第4話 『ギャルが真剣にオタクグッズを見る姿はなんだか面白い』
放課後、いつものように水島と一緒に下校することになった。
隣の席に座る彼女と話す時間が増えてきて、少しずつ「彼氏と彼女」らしい関係になりつつあるのが、なんだか不思議で嬉しい。
「ねえ、今日はどこか寄り道する?」
ふいに水島がそう切り出してきた。
楽しそうな表情で俺を見つめる彼女の顔に、思わず笑顔になりながら答える。
「うーん……ちょうど、アニメショップに新しいグッズが入荷されたらしくてさ。ちょっと見に行きたいなって思ってたんだけど」
その瞬間、水島の目がキラッと輝いた。
「え、それ楽しそうじゃん! 私も一緒に行っていい?」
まさかこんなふうにあっさり「行きたい」と言ってもらえるとは思わず、驚きとともに心が温かくなるのを感じた。
元カノにはこの手の話題をすると「無理」と言われてしまっていたから、俺の趣味に興味を示してくれるのは本当に嬉しい。
「もちろん、いいけど……本当に楽しめるかな?」
「大丈夫だって! だって桜庭くんの好きなものなんでしょ?分からなくても楽しいに決まってるよ!」
そう言って明るく微笑む彼女の顔に、心がじんと温かくなるのを感じる。
水島と一緒にいると、過去のことなんてどうでもよく思えてしまう。
俺の趣味を全力で受け入れてくれる彼女といると、まるで自分の居場所ができたかのようだった。
そしてそのまま二人で駅近くのアニメショップに足を運んだ。
平日の夕方ということもあってか、店内にはそこまで人は多くなく、俺たちはゆったりと店内を歩きながら新しいグッズを見て回る。
「わあ、すごいね……こんなにたくさん種類があるんだ!」
水島は目を輝かせて商品棚を眺めている。彼女の視線の先には、俺が大好きなアニメのキャラクターグッズが並んでいる。
思いがけず真剣な表情でギャルがオタクのグッズに見入っている姿が少し新鮮で、つい微笑んでしまう。
「これが、桜庭くんが好きなキャラ? あ、カッコいいね!」
水島は棚に並ぶフィギュアを見て興味津々に声を上げる。
俺は少し照れくさくなりながらも、頷いて彼女に説明を始めた。
「そう、このキャラが俺の一番好きなキャラクターなんだ。強くてクールなんだけど、仲間思いでさ……」
魔法少女の主人公のライバルキャラが俺の推しだ。
つい熱が入ってしまい、細かいキャラ設定や魅力を語っていると、水島が真剣に耳を傾けてくれているのが伝わってくる。
キモイとか思わずにこうやって真剣に話を聞いて受け入れてくれるその姿勢がとても嬉しい。
普通なら、こんな話をされたら退屈だと思ってしまうのかもしれないが、彼女は笑顔で「うんうん」と相槌を打ってくれる。
「え、めっちゃかっこいいじゃん! そのキャラのこと、もっと知りたくなっちゃった!」
水島の言葉に思わず目が丸くなる。俺がこんなに好きなものを、彼女が楽しそうに受け入れてくれている。
否定されるどころか、興味を持ってくれることが嬉しくて仕方がない。
「じゃあ……今度このアニメ、一緒に観る?」
思い切って誘ってみると、水島は迷いもなく「うん!」と即答してくれた。
「やったー! 彼氏の趣味をもっと知りたいし、なんか一緒に観るってワクワクする!」
心から楽しそうに言ってくれるその笑顔を見ていると、今までの寂しさや過去の傷が少しずつ癒えていくような気がする。
彼女の存在が、自分にとってどれほど大切なものになってきているのかが分かる。
俺が夢中でグッズを見ていると、水島がふと別の棚の方に歩いて行った。
どうやら興味を引く商品があったようだ。
少し離れたところで彼女の様子を見ていると、まるで子供のように目を輝かせてグッズを眺めているのが見えて、思わず笑顔になる。
しばらくして水島がこちらに戻ってきて、「ねえねえ、これどう思う?」と手に持っていたのは、俺の好きなキャラの小さなキーホルダーだった。
「このキャラ、さっき桜庭くんが話してたやつだよね? せっかくだし、おそろいで買っちゃおうか!」
俺は驚きながらも、その提案に嬉しさがこみ上げてくる。まさか一緒にグッズを買おうと言ってくれるなんて、思いもしなかった。
「いいのか? オタクっぽいグッズだけど……」
少し遠慮がちに言うと、水島は笑いながら「だからいいんじゃん!」と楽しそうに返してくれた。
そして、二人で一緒にキーホルダーを買って、店を出る頃には、俺の心は温かい気持ちで満たされていた。
帰り道、水島がふと手元のキーホルダーを見つめて言った。
「こういうの、今まであんまり興味なかったけど……彼氏の趣味って知ると楽しいね!これから見てみようと思う!」
そう言って笑う彼女を見て、俺は心の底から感謝の気持ちが湧いてくる。
彼女が自分を大切に思ってくれていることが、これほどまでに嬉しいものなんだと実感する。
「……ありがとう、水島」
素直にそう言うと、水島はちょっと照れたように「どういたしまして!」と笑顔で答えてくれた。
その笑顔に、俺は改めて「彼女がいてくれて良かった」と思う。
こうして彼女が自分の好きなものを理解してくれるたびに、少しずつ心の奥にあった寂しさが和らいでいくのを感じた。