第5話 『ギャルとオタクイベント』
ある日、放課後に隣の席の水島がふいに言った。
「ねえ、今度の休日、桜庭くんの好きなイベントがあるんでしょ?」
俺が好きなアニメのイベントが開かれる話を、なんで彼女が知っているのか驚いていると、水島はニコッと笑った。
「彼氏が楽しみにしてることは、やっぱ一緒に行くべきじゃん? ね、ウチも連れてってよ!」
勢いに押され、断る理由もないままに「じゃあ、一緒に行こうか」と答えると、水島は満足そうに「決まりね!」と笑顔を見せた。
こうして、まさかの二人での休日オタクデートが決まったのだった。
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待ちに待った休日。
今日は水島とオタク系のイベントに行く約束をしていた。
実はこのイベント、ずっと楽しみにしていたんだけど、まさか彼女と一緒に行くことになるなんて思ってもみなかった。
待ち合わせ場所に着くと、すでに水島が待っていた。
いつもと違ってカジュアルな服装の彼女は、どこか新鮮で、思わず見惚れてしまう。
「おはよ、桜庭くん!」
「おはよう、水島。……今日は、なんかまた雰囲気違うな」
「そう? 今日は桜庭くんと一緒に楽しむ日だから、張り切っちゃった!」
無邪気に笑う水島に、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。
二人でイベント会場に向かいながら、「本当にオタクのイベント、楽しめるかな?」と少し心配になるが、彼女は「大丈夫、任せて!」と自信満々だ。
会場に入ると、普段見慣れている景色とはいえ、やっぱり多くの人が集まっていて圧倒される。
会場中が好きな作品のグッズやコスプレイヤーで溢れていて、テンションが自然と上がってしまうのを感じる。
「すごい! こんな世界があるんだね」
水島は目を輝かせて周囲を見回している。
周りからギャルっぽい水島と並んで歩く俺たちの姿をちらちら見られている気もするが、彼女はそんなことを全く気にしていない様子で、イベントを全力で楽しんでいる。
「ねえねえ、桜庭くん! あのキャラクターって、前に教えてくれたやつだよね?」
水島が指差す先には、俺が好きなキャラクターの大きなパネルがあった。
彼女が自分の話を覚えてくれていたことに驚きと嬉しさが湧いてきて、思わず頷く。
「そうそう、それ! 覚えててくれたんだ」
「もちろんだよ! 桜庭くんが好きなキャラだしね。あ、このフィギュアもかっこいい!」
水島が興味津々にグッズを手に取って眺めているのを見ていると、彼女が本当に俺の趣味に興味を持ってくれているのが伝わってきて、胸が温かくなる。
しばらく会場を歩いていると、水島が目に止まったグッズをいくつか指差し、「こっちも見てみたい!」と言って楽しそうに次々と見て回る。
彼女の反応が純粋に楽しそうで、俺もどんどんテンションが上がっていく。
そして、俺の大好きなキャラクターの限定グッズが販売されているブースにたどり着いたとき、水島が大興奮して声を上げた。
「わあ、すごい! これって桜庭くんが好きなキャラの限定品だよね?」
「そうなんだよ、これ、なかなか手に入らなくてさ……」
本当に欲しかったグッズだったが、少し値が張るので迷っていると、水島が真剣な顔で言った。
「せっかくだし、買っちゃいなよ! 今日は特別な日でしょ?」
彼女の背中を押すような言葉に、つい「そうだな」と頷き、思い切ってそのグッズを手に取った。
水島は「いいじゃん!」と喜んでくれ、なんだか彼女と一緒にこのグッズを手に入れたことがさらに嬉しく感じた。
昼ご飯のために一度会場を出て、近くのご飯屋さんで休憩することに。
水島はご飯屋に入ると「楽しかったね!」と満足そうに言ってくれて、俺も自然と笑みがこぼれた。
「本当に、水島が楽しんでくれるとは思ってなかったよ」
「え、めちゃくちゃ楽しいよ? なんか新しい世界を見れた気がするもん! 桜庭くんが好きなものを見てると、ウチも一緒に好きになりそう」
その言葉が嬉しすぎて、思わず「ありがとう」と言いかけたが、照れくさくて言葉がつまってしまった。
でも、水島にはちゃんと伝わっているみたいで、彼女は「えへへ」と照れ笑いを浮かべていた。
休憩しながら話していると、水島が「今日は最高のデートだった!」と笑顔で言ってくれて、心が温かくなるのを感じる。
水島と一緒にいると、どんどん自分が変わっていく気がする。
再び会場に戻り、午後のイベントも堪能した後、二人で駅に向かって歩き出した。
周りの視線を気にすることなく楽しんでくれた彼女の姿を思い出し、思わず口を開いた。
「今日は本当にありがとうな、水島。お前がいてくれて、すごく楽しかった」
「こちらこそ! なんか、桜庭くんと一緒だと私も新しい発見がいっぱいだよ!」
その言葉に胸がじんとする。
彼女は俺の趣味を真剣に楽しんでくれて、自分を理解してくれる存在なんだと改めて実感した。
これからも、彼女といろんなことを一緒に楽しんでいきたい。そんな気持ちが胸にあふれてくるのを感じた。
まだぎこちない部分もあるけれど、俺にとって水島は本当に大切な存在になりつつある。