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⑥シェリルの感謝


「レイナード様?この事は両陛下はご存じなのですか?」


「お前には関係ない事だ!口を出すなと言っているのが分からないのか?」


 だめだ......話にならない。婚約破棄と息巻いているが、その相手は私なので関係ない事では無いはずなのだ。しかしそれすらも抑えつけさえすればどうにかなると思っているこの人には懇願したところで無駄であろうから、私はゆっくりと話しかけて彼の興味を引いてみる。


「いえ、そうではなく......確か両陛下は本日から城を離れるご予定だったと記憶しておりますが、これもお伝えしない方がよろしかったでしょうか?陛下方にあらかじめお話されているのであればすぐに済むかもしれませんが、一からの説明となると......」


「おい、何故それを早く言わない!何時だ!父上達は何時に城を発つのだ」


「申し訳ございません、今朝の時点では妃殿下の支度が整い次第としか連絡を受けておりませんでしたので。しかしお昼には出発されると予定表にはございましたから......急げばまだ間に合うかと......」


「それを早く言わないか!いいか?父上に話せばきっと反対せずに了承してくれるはずだ。残念だったな」


 私は静かに頭を下げ、了承の意を示した。私の殊勝さに少しは満足したのか、彼女ともう一人の近衛を連れて彼らは足早に立ち去って行った。一人だけ甲高い声で何かを訴えてはいたが、陛下達への報告を優先する為彼女の訴えは却下されたようであった。


 その場に残された私と彼は、嵐が去った後のようにどっと押し寄せる疲れを共有し、妙な連帯感が芽生えていたと思う。一人だったならばこの状況に全てを諦め、貴族としての矜持も己の大切な物までも手放し失っていたかもしれない。この嵐に怯える事無く毅然と立っていられたのは彼のおかげだ。


 私が改めて礼を言おうと彼に向き直ると、先程まで直立不動だった彼が体をくの字に曲げ、お腹を抱えているではないか!どうしたのかと心配になり、彼の肩に手を添えようとしたその時......。


「くっくっく、フフフッフフ、はーおかしい!殿下のあの慌てようったらなかったですね?サハリン様もご覧になってどうでしたか?」


 目じりの涙を指でふき取りながら私にそう問いかける彼の声も顔も先程までとは打って変わって、とても緊張のほどけた顔をしていた。声もいささか高い音に感じ、クスクスと漏れ出る笑い声でさえも特別に聴こえる......。


 ハッ!私は何を?私が冷静に判断すべきは彼の様子ではなく、この状況であるべきなのに彼の事になるとどうも調子が狂ってしまう。___困った、なんだか自分が自分ではないみたいでコントロールできない。おかしい、困ってしまう。


 私が彼の「どうでしたか」の問いかけにも答えず一人『ドキドキ分析』を展開していると、何かを勘違いした彼が急にしおしおと眉を下げ私に謝罪をしてきた。


「申し訳ございませんサハリン様、不謹慎でした。どうぞお許しください」


 あ......、私婚約破棄を突き付けられたんだったわ!

 え?そんな大事な事を第一に考えず、意識を飛ばしていたなんて本当にどうしちゃったのかしら?ずっと彼の事が気になり、彼の言葉や態度に一喜一憂しているわ。レイナード様の事なんてこれっぽっちも気にしていないというのに!


 とっとにかく彼の誤解を解かなければ!彼と言葉を交わす事はきっともうなくなってしまうのだから。


「それこそあなたが気にする事ではないのだから気にしないで、わたくしは大丈夫ですから。それよりもずっとわたくしを護ってくださりありがとうございます。わたくしシェリル・サハリンはサハリン公爵家の人間として............ロドリック・ブラウ様、貴方様に心から感謝申し上げます」


 彼の名を呼ぶことに恥ずかしさを感じたが、それを隠して私が感謝の言葉をかけると、今度は彼が分かりやすく慌てた様子であたふたとしている。年上の男性を可愛いと感じながら彼の一挙手一投足に集中する私。


「いえ、私は当然の事をしたまでです。そのようにサハリン様に感謝される事など......」


「いいえ、わたくしにとっては『それほどの事』なのです。わたくしは本日ここで貴方に受けたご恩を一生忘れる事はないでしょう」


 そう言って私は心からの笑みで、彼に感謝と私の気持ちを素直に伝えた。久し振りに、本当に久し振りに私は笑顔になれていた。婚約破棄された事実だなんて、どこかへ吹き飛んで行ってしまったかのように私の心は晴れやかなのであった......。



 




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