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第43話 『好きなモノ紹介 その2』


「お待たせ!」


 駅前で待ち合わせていた私は、少し小走り気味に柊斗の元へ向かった。

 いつも通り控えめな笑顔で手を振る柊斗の姿を見て、自然と私も笑顔になる。

 はぁ、幸せ……。


 柊斗がお互いの好きなモノをプロデュースしようと提案してくれてまずは柊斗の好きなモノに触れた後日。

 今度は私のターンがやってきた。

 少しだけ柊斗に何をプロデュースするか考えたが、答えはすぐに出た。

 

「いや、そんなに急がなくても大丈夫だって。俺が早く着いただけだし」


 気を使ってなのか本当なのかは分からないけれど彼はそんな言葉をかけてくれる。

 こんな風にさり気ない気遣いができる彼のことが私は好きだ。


「でも、待たせたら悪いじゃん! ほら、今日は楽しもうね!」


 私がそう言うと、柊斗は「うん」と頷き、ふと何かを思い出したように顔を上げた。


「それで、今日はどこ行くの? 紗良が好きなところって言ってたけど」


「えーっとね……そう! 今日はメイク用品がいっぱいあるお店に行こうと思ってるの!」


 柊斗の顔が一瞬「メイク?」と言いたげに固まったのが分かった。

 でも、それがまた可愛らしい。

 そう、今日私が柊斗にプロデュースする、好きなモノは『オシャレ』だ。


「大丈夫、難しい話じゃないから! ね、早速行こ?」


 私は柊斗の腕を軽く引っ張り、目的地のメイクショップへと向かった。


 店内に入ると、そこは色とりどりの世界だった。

 アイシャドウ、リップ、ファンデーション……棚一面に並んだ商品が、どれもキラキラと輝いている。


「うわ、すごいな……」


 柊斗は周囲を見渡しながら、思わず呟いた。

 なれない場所に入って、少し周りをキョロキョロしながらオドオドしてる様子がなんだか愛らしい。


「でしょ? ウチ、この場所大好きなんだよね」


 私はお気に入りのリップが並ぶ棚に近づきながら話し始めた。


「ほら、これ見て。このリップは発色がすごく綺麗で、長持ちするんだよ。それに、このシャドウはね、目元を華やかにしてくれるの!」


 柊斗は「へええ、そんなに違うんだ」と感心しながら私の話を聞いてくれる。

 その素直な反応が嬉しくて、つい話すスピードが早くなってしまう。


「あとね、これ! このパウダーは細かいラメが入ってて、すごく肌が綺麗に見えるの!」


「なるほど……なんていうか職人技みたいだな」


「ぷふっ、何それウケる」


 柊斗がそんなことを言うから、思わず吹き出してしまった。


「最近さ、男子もメイクすることが増えたんだよね」


「そう言えば前そんなこと言ってたなぁ」


 前2人で遊んだ時にナチュラルメイクをしたからな。それを覚えてくれていたのだろう。


「うん。ちょっと眉毛を描くだけでも印象が全然変わるんだよ!なんせ女子の八割が眉毛で第一印象が変わるって思ってるだとか!?」


「へえ……そんなに違うのか……でも、俺に似合うかな」


 柊斗が自分の顔を触りながらそう言うので、私は笑いながらアイライナーを手に取った。


「じゃあ試してみる? 絶対似合うと思うよ!」


「いやいや、俺なんかが?」


「いいから! 店員さんに聞いてみるね」


  私は近くにいた店員さんに「試してもいいですか?」と尋ねると、快くOKをもらった。


「じゃあ、ちょっと目を閉じて。そうそう、そのままじっとしててね」


 柊斗の顔に少しずつラインを引いていく。

 アイライナーを使って眉毛を整え、ほんの少し濃くするだけで印象が変わるのがわかる。


「できた! 見て見て!」


 私は手鏡を渡し、柊斗が自分の顔を見る。


「おお……なんか違うな、これ」


「でしょ!? ちょっと垢抜けた感じしない?」


「まあ……そうかも。でも、紗良が楽しそうだから、それでいいや」


 そう言って少し照れくさそうに笑う柊斗の顔を見て、私の胸がじんと熱くなった。

 そんな私は思わずこんなことを口走ってしまった。


「どうする? このアイライナー、買ってみる?」


「うーん……じゃあ、試しに買ってみようかな」


 あ、なんか断りずらい提案をしてしまったな、とか思ったがすんなりと柊斗がそう言うと、私はすぐに「絶対似合うから大丈夫!」と背中を押した。


「こういうの初めてだけど……紗良が言うなら信用するよ」


「おお!そこまで言ってくれるならその言葉、忘れないでね!」


 私たちはレジでアイライナーを購入し、次の目的地へと向かった。


 次の目的地へ向かう途中、柊斗がぽつりと呟く。


「なんか、今日ちょっと新しい自分に出会えた気がする」


「でしょ? 自分を変えるって楽しいんだよね」


 私はそう言いながら、柊斗の横顔をちらりと見た。

 その姿は少しだけ誇らしげで、何だか頼もしく見えた。


 次は服屋さん。楽しみだなとそんなことを思いながら、私達は二人並んで歩き続けた。


 

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