまま、剣と体術を組み合わせた精緻な動きで、標的の氷の牙と爪をいなしていく。
『ベイリー・スノー』は、その巨体から氷の息吹を放ち、周囲を凍り付かせようとする。
バルドは大剣の一撃でその氷を砕き、カインズは素早い動きで回避しながら、致命の一撃を狙う。
しかし、上級モンスターの防御は強固で、なかなか有効打を与えられない。
「クソ!硬えな!なかなか通らねぇ!」
バルドが歯噛みする。
「ちッ…」
カインズもまた、舌打ちをし、額に汗を浮かべながら、集中を切らさずに魔族の動きを分析していた。
その時、響夜が、モンスターの攻撃を交わしながら、二人の剣に反属性の『炎』魔法を付与する。
刃に赤く燃えるような光が宿る。
「な、なんだなんだァ?!」
「これは……」
炎の粒子をまとい、着地する響夜。
ぶん!と『魔法剣』を強く振りながら
「一時的ですけど、これで、多分両断出来ますよ」
と言い残し、再びモンスターに向かっていく。
「ハッハァーッ!!コイツぁ、気ィ利くじゃねえかぁァ!!」
バルドはテンションが上がり、モンスターへ一直線に飛び込んだ。
バルドは更に、自身の魔法剣に自分の属性である『炎魔法』を上書きし、威力を倍増させる。
「【フレイム・インパクトォオ!!!】」
炎の魔法を纏ったバルドの『魔法剣』がモンスターに炸裂。
『ベイリー・スノー』の片腕が砕け落ちる。
「すご……!」
綺麗に決まったバルドの技に、素直に感想を呟く響夜。
「見えた」
バルドの攻撃による衝撃で、砕け落ちた片腕によるダメージが、標的の胸部にまで達し、心臓部にまで罅が入る。
『ベイリー・スノー』の弱点のコアが、カインズの視界に入った。
「あれがヤツの心臓だ」
「よっしゃァァァ!!」
バルドは声を張り上げ、カインズの動きに合わせ、『ベイリー・スノー』の懐へと飛び込む。
そして、響夜のその手には
青白い光を放つ『魔法剣』
『聖魔法剣』が晄る。
『ベイリー・スノー』が雄叫びを上げ、響夜に向けて巨大な氷の爪を振り下ろす。
響夜はそれを紙一重でかわし、『剣』を横薙ぎに払った。
『聖魔法剣』の刃が『ベイリー・スノー』の装甲に見事炸裂。
氷の巨体が、一瞬ひるんだ。
「今だ!」
バルドが咆哮し、その隙を逃さずに大剣を振り下ろす。全身の筋肉を震わせ、渾身の一撃が『ベイリー・スノー』の心臓に叩き込まれる。
カインズもまた、精密な剣戟で、『ベイリー・スノー』の急所を狙い続ける。
響夜は、再び剣に魔力を集中させる。
青白い光が剣全体を覆い、その輝きが増していく。
「これで……終わりだッ!」
響夜は、その身に宿る魔力の全てを込めるかのように、『聖魔法剣』を天に掲げ、そして一気に振り下ろした。
轟音と共に眩いばかりの光が、その剣から放たれる。
それは、まるで巨大な青白い閃光となって、『ベイリー・スノー』の体を貫いた。
氷の巨体は、一瞬静止した後、内部から無数のヒビが走り、やがて轟音と共に砕け散った。
あたりには、冷たい氷の破片が降り注ぎ、上級モンスターが確かに消滅した証だった。
響夜たちの活躍により、魔族の一斉討伐は無事に完了し、北の山脈は一時的に平穏を取り戻した。
共闘を通じて、カインズは響夜の純粋な強さと、彼が決して私利私欲のために力を使わない姿勢を目の当たりにし、彼への警戒心から尊敬へと評価を改めていく。
バルドは、響夜の戦闘スタイルにさらに心酔し、豪快な笑みを浮かべながら彼の背中を追いかけた。
ティアもまた響夜の優しさと圧倒的な力に、改めてその偉大さを実感するのであった。
* * *
2時間後。
「報告は以上だ。……リアーナ」
巨大な樹、『古代樹』の前にいるカインズの声が、森の奥に響く。
彼の視線の先、日の光が差し込む木漏れ日の中に、人影が浮かび上がった。
その姿はまだ曖昧で、輪郭をはっきりと捉えることは出来ない。
だが、その人物から放たれる、森そのものと溶け合うような清浄な気配に、カインズはわずかに表情を引き締めた。
「私からの依頼。受けてくれてありがとう、カインズ。これで森も暫くは安心だわ」
涼やかで優しい声が、木々のざわめきに混じって聞こえる。
カインズは無言で頷き一言「失礼する」とだけ言い、立ち去ろうとした。
その背中に、再び声が投げかけられる。
「でも……まだ、終わったわけではないわね。貴方の言った通り…」
彼女の不安な声に、カインズは立ち止まる。
「調査は継続する。だが、大まかな邪魔者は消し去った。今はそれで充分だろう」
「……ふふ。相変わらず堅物ね。でも、良かったわね。カインズ」
カインズは、何のことだと、眉を潜める。
「『あの子』とってもいい子ね。今度連れてきてよ!」
彼女は、嬉しそうに言った。
「見たのか」
「ふふっ…」
はぁ……と、溜息を吐くカインズ。
しかし、その顔に苛立ちはなく、むしろ何かを確信したような微かな笑みが浮かんでいた。
彼は身を翻し、森の出口へと視線を向けた。
「では、失礼する」
立ち去るカインズの背中を、リアーナは温かく見守る。
ただ、木漏れ日の中で彼女の姿が、ゆらりと陽炎のように揺らぎ、やがて視界から消えていく。
まるで最初からそこに存在しなかったかのように、森は静寂を取り戻した。
残されたのは、カインズの心に深く刻まれた、新たな邂逅への予感だけだった。




