【BL】キミはボクだけのスイーツ
お越しいただきありがとうございます。
BLでケーキバースものに挑戦してみました!
お楽しみいただければ幸いです。
「お前らそろそろいい加減にしろよ。アルハラもいいとこだぞそれ」
他部署との合同飲み会。
そう言ってボクが持っていたグラスをひょいと取り上げたのは、隣の部署でシゴデキだが顔が怖いと評判の三田先輩だった。
「みひゃ……ひぇんぱい?」
相変わらずいい匂いがするなぁと、向こうから近づいてきてくれたのをいいことにこっそり深呼吸する。
ふふっ。なんの柔軟剤だろう? ボクは嗅覚もポンコツなんだけど、三田先輩の匂いだけはボクの鼻腔を満たしてくれる。
「へへ~。いいにおい~」
ゆらゆら揺れる身体にあかせて、先輩のスーツに飛び込めば、甘くて美味しそうな匂いに思考がとろりと溶けた。
「ほら見ろ。コイツもう呂律回ってねぇじゃねぇかっ! お前らもっ! 見てねぇで止めろよっ!」
先輩の匂いを堪能できてご機嫌なボクの手に別のグラスを握らせて、しきりに飲むように促す三田先輩はなんだか怒っている様だった。……匂い嗅いでるのバレたかな?
促されるままにグラスを傾ければ、なんの味もしない液体が喉を滑り落ちていく。
「え~? でも飲んだのコイツだしぃ」
へらへらと笑うのは、やっぱり別の部署の人だ。
仕事上の関係でしかないはずなのに、やたらとこちらに絡んでくるのは何故だろう?
ふわふわとした思考の中で答えを探しても、何もわからなかった。
「お! ま! えっ! お前のカノジョが大崎の顔を褒めてたからって、別に大崎が悪いわけじゃないだろうがっ!」
「っ! なんで知ってるんですか!」
何故か真っ赤になって怒り始める別の部署の人。ボクの顔……。あぁ、なんとなく理由がわかったかも。
どうやらボクは顔がいいらしい。
本人的にはひょろっとして筋肉の付かない身体は嫌いだし、やたらと目が大きくて潤んでいるように見えるのは子供っぽくて嫌だし、ふわふわとした色素の薄い髪は将来禿げそうだし……。
どれもこれも本人は嫌いなんだけど、周囲から見ればそれは「カッコいい」に見えるらしい。本人は望んじゃいないんだけどな。
しかもこの顔で生まれたせいか、小さい頃から可愛いと褒められ続け、異性を意識するような年代になると周囲からちやほやされる事も増えた。
それで調子に乗れれば生きやすかったんだろうけど、生憎この顔で生まれて碌な目にあわなかったから、色々辟易していて、この顔であることを拒絶したくてたまらなかった。
え? どんな目にあったかって? そりゃあれだよ。変質者に狙われたりストーカーに狙われたり誘拐されそうになったり変な写真撮られそうになったり……枚挙にいとまがない。
なのに、この人やこの人のカノジョとやらみたいに、勝手にトラブルを運んできて、勝手にボクを巻き込む。ホントいい加減にしてほしい。
どうせなら三田先輩みたいな人に生まれたかった。男らしい顔と筋肉が程よく付いた長身。みんなは顔が怖いって遠巻きにしてるけど、面倒見はいいし仕事はできるし、そういうとこいちいちカッコいいんだよね。
……それにいい匂いだし。
まぁ、三田先輩のことは置いといて。
そんなこんなで色恋沙汰に興味が持てず、一生一人で生きていたいと思った結果だろうか。
思春期が終わる頃、ボクの第二性は「フォーク」になっていた。
え? 「フォーク」って何かって?
「ケーキバース」って知ってるかな?
