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中3の夏

「友達同士で夏祭りも楽しいよね!」

「そうだそうだ!」

「お腹空いた!」


たくさんのカップルとすれ違いながら、私達はおのおの屋台で買ったりんご飴やら焼きそばを持って歩いている。

男子がいないのに皆きっちり浴衣を着て、普段しないメイクまでしてる。て、言ってもママに借りたリップ塗ったぐらいだけどね。

中学を卒業したらまゆとちかとは別の高校。皆バラバラになる。だから、最後に3人一緒にいられる時間がもぅ少ないから、夏祭りを思い切り楽しもう作戦だ。

女子3人で浴衣を着て夏祭り。

屋台を巡って、金魚掬いをして、うちわでお互いを仰ぎ合って。

大人になってから思い出したときにちょっとステキな気分に浸れそうな、そんな夏祭り。

下駄の鼻緒が指の間に食い込んで痛いけど。




「うげぇ、ヤンキーがいる」

最高の夏祭りの余韻に浸って家に帰ると、隣の家の玄関先に金髪の頭が見えた。

「誰がヤンキーだよ。ばかたれ」

「うるせーうんこたれ」

「うんこっておま……。小学生かよ」

隣の家に住む優斗は夏休み中に頭を金髪に染めた。

中学に入ってからなんか会う度に口げんかばっかりするようになって、もぅ今は学校で会ってもお互い無視。

関わらないのが一番平和。

本当にマジでいちいちいちいちいちいち腹立つ男ナンバーワン。

それが優斗。


「金魚、それどうすんの?」

優斗は私の持ってる金魚を指差して言った。

「飼うよ? え? 何? 金魚食べたいの?」

「食べるわけねぁだろが」

「ねぁだろが、だって。じわる」

私はププっと笑った。

「こいつ、ムカつくことしか言わねぇな。逆にすげーよ」

「……何の話したっけ?」

「金魚、それ水とか用意してる?」

「はい? 水の豊かな国日本ですが何か?」

水の用意? 意味わからん。なんだコイツ。

「ちげぇよ、バカ。カルキ抜きした水あるかって聞いてんの」

「カルキ? は? ジャパニーズオッケー? ていうかさっきからまじでうざい。私の金魚なんだからお前は関係ねぁだろが」

「カルキってのは水道水に入ってる塩素だよ。人間には無害だけど、金魚にはあまり良くないの。知ってた?」

「今の『知ってた?』がムカつく。言い方が上から目線過ぎる。はい、もう一度やり直し」

「おまえが何も知らねぇから教えてやってんだろが。うぜぇな」

「教えてやったって言い方、人としてダサ過ぎる。消えてよし」

私はシッシと手を降って優斗を追い払うしぐさをする。


こいつなんでこんな絡んでくるの?

ハッ! 私が浴衣を着てるからだ! 普段と違う私にときめいたからだ! そうに違いない!

「……それ、口に出して言うか? 普通。マジで暗くてお前の顔なんか見えねぇから安心しろ。おかげで吐かずに済んでる」

「お前の安い市販のやつで染めたセルフ金髪は暗い中でも輝いているがな。やっすいやっすい空っぽの頭を輝かせて、歩く恥知らず電球かよ。うける」

「……」

「……」


しばらく睨み合いの冷戦が続くと、優斗が口を開いた。

「……ちょっと待っとけよ」

優斗はそういうと家の中へ入っていった。

なんだろ? 言い過ぎてごめんのお詫びの品かな?

