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⑯抑えきれぬ感情


 今の私は決してレイナード様の事を非難できない状態であるにも関わらず、彼の事を非情にも突き放そうとしていた。自分だって感情の昂りを抑えられず聞かなくていい事を立場を利用して聞いてしまったのに、そのくせロドリックの事は見れない臆病者なのだからタチが悪い。

 

 感情が昂っていた私の目には涙が浮かんでいた。話の通じないレイナード様はこれが初めてではないはずなのに、幼少期からの記憶も蘇り堪えきれない感情が溢れてきているようだ。

 きっとこの感情はどう伝えても誰にも伝わらない想いだとは思う......。ぽろぽろと流れる涙をそのままにしている私にレイナード様も言葉を詰まらせていると、


「シェリル様?なぜ今涙を流されるのです?そこまでして慰謝料をレイナード様に支払わせたいのですか?わたくしに対してはあのように強気だったのに?」


「コリーナ?何故君がここに、屋敷での謹慎が決まって連れていかれたのではなかったのか?」


 コリーナ様の登場にレイナード様も驚いている。遅れて追ってきた衛兵ににコリーナ様が責められているので隙を見て逃げ出してきたのかもしれない。どこまで怖いもの知らずなのだろう......。


「レイナード様!だって、わたくしこのまま帰ったら父に叱られてしまいます、何とかしてください。しかもこの方、うちにもまた別にお金を払えと言っているのですよ?」


 コリーナ様は、多分私に対する暴挙によって何かしら陛下から咎められたのだろう、詳細はまだ聞かされてはいないがおそらく家同士で話し合いの上こちらも慰謝料が発生するとして、彼女はその事を言っているのだろうが、レイナード様といいこの方といい何故か自分のしでかした事が頭から抜け落ちているようだ。


「シェリル、貴様がなにをしようとどんな態度だろうがこの際構わん。しかし慰謝料の件はどうにかするのだ!お前にならそれが出来るだろうが」


 二人のおかげで私の涙は止まり逆に冷静になれた。私は自分の感情を優先する前にこの二人をどうにかしなくてはならない、話はそれからだと思いなおす。


「レイナード様、何度も申し上げますがわたくしの一存ではどうにもならない事であり、わたくしも取り下げるつもりはございません。なぜなら貴方様の婚約者としてわたくしはたゆまぬ努力を重ねてまいりました、しかしその事全てが時間も含めて無駄になったのですから代償をとしては当然とも思っております。そしてコリーナ様に関してもそうです、後は家同士の話となりますのでまずはホッブス男爵......貴女のお父上から話があるでしょうから、早急に屋敷にお戻りになるのが賢明かと」


「ほんっと嫌な女ね!私達に対する仕返しのつもりなのでしょうけど、やり方が陰険なのよ!自分が手に入れられなかった『愛』の代わりに金銭を要求してくるだなんて」


 コリーナ様の言葉に私は何も言い返せなかった。ただ立ち尽くし、彼女の言葉の意味を己の働かなくなった頭で何度も反芻していたのだった......。






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