第7話 『元カノと偶然の再会』
すみません!こちらのミスで2度目の投稿です!
前半柊斗視点、後半柊斗の元カノの麗華視点です。よろしくお願いします!
メイドカフェを楽しんだ帰り道。
夕焼けで赤く染まる街を、水島と二人並んで歩いていた。
まさか少し前までの俺はこんな風に水島と休日にデートするなんて思ってもみなかった。
最初は彼女とメイドカフェなんでどうなるのだろうかと心配していたものの、終始楽しそうにしていた彼女のおかげで、俺も一日中心から楽しむことができた。
「ねえ、今日すごく楽しかったよ、桜庭くん!」
水島が振り返り、嬉しそうに話しかけてくる。
俺も自然と微笑みが浮かんで、
「俺も。水島が一緒だったから、いつもよりずっと楽しかった」
と、返すと彼女は少し照れたように「えへへ、じゃあまたどこか行こうね」と笑顔を見せて、軽く手を交互に振って歩き出した。
そんな彼女の後ろ姿を幸せの余韻に浸りながら眺めているとふと道の向こう側に見覚えのある顔が目に入った。俺は思わずドキリとして足を止める。
俺の視線の先には、長い黒髪を背中まで下ろしたいわゆる清楚系、みたいな雰囲気を醸し出している美人が歩いていた。
彼女は中野麗華、俺の元カノだ。
別れてから3週間ほどではあるが、顔を合わせることもなかったから、彼女が今どんな生活をしているのか、付き合っていた頃とはなにか変わったのかも全く知らない。
そしてそんな彼女を偶然見つけてしまったことによって、俺の胸の奥で、かすかにズキリと痛む感覚があった。
あのとき俺を拒絶してきた「やっぱりオタクは無理だ」という言葉と、その時感じた寂しさが一瞬で蘇りそうになり、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
元カノと偶然再会するなんて、思ってもみなかった。
「どうしたの?」
水島は俺が足を止めたことに気づいたのか、不思議そうにこちらを見てから、俺の視線の先を追って麗華に気づいたようだ。
しかし、水島は動揺することもなく、あっさりとした顔で状況を察してくれたのか俺の手をすっと取ってくれる。
そして、優しく微笑みながら「行こ」と促してくれた。
その一言と手の温もりに、俺の心はすっと軽くなった。
それからというものの少しの間二人で手を繋いだまま無言で帰り道を歩いた。
水島は、何も言わずに俺のそばにいてくれる。
過去の嫌な記憶も、何もかも包み込むようなその温かさに、今どれだけ彼女が自分を支えてくれているかを改めて感じた。
一瞬の再会で蘇りかけた元カノへの思いも、今ではすっかり薄れているのが自分でもわかる。
少し前までなら未練のような感情も残っていたのかもしれないが、今はただ「過去の人」として彼女を見ている自分がいる。
俺は水島の手を少し強めに握り返し、改めて前を見据えた。
もう元カノを気にすることなく、歩き出そうと思える自分がいた。
「……行こう」
「大丈夫?」
こちらを覗き込んで心配してくれる水島。本当に彼女の些細な心遣いがとてもありがたい。
「うん、大丈夫、水島のおかげだよ、ありがとう」
そう俺が言うと水島は満足そうににししと笑った。
「良かった!桜庭くんが笑顔になってくれて!やっぱり私は笑顔の桜庭くんが好き!」
「……お、おう、ありがとう」
いきなり真っ直ぐの好意を伝えられ自分でも頬があかくなっているのがわかる。
「いこっか、水島」
「うん!」
そう言って俺たちふたりはもう一度手をぎゅっと握って、元カノを一度も振り返ることなく一緒に歩き出す。
今の俺にとって大切なのは、こうして隣にいてくれる水島だけだ。彼女がいる限り、過去の傷や悲しみはもう俺を縛らない。
******
ふと前方にいた彼に気づき、思わず足が止まった。
桜庭柊斗──私が最近まで付き合っていた、あのオタク趣味が強くて真面目すぎる男の子だ。
でも、隣にいるのは……とても明るくて綺麗で可愛いギャル、だった。
正直二人のアンバランス感が否めない。
あちらも私に気づいたのか、一瞬視線を向けてきたけれど、その隣のギャルに手を引かれ、何も言わずに去っていく。
その二人の姿に、なぜか胸がざわつくような不思議な感覚が広がる。
「……なんで、あんなギャルと?」
別れを切り出したのは私のほうだった。
オタク趣味が理解できなくて、正直一緒にいてもつまらなく感じることが増え、最終的には「オタクは無理」と言い放ったのも、他ならぬ私だ。
……けれど、今の柊斗は、私と付き合っていた頃の彼とはまるで別人のように見える。
なんだろう──隣にいるギャルと一緒の彼は、どこか安心した顔をしている。
その笑顔が、どうしても引っかかって仕方がない。
「……今の方が、幸せそうじゃん……」
私は、もう一度二人の後ろ姿を見つめた。
楽しそうに手を繋ぎながら笑いあって歩く二人。
だけど、どれだけ見つめても、彼が振り返ることはなかった。
それが、なんだか余計に腹立たしく、そして悔しいような気持ちをかき立てる。
結局、私があのとき選んだのは、「一緒にいて楽しい人」だった。
けれど、今の柊斗が見せる表情は、そんな私には向けられたことのない表情だったことに気づき、なんとも言えないもやもやが胸に広がっていく。
一度自分から断ち切った関係のはずなのに、その胸の奥にじっとりと残ったもやもやが、どうしても消えてくれない。
「はぁ……」
私は一人ため息を着きながら家へと向かった。