9.ゴミ箱
今朝は燃やすゴミの収集日なので、私は部屋のゴミを集めていた。と言っても狭い1Kに一人暮らしだから、ゴミ箱はキッチンとベッドわきに置いてある2つだけ。
ベッドわきにある方は、プラスチックでできた円筒形のタイプでフタはついてない。実はこれ、越してきたときにクローゼットのなかに置き忘れられていたのだけど、キレイだったからそのまま使わせてもらっているのだ。
「あれ、ゴミがない?」
その小さなゴミ箱を覗いて、私は首をかしげた。たしかお菓子の包み紙とか丸めたティッシュとか捨てたはずなのに。
う〜ん、おかしいなぁ。
たとえゴミだろうと、そこに置いてあったものが消えるのはなんか不気味だ。この部屋には先日引っ越してきたばかり。「私のいないあいだに誰かが入ってるとかないよね?」なんて考えてしまって、私はゾッとする。
狭い部屋のなかをそっと見回した。何か物が動かされているとか、なくなっているとかはないようだ。立ちあがってクローゼットの貴重品を確認してみたが、みんな無事だ。
自分の勘違いかなぁ?
どう考えてもゴミを処分した覚えはなくてちょっと納得いかないけれど、ゴミ箱のゴミだけ持って行く変質者はいないよね?いないで欲しいと願いつつ、私は急いでゴミをまとめにかかる。気がかりだけど、会社に遅刻するわけにはいかない。
それから一ヶ月が過ぎ、私は信じられない結論に達した。このゴミ箱、どんなゴミを入れても自然に消えてなくなるのだ。
試しに丸めた紙屑でも入れておくと、翌朝にはそれがなくなっている。いつ、どうやってなくなるのかは分からない。一度、ゴミがどうなるのかを見ようとして徹夜で見張っていたことがあるのだけど、早朝にちょっとトイレに行った隙に消えてしまったのだ。
分かっているのは、入れたゴミは永遠に姿を消すと言うことだけ。初めは不気味で怖かったけど、考えてみたらすごく便利じゃない?
缶でもビンでも生ごみでも、分別しないでここに捨てればすべて翌朝には消えてくれる。ゴミの分別と朝のゴミ出しから開放されて、私はすごく快適だった。
そんな快適NOゴミ生活を送っていたある日の晩、眠っていた私は物音で目を覚ました。
ベッドのなかで耳を澄ますと、何かが揺れるようなカタカタという規則的な音が聞こえる。最初は「地震かな?」とも思ったけど、揺れてはいないようだ。
いやだ、ドロボーとかじゃないよね?
か弱い乙女の一人暮らしなのだ、私は身を固くして気配をうかがう。
カタカタ、カタカタ、カタカタカタ・・・。
どんどん大きくなっていくその音に、私は「あっ!」と気づいた。急いで部屋の灯りをつける。
電灯の灯りの下で、あのゴミ箱がカタカタと揺れていた。まるで生きて踊っているみたいに。
ど、どーゆーこと?
怖いながらも目を離せないでいたら、ある瞬間に揺れがピタリと止まる。ホッとしたのもつかの間、今度はゴミ箱から大量の何かが吹きだしはじめた。
ゴォオオオオ!!
それは噴水のように天井近くまで舞い上がり、狭い部屋のなかに散らばっていく。
数分後、部屋はゴミと悪臭で埋め尽くされていた。
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