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④突き付けられる婚約破棄


 潮が引くように感情の波が引いた私は冷静な頭でこの状況を整理する。そしてまずは目の前の二人に、こちらとしての言い分を主張してみた。


「レイナード様、落ち着いてくださいませ。彼の行動含め、こちらに落ち度はございません、我がサハリン家の名にかけてそう誓います。責めるべきは我々ではなくそちらの彼女なのです。しっかりと両者の声を聞き冷静に判断をなさってください。彼女からはなんとお聞きになったのですか?」


「うるさい!私に偉そうに指図をするな!コリーナには何の非も無い。お前が一方的に彼女に嫉妬をし酷い事を言ったのであろう!」


「レイナード様、確かに彼女にとっては耳に痛く強い口調に感じたかもしれません。しかしわたくしは決して間違った事は申しておりませんし、加えて申しますと彼女にこそ非があり、ここで改めて言及しその件についてそれ相応の罰を与えても構わないのですよ?」


 王太子の婚約者......いや公爵家の人間として貴族のルールを曲げるわけにはいかない。レイナード様も王族としてその事を理解しているはずだ。

 ......と、思っていたのはどうやら私の願望だけのようだった。


「貴様......なんと傲慢なのだ!やはりコリーナの訴えは本当だったのだな?公爵家という事をかさに着て、男爵家の娘であるコリーナにこれまでも幾度となく暴言を吐いていたという事だな?」


 何故そうなるのだと私は頭を抱えそうになってしまった。

 婚約者である私を『貴様』と呼び、私ではない女の妄言をうのみにし、目前の真実を求めようともせず見ようともしない。こんな人が果たしてこの国を導いていけるのか......。


 あまりの精神的な衝撃にめまいを起こしそうになってしまうが、そこは私も己のプライドで踏ん張る。そして顔を上げ、彼らを真っすぐに見つめて告げる。


「ハッキリ申し上げないとお分かりいただけないのであれば、お二人にご理解いただけるようご説明いたします。しかし、わたくしが己の覚悟を口に出してしまえばもう後戻りは出来なくなりますが、お二人にはその覚悟がございますか?」


 私の表情と言葉に多少の効果があったのだろう、二人は一瞬口ごもり互いに顔を見合わせ動揺しているようだ。しかし婚約者のそのような姿を見ても、私の心は静かな湖面のように何の動きも見せなかった。

ーーどうでも......もうどうなってもいいーーそう思ってしまったからだ。


 ただ一つ......ただ一つだけ、これほど惨めで愚かな私の姿を見た彼......、私の後ろに静かに立つ彼にどう思われているのか、何故かその事だけが......本当にほんの少しだけ気になった。


「覚悟とはどういう事だ!それはこちらのセリフだ、貴様が殊勝な態度で謝罪でもすれば注意で済ませてやろうと思っていたが、そちらがその気ならば致し方ない。俺から貴様に婚約破棄を申し付ける!どうだ!」


 「どうだ......と申されましても、よろしいのですか?その言葉はもうなかった事には出来ないのですよ?レイナード様?貴方様はこの国の王太子なのです、ご自分のご発言には重大な責任が伴う事を本当に理解されてのご発言でございますか?」


 私が最後の進言とばかりにゆっくりと声を低く念を押し、彼の心に語りかけていると、横からそれを引き裂くかのような高い声で割って入る人物がいた。

 我々の会話を遮るなど......そう思ったが注意したところで意味を成すとは思えないので好きにさせる。


「さっきから聞いていれば偉そうに!王太子である彼が婚約破棄をすると言っているのですから、素直に認めてはいかがですか?あなたなんて誰からも必要とされていないの、残念でしたわね?レイナード様は公爵家のあなたでは無く、男爵家であるこの私を選んだの。女は教養よりも愛嬌が大事なんですって、一つお勉強になりましたねシェリル様?ねぇ、今どんなお気持ちですの?ぜひとも教えていただきたいですわぁ!フフフッ、あ~おっかしい。いい気味だわ」


「なんと羨ましい......」私は思わず声に出してしまっていた。何のしがらみも、恐れもない、責任なんて考えた事もなさそうな。その『自由』さに心底憧れを抱いてしまった。


これまでそんな事思いもしなかったのに、何が私をそうさせるのか......。もう何も分からない、余計な事は考えないようにと己でロックを掛ける。そして私はそこで思考を止めた。これは一種の自己防衛なのかもしれない。


「どうした?何も言い返さないのか?いつもの威勢はどうした?婚約破棄と聞いて怖気づき、後悔しているのだな?しかしそれはもう遅いと知れ!私の心は決まった、貴様がなんと物申そうがお前との婚約は破棄すると決めたのだからな」


 ああ、終わった......。この場には私達以外の人間が二人いる、私の後ろに立つ彼と、彼らの後ろに立つもう一人の近衛。この二人の近衛が証人となるならば、いくら私達の婚約と言えどレイナード様の主張で婚約破棄が成り立ってしまう。私のこれまでの努力も想いも、全てが......。


 私は体の力が抜けるのを感じながら天を仰ぐ、込み上げてくる感情が溢れて涙とならぬように。しかしそれまで踏ん張っていた足に力が入らず、ふらりとよろめいてしまった......。




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