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⑦恋の落雷


「本当に気にされて、落ち込まれている訳ではないのですね?」


 私の顔がよほど晴れやかだったのだろう、彼も一瞬動きを止めていたがホッとしているようだ。私も気分がいい。王太子との婚約破棄は私にとってマイナスになるだろうが、最初に感じた虚無感も無くむしろ清々しいまである。これもこの騎士が居てくれたおかげなのだと自分の気持ちを冷静に整理していると、彼からある事を問いかけられた。


「サハリン様?先程の殿下へのご助言わざとでございましょう?あれを聞いた時、流石だなと感心いたしました。殿下よりも何枚も上手うわてだ。やはりあなたは素晴らしい人だ」


 思わぬ彼からの賛辞に「ん?」となるが、彼が正確に物事や言葉を理解している事が分かった。私が殿下に陛下達の話をしたことを言っているのだろう。


「関係のない話でも陛下の話であれば殿下は耳を貸したでしょうし、彼が陛下達のスケジュールを正確に把握している訳がありませんからね!そして貴女は陛下達がもう出発しているであろう事が分かっていて、敢えてあのように仰った」


 さすが近衛騎士、レイナード様の事をよく把握しているみたいだが......何かまだ続きがあるようだ。


「陛下達のスケジュールには『正午出発ー午前予定』とありましたからね、この意味を知っているにも関わらず貴女は『お昼には』と言ってまだ間に合うかのように伝えておりました。殿下のお昼はいつもご自分本位で曖昧ですからね!きっと陛下方がまだいらっしゃると思っていることでしょう」


 この騎士は私の思惑も仕掛けた内容も、しっかりと理解していた。これまではレイナード様の後ろでやる気なくボーッとしていているように見えていたし、そこまで気にした事は無かったが、今回の事で彼を見る目が180度変わったと言ってもいいだろう。


 何より彼の低い声は耳心地が良く、とても落ち着く。ずっと聴いていたいとさえ思ってしまう。


「あなたはレイナード様の事をよく把握しているのですね?近衛の鑑だわ。これからも励んでください、もし今の任から解かれる事になってしまったら、サハリン公爵家が責任を持ちますのでご連絡ください。まぁ王太子の任を解かれる事がないよう微力ながらわたくしも......」


「それ本当?公爵家で雇ってくれる?」


――ピシャーーーーーンッ――


 お友達口調(タメぐち)......だと?敬語から急に警戒心を解いたかのような友達口調。その破壊力のなんと強力なことか......。

 私は意味も分からず強い衝撃を受け、冷静に別れを告げられるはずだったのにそうは言っていられなくなった。何故なら心臓が跳ねて飛び跳ねている。彼とこのまま別れてしまうのが寂しいと強く主張しているように。


「な、な、何も公爵家で雇うとは......父の口利きで新しい職場の斡旋ぐらいは......」


「あっ、......あぁそうですよね、俺つい早とちりしてしまって......」


 お、お、俺ですってぇ?しかも公爵家での雇用ではないと知ってしょんぼり?どういう事?うちで働きたいの?でも王太子の近衛の方が名誉も知名度も高いでしょうに。


「すみません、きっと今回の事で殿下は開き直るでしょうし、陛下に報告出来なかったと貴女様を責めるかもしれないと思ったのです。ですからその、公爵家で雇っていただけるのであれば貴女をより近くでお護り出来ると思ったものですから」


 私を護るためですって?何故そこまで?言っては何だが、これまでこの騎士と交流があった訳ではないし言葉を直接交わしたのはこれが初めてであると言うのに


「あなたのその気持ちは嬉しいですが、なぜそこまで?わたくしにはあなたにそのように気に掛けていただく理由が思いつかないのですが?」


「ッフ、フフフッ!それは秘密です」


――ビッシャーーーーーン――


 そこから先はあまり覚えていない......。私は公爵家の自室で呆然としながら専属メイドに本日経験したことを包み隠さず話して相談をしていた。

 私の専属であるメイドのヘレナとは年も近く何でも相談できる姉のような存在であり、私が気を許している数少ない内の一人でもある。


「――と言う訳なの、これまでも視界にも入っていたし、おそらく声も聞いた事もあると思うのよ?それなのに今日に限って特別に聴こえて、特別な存在になるなんて不思議じゃない?私がおかしいのかしら?それとも彼が私に何かしたのかしら?ねえ、ヘレナあなたなら分かるでしょう?私一体どうしてしまったのかしら?」


「お嬢様?屋敷にお戻りになって、レイナード殿下に婚約破棄を申し付けられたとの事でしたが、本来ならそちらの方を心配なり今後の対策を練るのでは?先程から聞いていますと、何やらその騎士の事ばかりですが......本当にご自身でお気づきではないのですか?」


 ぐぐぅ、さすがヘレナね?少ない情報からでもすかさず確信を突いてくるわ。そうね、私も薄々は気付いているの......私は幼い頃からレイナード様しか知らないし彼に忠誠以外の気持ちを抱いた事は無いわ。己の感情までも抑えて彼に、そして教育に全てを注いできたのだからその他の方面に疎くても仕方のない事なのだ。


「お嬢様......惚れてしまいましたか?」


「な、な、な、」


「申し訳ございません少しストレート過ぎましたか?それでは少しマイルドにいたしましょう。んっん、お嬢様?その近衛騎士をお慕いしているのですね?」


「変わってなーーーーーい!」


 私は、鋭く優秀なメイドのヘレナと自室でずっとそんな話をしていた。

 急ぎ屋敷に戻ってきた父に呼ばれている事も、レイナード様と破局した事も全て忘れて、私の特別になったあの人の事だけ、あの人の声を思い出しながら頬を紅潮させていたのだった......。



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