いつから生まれたかわからないけど、この世界には男女の性差の他、バースと呼ばれる性差があることが分かったんだよね。
その中でもケーキバースと呼ばれるのがボクの第二性だ。
ケーキバースは、「ケーキ」と「フォーク」、「その他」に分かれているんだけど、「ケーキ」や「フォーク」だと色々……そう、色々と悲惨なんだよね。
まず「ケーキ」なんだけど、「ケーキ」の人って本人にその自覚がない。……「フォーク」に狙われてるのにね。
甘い甘い「ケーキ」は「フォーク」のご馳走なんだ。味覚を失ってしまった「フォーク」にとって何物にも代えがたい、甘くておいしい存在。それが「ケーキ」だ。
そして「フォーク」。味覚を失って、「ケーキ」の体液以外味を感じなくなった憐れな存在。だからこそ「ケーキ」に逢いたくて「ケーキ」を味わいたくて……人としての道を踏み外してしまうこともある情けない存在。
味覚を失って無味乾燥の世界を生きるボクたち「フォーク」にとって「ケーキ」に出逢えることは……砂漠で落とした指輪を探すようなものなのだ。
そんなレアな相手に早々巡り会える訳でなく、ただひたすら餓える日々を送る。それが「フォーク」だ。
そう。ボクは「フォーク」だから味覚を失っている。
だから別部署の人に勧められるままにグラスを傾けていた訳なんだけど……。
どうやら三田先輩の反応を鑑みるに、アルコール度数の高いお酒が満たされていたみたい。
無自覚に大量に摂取していたらしいアルコールが、ボクの思考をくるくると掻き乱す。
それは思考だけでなく、ボクの目の前もくるくる掻き乱していって……。
「おいっ! 大崎?! しっかりしろっ!」
三田先輩の焦ったような声を最後に、ボクの意識はふつりと切れた。
……甘い……甘い匂いがする。
美味しそうな、ほっとするような、それでいてどこか胸を掻き乱すような……。
甘い匂いに誘われるように、口内にじゅわりと涎が湧く。
あぁ、こんなの久しぶりだ。
こくりと飲み込んだ唾液すら、甘い匂いが伝染って甘く感じてしまう。
あぁ……なんて……。
「……おいしそう」
「ん? 腹減ったのか?」
ボクの寝言寸前のセリフに、驚いたことに応えがあった。
「……へ?」
くっつきたがる瞼の上下を無理やりに引き離してみれば、ボクの顔を心配そうにのぞき込む三田先輩がいた。
「……うち、甘いモンしかねぇが……食うか?」
ボクを覗き込む先輩の手には、食べてる途中のプリンカップがあった。
しかもコンビニで売ってるヤツじゃなくて、専用のカップごと売られてるお高いヤツ。
「三田先輩……甘党なんですか?」
「っ! 俺みたいなゴツイ男が甘党でわりぃかっ!」
ボクの言葉に照れたのか、真っ赤になる三田先輩。
体温が上がったせいか、先輩の体臭が一層強く香る。
それだけじゃなくて。
ここは三田先輩の部屋なのか、先輩の甘い香りに満たされていてそれだけでくらくらした。
だから……。
「いいえ、悪くないです。……全然悪くない」
腹筋を使って上体を起こせば、ベッドに腰掛けていた先輩との距離が一気に縮まった。
ぶわりと強まる甘い香りに、寝ぼけた意識が明確になり、だけど理性はどろりと溶け堕ちていく。
「なんだ? お前もプリン食うか? つか、酒の飲み過ぎで倒れたんだ。まずは水だ水」
腰を上げようとする先輩の手をぱしりと掴む。
「ん? どした?」
きょとんとした顔でこっちを見る先輩の唇が、プリンを食べていたせいか僅かに濡れていた。
それはとても……とても……
「……美味しそうですね……? せんぱい?」
「え? どした……?! ちょ!? まっ! ま?! んっ!?」
甘い匂いに誘われるがままに直接口を付けて唾液を啜り上げる。
得も言われぬ甘さが口いっぱいに広がって……。
じゅるじゅると啜り上げて、余すことなく飲み干して……。
あぁ……やっと逢えた……貴方がボクの……ボクだけのスイーツ。
最後までご覧いただきありがとうございました。
エツハシフラク様お誕生日おめでとうございまーす!
(人様のお誕生日プレゼントにBLをぶっこんでいくスタイルw)
改めて、最後までお読みいただきありがとうございました!