「おい、とりあえずこれ入れろ」

「何これ?」

すぐ出てきたと思ったら片手サイズの小さなボトルを渡してきた。

「カルキ抜きだよ」

「どやって使うの? これ」

「使用の仕方書いてあるだろが」

私はスマホで照らしながら渡されたボトルに書いてある文字を読む。

10リットルで2cc。

ふむふむ。

「お前んち水槽あんの?」

「ないよ」

「じゃあ、とりあえず金魚入れるのバケツで良いよ。水入れてカルキ抜き入れろ」

「命令すんな。やんのかこら。鼻の骨折ってやる」 

「もぉいいから、めんどいわお前マジ」


優斗は玄関横に置いてあるバケツを持つと、勝手に私んちの庭にズカズカ入りバケツに水を入れた。

小さい頃はお互いの庭にしょっちゅう行き来して遊んでいたから、うちの庭にある蛇口の場所も勝手知ったるなのだ。

「はい、カルキ抜きを一端キャップに入れてからこのバケツに入れろ」

私は言われた通りキャップにカルキ抜きをドボドボ入れた。

薄暗い中でも見える青。真っ青な異様な青。

「何これ毒? 盛るのか?」

「毒じゃない。盛らない。ってなんでそんなキャップ満タン入れてんだよ。使用量見ただろさっき! 頭沸いてんのかお前!」

「ちまちまうるせぇ。沸いてるのはお前の頭だろうがくそパツキン」

「もおぉ。貸せって」

優斗は私の手からカルキ抜きのボトルを取ろうとする。

「嫌だ。欲しかったら自分で奪いな。てゆうか命令すんな」

私はカルキ抜きをひゅっひゅっと言いながら左右上下に振る。

「もぅ、ほんとマジでいいから。そういうの。かしてマジで。蚊が来るから」

蚊が来るのは嫌なので私は大人しくカルキ抜きを渡してやる。


「このバケツの多きさ10リットルだろ。これぐらいでいいんだよ。わかったか?」

「お前の言い方が腹立つのは分かった」

「で、これ入れて適当に溶かしたら、金魚貸せ」

優斗は奪うように私の手から金魚の入ったビニール袋を取ると袋のままバケツに入れた。

「え? 袋のまま?」

「こうやって水温合わせるの。10分したら袋の水はできるだけ捨てて金魚をバケツに入れろ。分かったか?」

「その分かったか? をやめろ。偉そうにすんな安電球が。分かったか?」


「あと、はい、うちの金魚の餌。うちで余ったやつ。要らねぇからやる」

「何? くれんの?」

優斗はポケットから金魚を餌が入った袋を取り出して渡してきた。

「餌とか持ってないだろ、絶対お前」

「持ってない。ノリで掬っただけだし」

「今日と明日は餌やるなよ。やるなら明後日からにしろ」

「何で明日やっちゃ駄目なの?」

「金魚は腹が弱いから、慣れない環境で餌食べると腹下すんだよ。明後日からならギリやってもいいけど」

「へぇ。ていうか何でさっきからそんな詳しいの? お前んち金魚養殖して食ってんの?」

「食うかバカ。うち金魚飼ってるから詳しいんだよバカ」

「あっそ。バカって言う方がバカだから。お前の方がバカ」

「いや、お前がバカ。俺はバカじゃない」

「お前がバカ」

「お前こそがバカ」

「バーカバーカバーカ」

「バカバカバカ」

「あ、そうだ」

「何?」

「水換えの曜日決めとけ」

「は? なんで? だる」

「お前バカだからどうせ水換えも忘れるだろ。外で電源なして飼うなら週に一回は水換えしろよ」

「ええぇ。じゃあ、日曜日にする」

私は適当な曜日を言っておいた。

そんなの適当にやれば良いじゃん。

「水換え忘れんなよバカ」

「うるさいだまれゴールド鼻くそ頭」

「おま……すげぇ悪口言うなぁ」



家に帰ってから浴衣脱いで一息ついてジャージに着替えて、普通にまゆとちかにラインして、そしたら。

「あヤバ、忘れてた」

30分過ぎてんじゃん。

私は慌てて庭に出て、金魚を袋の中の水ごとバケツへドボンっと入れた。

あれ?袋の水捨てるんだっけ?

ま、いいや。

暗くて分からないけど、たぶん元気に泳いでる。よしよし。

風呂入って寝よっと。

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