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第40話 『私の好きなモノ』

 二度目の再会の日がやってきた。


 先日、久しぶりに会った中学時代の友達たち。

 懐かしさと楽しさは確かにあったけれど、どうしても心の中に残った違和感が拭いきれない。


 てっきり私はギャルである水島紗良を全否定されているのかと、そう思っていた。

 しかしそうでは無いかもしれない、ということを前三人に会って話してみて気づいた。


 今日はその違和感に向き合うために来たんだ、と自分に言い聞かせながら、待ち合わせ場所のカフェへ向かう。

 三人はカフェ巡りにハマっているらしく、今回も前回とは違う行きつけのカフェを教えてくれるらしい。

 可愛いもの好きの私からしたら大歓迎である。

 もし良かったら、今度柊斗とも行ってみようとも思ったりした。


 店の入口を開けると、先に到着していた美咲、千佳、奈央が手を振って迎えてくれた。


「紗良、遅いよー!」


 美咲の明るい声に、私は少しだけ緊張をほぐすように微笑む。


「ごめんごめん、ちょっと準備に時間かかっちゃって」


「まあいいけど! ほら、座って座って」


 いつものように笑顔で迎えてくれる彼女たちに安心しながらも、どこか胸の奥にモヤモヤが残ったまま席に着いた。


 みんなチーズケーキやプリンなど甘いものを頼み、食べながらこのお店の事や、少し雑談をした後、美咲が私に話を振ってきた。


「紗良ってさ、高校入ってから急に変わったよね」


「……そうかな?」


「うん、だってギャルになったじゃん。中学のときはそんな感じじゃなかったのに」


「まあね……」


 私は曖昧に笑ってごまかした。でも、美咲はさらに言葉を続ける。


「──でもさ、一番このことが気になってるんだけど、なんで紗良は急にギャルになろうと思ったの?」


 千佳も奈央も、美咲の言葉に興味津々といった表情で私を見つめてくる。


 ……来た。


 正直、この質問が出るのは予想していた。

 でも、実際に言われるとやっぱり少し胸がざわつく。


「なんでって言われても……」


 言葉を選びながら答えようとするけれど、なんだかうまくまとまらない。


「まあいいじゃん、紗良が好きでやってるんでしょ」


 千佳が軽くフォローするように言うけれど、そのあとに続けた言葉がまた胸に刺さった。


「でもさ、紗良って中学のときはなんて言うか、成績も結構良かったし普通の優等生って感じだったからさ。急にギャルになったのがちょっと意外っていうか……」


 奈央も頷きながら言葉を足す。


「うんうん。なんか無理してるみたいに見えるっていうか」


 その言葉に、私は思わず拳を握りしめた。


「……無理してる、か」


 小さな声で呟いたつもりだったけれど、三人ともそれを聞き取ったようだった。


 美咲が少し慌てた様子で言葉を続ける。


「いや、別に悪い意味じゃなくてね! ただ、前の紗良も良かったよってことだよ」


「そうそう、あの頃の紗良も可愛かったし、みんなと馴染んでたし」


 千佳も奈央も笑顔でそう言うけれど、私の中で何かが引っかかり続けている。


 馴染んでた、か……。


 あの頃の自分を思い出す。

 みんなと同じように振る舞って、同じような服を着て、同じようなことを話していた自分。


 でも──私は溢れ出る想いを止められなかった。


「……ウチね、あの頃の自分が嫌だったんだ」


 気づいたら言葉が口をついて出ていた。

 俯きながらそう呟いた私。

 顔を上げると、三人が驚いたような顔をする。


「嫌だったって……どういうこと?」


 美咲が聞き返してくる。私は少し息を吐いてから続けた。


「あの頃のウチは、自分が本当に好きなことを言えなかった。みんなと違うのが怖くて、好きなものも隠してた。あの時も今みたいなこういう可愛いモノが好きだっていうのはずっと有って……家でメイクの練習とかしたりもしてた」


 千佳が「そんな風に、思ってたんだ」と呟く。


「だから、高校に入ったときに変わりたいって思ったの。自分が好きなことを隠さずにいたいって」


 そう私が言い切ると、三人は黙り込んだ。



 


 ******




 

