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第41話 『これからも私らしく』

 次の日、学校に行くとすぐに柊斗が近づいてきた。

 彼は私の顔を見るなり、心配そうな表情を浮かべて口を開く。


 あれから帰って柊斗と電話でもしようかとも思ったが、なんだか直接会って喋りたいな、というふうに思ったので、とりあえず大丈夫だったということは伝えて、詳細はまた明日話す、ということにしていた。


 そしての今日だった。

 柊斗も私と中学時代の友達のことについてはかなり気にかけてくれていたのですぐに彼がやってくるのも分かる。


「昨日、どうだった?」


 昨日の友達との再会のことを言っているのだとすぐに分かった。


「うん……ちゃんと話せたよ」


 彼にそう伝えると、彼は少しだけ表情を和らげた。


「そっか。よかった」


「でも……少しだけ泣いちゃった」


 放課後、校舎裏で柊斗と二人で話す時間を過ごした。


 彼の隣に座りながら、私は昨日の出来事をすべて話した。


 友達が私の変化に驚いていたこと。

 無理しているように見えると言われたときに傷ついたこと。

 でもそれは私のことを心配してるがゆえの言葉であり、最後には、友達が私の選んだ道を、『好きなモノ』を認めてくれたこと。


 そして、そんな私のまとまりが一切ない話を柊斗は、私の言葉にひとつひとつ頷きながら静かに聞いてくれた。


「そうだったんだな、紗良はとても頑張ったんだな」


 そう言って彼は私のことを肯定してくれる。

 彼が言葉を口にするたびに、私は少しずつ心が軽くなっていくのを感じていた。


「ねえ、柊斗」


ふと私は、彼に尋ねた。


「もしも……私が、ギャルじゃなくて、普通の高校生の私に戻ったら、どう思う?えーっと、前一回学校にしてきた感じの」


 それは気になっていた。どんな私でも認めてくれる彼への確認であった。あくまでも確認。安心するための。


 そんな私の突然の問いに、柊斗は少し考え込んだが、あとで笑みを浮かべ答えた。


「紗良がどうなるかなんて、俺には関係ないよ」


「えっ?」


「紗良が自分で選んだ道なら、俺は何だって応援する。それが普通の紗良でも、ギャルの紗良でも、紗良は紗良だから」


 彼の言葉は、あまりにもあっさりしていて、でもすごく真剣で、彼の本心から告げられた言葉であることがすぐに分かる。


「……柊斗って、本当にそういうとこズルいよね」


「ズルい?」


「だって、そんな風に言われたら、私、泣いちゃいそうじゃん」


 実際私の涙腺は緩みかけていた。まずいまずい。


 思わず笑いながら言うと、柊斗も笑って「それは困るな」と冗談めかして返してくれた。




 ******



 

 俺は紗良が笑顔を取り戻してくれたのを見て、心底ホッとしていた。

 友達と会いに行く前の紗良は決意を決めた表情をしてはいたものの、どこか緊張していて、どこか上の空な感じがしたからだ。


 そんな彼女の心からの笑顔を見ることが出来てとても嬉しい気持ちになる。


「でもさ、紗良。昨日のことで、何か思うことあった?」


 俺が尋ねると紗良はうーん気づいたことかぁと少し考えてから、


「……うん。友達たちと話して、改めて気づいことあったんだ。やっぱり私、本当にギャルでいることが、可愛い私でいることが好きなんだなって。メイクとか、ね」


 紗良はそう言って微笑む。


「ってことでまた柊斗にギャルメイクさせてね?」


「もうあれは勘弁してくれ」


 そんな冗談まじりのやり取りをして俺たちはクスクスと笑いあった。


「中学のときは、みんなに合わせてばっかりで、みんなと一緒にあることが正しいって疑わなくって窮屈だった。……けど今は、自分が好きなことを選んで、それを貫くことができるくらい私も強くなった。そしてそれを認めてくれる人が周りにいてくれるってことに気づけた。そう思ったら、なんか誇らしい気持ちになれたよ」


 彼女のその言葉を聞いて、俺は心の中で小さくガッツポーズをした。


「それが紗良のいいところだと思うよ」


「え?」


「好きなことに正直でいられるって、すごくかっこいいことだよ。俺にはそれができなかったから、紗良が本当にすごいと思う」


「……柊斗」


 彼女が嬉しそうに笑う姿を見て、俺も自然と笑みがこぼれた。


「……まぁ元はといえばそれは柊斗のおかげなんだけどね」


「……ん?」


「何もないよっ」


 ふふんとしたり顔の紗良。何かボソッと言った気がするがまぁいい。

 紗良が楽しそうなら俺はそれで幸せだ!




******




 その夜、家に帰ってから私は机に向かい、ノートを開いた。


『好きなことに正直でいられるって、すごくかっこいいことだよ』


 柊斗のその言葉が、ずっと頭に響いている。


 私がギャルでいるのは、誰かに見せるためじゃない。 

 他でもない自分のためだ。

 自分の好きなものを素直に楽しむためだ。


 そうだよ。私はこれでいいんだ。


 ノートに「自分らしくいること」という文字を決意と共に書き込んだ。


 

 翌日、学校に行くと、柊斗が廊下にいた。


「おはよう、紗良」


「おはよう、柊斗くん」


 彼の優しい声に胸が温かくなる。


「今日はありがとうって言いたくて」


「何が?」


 突然のお礼に戸惑った様子の彼。


「全部。私のことを認めてくれて、支えてくれて……本当にありがとう」


 いきなりのお礼に彼が少し照れくさそうに頭を掻くのを見て、私は心の中で微笑んだ。


 ──これからも、私らしくいよう、私らしく頑張ろう。


 そう思えたのだった。


 

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