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5.恩返しに参りました!part2

真夜中のこと、私はふいに目を覚ました。誰かに呼びかけられた気がしたのだ。そしてベッドのわき、頭のすぐ側に立っている少女に気づく。おかっぱ頭で桃色の着物を着たソレは、薄ぼんやりと霞んでいた。


「いやぁああああ!幽霊ぇええええ!!!」


私は叫んで飛び起きた。


「いえ、私は幽霊じゃありません」


できるだけ遠ざかろうとベッドの上で後ずさる私に、少女は頭を下げて言う。


「私は、あなた様に助けていただいた空き缶でございます」


「は??なんだって?」


あまりに予想外のことを言われたので、怖いのも忘れて聞き返した。


「だから空き缶です。あのとき外に捨ててあった空き缶」


少女は玄関の方を指す。


「あ!ああ、あの桃缶!」


あれはどのくらい前だったろうか。アパートの前に放置してあった空き缶を持ち帰って処分したことがあった。桃缶のシロップがまだ中に残っていて、蟻んこでもたかったら嫌だなと思ったのだ。ちょうど翌日は缶の回収日だったし。


「はい、あのときに拾ってリサイクルに回してくださったお陰で、また生まれ変わることができました」


少女は丁寧に頭を下げた。


「なので、ご恩返しに参りましたのです」


「え?いや、私はただ普通に資源回収に出しただけだし」


両手をブンブン振って私は遠慮する。空き缶の精かなんか知らないが、怖いので早く消えて欲しい。


「そういうわけには参りません!」


少女は私の前にずいと乗り出し、熱弁をはじめる。


「私、鉄として生まれたからには、世の中の役に立ちたいと強く願っておりました!なのに最初のお役目が缶詰・・・いえ、それとて必要なものだとは存じております。しかし、私のポテンシャルを高めるには物足りないと、リサイクルで生まれ変わることをずーっと待ち望んでいたのです!!」


「空き缶じゃなくて、鉄の精(?)なんだ?」


「はい!しかしあのような場所に打ち捨てられ、このままサビて朽ちていくのかと絶望していたところ、あなた様がお救いくださいました」


ここで少女はグイと胸を張り、誇らしげに言った。


「リサイクルに回していただいた結果、この度めでたく船の材料となることに決まったのです!」


ドヤ顔でこちらを見るので、空気を読んで私は言う。


「お、おめでとうございます」


「ありがとうございます!全部あなた様のおかげです。なのでぜひ、ご恩返しをさせてください!!」


勢いに押されて私はコクコクとうなずいた。そして授かったのが「鉄のように固い拳」だ。


「『アイアンフィスト!』と叫んで拳で殴ると、岩でもなんでも木っ端みじんに破壊できます!」


どこで使うのよ、それ!?


正直そう思ったけど、このままだと帰りそうにないのでしかたなく貰うことにしたのだった。



アイアンフィストは予想どおりに一度も使われることなく、人生は過ぎていった。私は結婚して子供を授かり、やがて子供たちが独立し、孫が生まれる。私はすっかりお婆ちゃんだ。このまま平穏に人生を終えると思っていたある日、それは起きた。


「火事だー!」


夜中に目覚めると、もう周囲にはきな臭い煙が充満していた。私は隣に寝ていた夫を起こすが、煙に巻かれてどっちが玄関かさえ分からない。


今こそアレを使う時だわ。


もう何十年もたってるし、お婆ちゃんになったから不安だったけど、私は気合を入れて拳を振り上げた。


「あいあーん、ふぃすとぉおおおおおおお!!」


ドォオオオオオーン!!


私の拳は一発で家の壁を破壊した。いきなり超人になった妻に腰を抜かしている夫を抱え、外へと脱出する。そこに広がる星空を見上げて、私は思った。


あの子、元気で船やってるかなあ。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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