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第8話 『ほんとにいい彼女だよなぁ』

 メイドカフェでのデートが終わり、俺は満ち足りた気持ちで家に帰っていた。


 あんなに恥ずかしい思いをしながら、オムライスに「萌え萌えきゅん!」なんて掛け声をかけることになるなんて、まさか思ってもみなかった。


 けれど、それ以上に嬉しかったのは、水島が心から楽しんでくれていたことだった。


 水島は笑顔で全力で「萌え萌えきゅん!」をして、目を輝かせながらメイドさんと盛り上がっていた。

 そんな彼女の姿を見ると、恥ずかしさもどこか吹き飛び、自分も全力で楽しむことができた。


 俺のオタク趣味にこれほどまでに理解を示し、しかも自分から楽しんでくれる彼女がいるなんて。

 水島はいつも俺を一番に考えてくれて、どんな趣味だろうと「いいじゃん、楽しいよね!」と当たり前のように受け入れてくれる。


 ふと、さっき会った元カノのことが頭をよぎる。


 彼女とは、自分のオタク趣味が原因で別れることになった。

 俺が少しでも好きなことを話すと「興味ない」と返されたり、話題をすぐに変えられることが多かった。


 別れ際には「やっぱりオタクは無理」とはっきり言われたことも忘れられない。

 それだけに、今の水島がどれだけ貴重で、心から理解してくれる彼女であるかが身に染みる。


「こんなに理解してくれる彼女なんて、他にいるんだろうか……」


 そんなふうに思いながら、俺は家に帰り着いた。


 玄関のドアを開けると、すぐに中学二年生の妹、柚香(ゆずか)がリビングから顔を出した。

 俺が帰ってきたことに気づくなり、彼女はじろりと俺を見た。


「な、なんだよ」


 そんな俺の少し動揺した様子を彼女は見逃さなかった。

 そして柚香はニヤリと口元を緩めた。


「お兄ちゃん、今日はなんかやけに機嫌いいじゃん? それに、ニヤニヤしててちょっとキモいんだけど」


「な、何言ってんだよ、別にそんなことないって。てかキモイは傷つくよ?」


 突然の指摘にギクッとなり、顔が熱くなるのがわかった。


 確かに、今日の水島とのデートのことを思い出すと自然とにやけてしまうのかもしれない。

 楽しかった時間が蘇って、心がほんわりと温かくなる。

 でも、妹にそんな気持ちを見透かされるなんて、たまったものじゃない。なかなかこやつ鋭いな。


「絶対なんかあったでしょ?」


 柚香はじっと俺を見つめ、しつこく突っ込んでくる。


「……別に、なんもないって。ただちょっと、友達と出かけてただけだよ」


「何今のちょっとした間、怪しいなぁ?」


 ごまかそうとするが、彼女はまだ納得がいかない様子で腕を組んで、観察するように俺をじっと見てくる。


 どうやら柚香の中の“兄に怪しいことがあると突き止めたい探偵本能”が刺激されてしまったらしい。


「ふーん、ほんとにそれだけ?」


 と、疑うような視線を向けられるが、俺は必死で動揺を隠しながら、「それだけだってば」とつい苦笑してしまう。


 そうすると、妹は「ま、いいかっ」と言って、しぶしぶ納得したのか、自分の部屋に戻っていった。


 妹の足音が遠ざかるのを聞いて、ほっと胸をなで下ろす。水島とのことを勘ぐられそうになったが、なんとか誤魔化せたようだ。……誤魔化せたのかな?


 まぁそんなこんなで妹に怪しまれつつも、自分の部屋に戻り、ベッドに寝転がると、今日のデートのことがまた頭をよぎった。

 水島と過ごした時間、彼女の優しさや明るさ、そしてどんな時も俺のことを包み込むように理解してくれるその包容力。

 改めて感謝の気持ちが湧き上がってくる。


「本当に……いい彼女だよな」


 思わず一人ごちたが、誰もいない部屋に響くその声がなんだか心地良い。


 彼女と出会ってから、自分の世界がどんどん広がっていくのを感じる。

 自分がオタクであることを隠さず、堂々と好きなことを楽しめるようになってきたのも、水島のおかげだ。

 彼女がそばにいてくれるだけで、どんなことでも話せるし、どんなことでも共有できる気がしてくる。


 自分にこんなに自信を与えてくれる人が、そばにいることが信じられないほど嬉しい。

 これからももっと彼女といろんなことを一緒に楽しみたいし、彼女と一緒にいられる未来があればいいと自然に思えるようになっている自分がいる。


「水島……」

 

 思わず彼女の名前を呟いてしまった。そんな自分に少し恥ずかしくなる。

 

 照れくさい気持ちを抱きつつ、俺は満足感に浸りながらそのまま目を閉じた。

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