第42話 『好きなモノ紹介 その1』
週末、私たちは駅前で待ち合わせていた。
平日は学校で話しているけれど、こうして二人で会うのはまた違う特別な時間。
駅前の目印に着くと柊斗が既に到着しておりスマホを見ながら何やら考え込んでいた。
「お待たせ!」
「おう、紗良!」
私の姿を見た柊斗は、いつもの控えめな笑顔を向けてくれる。
その顔を見ただけで、胸の奥が少しあったかくなるのが不思議だった。
「さて、今日は何するの?」
私がそう聞くと、柊斗は少し照れたように口を開いた。
なんだか今日は前々から柊斗がデートをプロデュースしてくれる、との事だったので私は何も考えてきていない。
彼がどんなデートプランを考えてくれたのか楽しみだ。
「紗良、さ……お互いの好きなものをもっと知るために、プレゼンみたいなことしないか?」
「プレゼン?」
はて、それはどういうことだろうか。
「俺が紗良の好きなものにちゃんと向き合うし、紗良も俺の好きなものに付き合ってくれる……みたいなさ」
その提案に私は思わず笑ってしまった。
柊斗って本当に真面目だな。でも、そんな彼の真剣なところが私は大好きだった。
「いいね! じゃあ、今日は柊斗のターンね!」
そう言うと、柊斗は少し驚きながらも「よし、行こう」と動き出した。
******
紗良が俺の好きなアニメショップ巡りに付き合ってくれるのは、数回目になる。
前回は俺の推しキャラの話をしたけど、今回は別の作品の話をしたかった。
店に入ると、紗良は「やっぱりここ、すごいね!」と嬉しそうに目を輝かせている。
ほんとに紗良はなんというか彼女として100点満点の反応をしてくれるよな。
今日もアニメショップに行くっていう結構俺よりなデートプランなのに何も言わずにいいね!と言ってくれる。
「柊斗の最近はどのキャラが推しなの〜?」
彼女が少しニヤニヤしながらそう聞いてくるので、俺は少し照れながら答えた。
「えっと……この作品の、このキャラかな」
指さしたのは、今季の人気アニメのキャラクターだった。
強気で可愛らしい性格の女の子で、俺が最近ハマっているキャラだ。
紗良はそのキャラクターのグッズを手に取り、
「この子かー! 確かに可愛い!」
と笑顔を見せる。
紗良も可愛いよ、とか言いそうになったが少し恥ずかしくてやめておいた。
「見た目は可愛いらしい感じなんだけど中身は結構自分の意思がハッキリしていてしっかりしている、自分の芯がある素晴らしい子なんだ」
そこまで言って気づいた。
「なんて言うか……紗良みたいだな」
そうポツリと俺が言うと、紗良はなんとも言えない表情を浮かべた。
「ん、んん?ウチ褒められてるってことでオーケー?」
まぁそりゃそうなるわな。推しと重ね合わせられて褒められても推しが褒められてるのか自分が褒められてるのかよく分からんことになる。
「オーケーオーケー」
と返しておく。
「このアニメってどんな話なの?」
紗良が興味津々に聞いてくれるから、俺は簡単にストーリーを説明した。
「この子はね、普段は強気なんだけど、実は仲間想いで……」
話しているうちに、いつの間にか夢中になってしまい、気づけば紗良がじっとこっちを見ていることに気づいた。
「……な、何?」
「ううん、柊斗って本当に好きなこと話すとき、楽しそうだよね」
その言葉に、その俺の全てを受け止めてくれるような微笑みに、顔が少し熱くなるのを感じた。
******
柊斗が好きなアニメについて、そのキャラクターについて語る姿は、本当に楽しそうだった。
そんな彼を見ていると、私もつられて楽しい気持ちになる。
「じゃあさ、記念にそのキャラのグッズ買ってみようかな」
「えっ、本当?」
「うん! 柊斗が推してるキャラだし、ウチもこの子に詳しくなりたい!」
そう言って手に取ったアクリルスタンドをレジに持っていくと、柊斗は嬉しそうに「ありがとう」と言ってくれた。
──私もこのキャラ、好きになれそう。
次に、柊斗が「ここ、紗良も好きかもしれない」と言って案内してくれたのは、アニメカフェだった。
「こんな場所もあるんだ!」
店内にはキャラクターのポスターやグッズが並び、メニューもアニメの世界観に合わせたものばかり。
「これ、見て! このキャラのドリンクだって!」
「おっ、それ頼んでみようか」
二人で一緒にメニューを選びながら、アニメの話で盛り上がる。
その時間が本当に楽しくて、自然と笑顔がこぼれるのを感じた。
******
紗良が俺の好きなものを楽しんでくれている姿を見て、胸がじんと熱くなる。
「紗良、今日はありがとうな」
「え、どうしたの、急に」
「いや、なんかさ……こうして一緒に好きなものを共有できるのが、すごく嬉しくてさ」
俺が正直な気持ちを伝えると、紗良は
「こっちこそありがとうだよ!」
と笑顔で返してくれた。
「好きな人の好きなモノを知ることが出来るって、とても貴重な時間だとウチは思うから、だから嬉しい」
そう言って微笑む紗良を抱きしめたくなる気持ち、母性本能?みたいなのがありもしないものがくすぐられなくもないが、人前なのでそれは抑えておく……。
「柊斗のおかげで、新しい世界が広がった気がする。これからもいろいろ教えてね!」
その言葉に、俺はただ「もちろん」と頷いた。
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夕暮れの街を歩きながら、紗良は手に入れたグッズを大事そうに抱えていた。
「次は紗良の好きなモノに付き合うからな」
「次はウチのターンね! ウチの好きなもの、柊斗にいっぱい教えてあげるから!」
「楽しみにしてるよ」
次は紗良の好きな世界を見せてもらう番だ。
そう思うと、少しだけ緊張しつつも楽しみな気持ちが膨らむのを感じた。