 紗良がこんな風に自分の想いを語るなんて、思ってもみなかった。

 そしてそれと同時に、そんなふうに中学時代色々考えていたなんて……思いもよらなかった。


 そうだったんだ……あの頃、そんなこと思ってたんだ。


 自分たちの中では、紗良は「普通で馴染んでる子」、いわゆる優等生だったから、そんな悩みを抱えていたなんて全く気づかなかった。


 でも……今の紗良って、なんかかっこいいかも。


 そう思った瞬間、美咲は口を開いた。


「紗良、なんかすごいね」


「え?」


 いきなりのその言葉に俯いていた紗良は、思わず声を上げ、顔を上げた。


「だってさ、自分の好きなことに正直になれるって、すごいと思うよ。まぁちょっと違うかもしれないけど私は今好きな人がいるんだけど……」


「「え!?」」


 千佳と奈央が驚きの声をあげる。

 紗良もいきなりの美咲の告白に声は出さなかったものの驚いた。

 美咲はどちらかと言うと中学からお調子者のムードメーカーというイメージがずっとあった。

 なのでそんな彼女に好きな人がいる、ということを聞いたらそりゃあ驚く。


「ちょっと待ちなされ」


 追及したそうな二人と紗良をなだめるように美咲はそう言った。そして話を続ける。


「好きな人がいるけど私はすぐにその『好き』に素直になれなくて……でも紗良は自分の『好き』に素直になれていて凄いと思う……。だからえーっと何が言いたいかって言うと、私は紗良のそういうとこ尊敬してる」





******


 



『尊敬してる』


 いきなり言われたその言葉に私は驚いた。

 

 自分の『好き』を貫く姿勢が友達に認められてとても胸が満たされた嬉しい気持ちになった。


「それとごめん」


 いきなりそういうと、美咲は私に頭を下げた。

 そして申し訳なさそうに続ける。


「私たち紗良の『好き』をずっと否定してたよね。ちょっと無理してるんじゃないかって……ほんとにごめん。私たち三人とも紗良のことについて話す機会があったんだけど、その時三人で話した時に出たのは、紗良が好きでギャルをしてるならそれは私たちは否定するべきじゃないんだけど、もし紗良が無理をしてギャルをやっているんだったら私たちは嫌だなって思ってたんだ」


 なるほど、そういうことだったのか。

 単純に私のことを心配してくれただけ、そういうことだったのか。


「でも、その心配がいっそう紗良のことを縛って苦しめてたんだよね、紗良が好きなモノを好きなら素直に友達としてそれを応援するべきだったのに……本当にごめんなさい」


「「ごめんなさい」」


 美咲が深々と頭を下げると、それに倣うように奈央と千佳の二人も頭を下げる。

 三人の気持ちは嬉しくはあるが少し困る。

 なんかカフェの中で三人が一人に対して頭を下げてる絵は、どう考えても周りから見たら『おかしな光景』である。

 心無しか周りからの視線を感じる。


「まぁまぁ、三人とも一旦顔を上げて」


 そう言うと三人ともと目が合う。


「私のこと沢山考えてくれてたんだね、私こそそんな三人の気持ちも知らずに、勝手に自分の『好き』を否定されたと勘違いしてた、ごめん」


 私は一度頭を下げてから、三人に向き直って、そして微笑んだ。


「私の『好き』を認めてくれてありがとう」


 そう言うと三人もニコッと微笑んで応えてくれた。

 

 ──ああ。

 

 自分の『好き』を貫いて、周りがそれを認めてくれる事はこんなに嬉しいことなのか。

 私はそうしみじみと思ったのだった。


「それより……」


 私は気になることがあった。


「私は『可愛いもの』が好きでギャルメイクとか憧れててやってた訳なんだけどさ……美咲の『好き』についても教えて貰える?」


 そう思わずニヤニヤしながら美咲に聞くと美咲は露骨に顔を赤らめた。


「え、ええ……」


 ──かわよ。さすがに可愛すぎる。


 いつもお調子者の『女の子の顔』はこんなにも可愛いくて、尊いものなのか。


 そんな誰目線なのか分からない感想を私は抱いたがそれは奈央と千佳も同じようで……。


「可愛いかよっ」


「教えてよ〜、美咲さん、あなたの『好き』について」


 三方向からのニヤニヤ攻撃に思わず美咲は声を上げた。


「もう……三人してからかうのはやめてええ!」




******


 


 帰り道、私は心が少し軽くなった気がしていた。

 三人とはあれから美咲の『好き』について話したり、私の『好きな人』についても話したり、色々な話をした。

 柊斗の事だ。

 私の色々な『好き』を三人みんなは頷きながらとても丁寧に聞いてくれた。


 なんだか今日話せて、中学時代の時以上に、お互いをさらけだして、それを受け入れ合って、本当の意味で仲良くなれた気がする。そんなことを思った。


 そしてまた会おうと、次また会う日まで決めてからお開きになった。


 私は夕暮れに染る道を一人歩きながらふとしみじみと思った。


 ──自分の好きなことを選んでよかったんだ。


 自分の『好き』、例えそれが周りから認められなかったとしてもそれを貫けば私の『好き』を認めてくれたり、共感してくれる人が現れる、そう感じることが出来た今日だった。

 そして私の心はとても心地の良い感触で満たされていた。


 柊斗に早く教えてあげなきゃ。


 そう思いながら私は家への道を歩むペースを少し早めたのだった。

 

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