第39話 『可愛いは否定されない?』
少しだけ怖い気持ちはあった。
今日は美咲達とカフェでスイーツを食べようと言う話になり、四人で集まることになっている。
久しぶりに四人で遊ぶ、ということもあり少し懐かしさが込み上げてくる、と同時に少し怖さも感じる。
鏡に映る自分を見る。メイクはバッチリ。
どこからどう見てもギャル。
私の好きな私。
それを例え周りから認められなかったとしても、みんなが私のことを好きじゃない、そんなふうになろうとも、私は、私だけは私のことを好きでいよう。そう決意する。
「頑張れ私」
鏡の向こうの自分に対してそうつぶやき、決意を込めて拳をぎゅっと握る。
「大丈夫大丈夫」
そういいきかせてから私は家を出て、待ち合わせのカフェへと向かったのだった。
******
待ち合わせ場所のカフェに着くと、店内の明るい光と、笑い声が耳に入ってきた。
入口近くのテーブルに座る三人──中学時代の友達が見えた瞬間、懐かしさと緊張が一気に押し寄せてくる。
「紗良!」
私に気づいた美咲が、明るい声で手を振ってくれた。それに続いて、千佳と奈央も笑顔を見せる。
「久しぶり!」
「本当に久しぶりだね!」
三人の声に迎えられて、私は少しホッとしながら席に着いた。
注文を済ませ、しばらくは当たり障りのない会話が続いた。
その会話も、空気も中学の時と何ら変わらずとても心地よい。
「紗良、全然変わらないね」
そこでぽつりと、千佳が笑いながらそう言ったのに対し、美咲が首をかしげて反論する。
「いやいや、むしろすごい変わったくない?ギャルになってるじゃん!」
その言葉に、奈央も笑い出す。
「たしかに! 昔はどっちかっていうと大人しめだったもんね」
三人とも悪気がないのはわかっている。
笑い混じりの軽い会話だ。でも、心のどこかで、少しだけ刺さるものを感じていた。
「そうかな? 高校入ってからちょっとイメチェンしただけだよ」
笑顔でそう返しながら、ふと自分の手元に目を落とす。
爪にはお気に入りのネイルが施されていて、カフェの照明に映えるように輝いていた。
この姿、そんなにおかしいのかな。
「でも、紗良が、こんなギャルになるなんて全然想像してなかったよね」
奈央が冗談っぽく言うと、美咲と千佳も同意するように頷いた。
「そうそう、中学のときの紗良って、なんか普通って感じでさ。地味でも派手でもなくて、いつもみんなと同じような感じだったよね」
三人が楽しそうに盛り上がる中、私は笑顔を浮かべながら聞いていた。でも、胸の奥がじんわりと重くなる。
今の私はそんなにおかしいの?
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私──美咲は紗良のことを見ながら、私は少しだけ不思議な気持ちになっていた。
紗良がほんとにギャルになってるなんて……。
彼女は中学のとき、本当に普通の子だった。
特別目立つこともなく、だけど誰からも好かれる存在で、私たちともずっと一緒にいた。
そんな彼女が高校に入ってからギャルになったと聞いて、最初は驚いた。
前一度たまたま会った時もとても驚いた。
でも、こうして会って実際に見た目がギャルの彼女を見てみると、意外と似合っている気もする。
──でも、本当に無理してないのかな。
私の──私たちの心配してるところはそれだった。
それだけが少しだけ気がかりだった。
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会話が進むうちに、少しずつ緊張はほぐれていったけれど、心の中の違和感は完全には消えなかった。
「最近はどうしてるの?」
美咲が楽しそうに近況を聞いてくれる。
「高校で友達と遊んだり、あとはまあ……メイクとかオシャレとか」
「へえ、なんか楽しそうだね」
「うん、楽しいよ」
「彼氏はいるのー?」
いきなり美咲がそう聞いてきた。
私はいきなりの質問に驚きつつも、
「うん……いるよ」
「「「おおおおお!!」」」
私がそういうとみんな少しオーバーにリアクションをしてくれる。
奈央がいいなぁ、と言いながら少しふざけながら、インタビューをする人みたいな感じで、向かいの席から乗り出してきて、エアーマイクを私の顔の前に差し出した。
「さすが紗良先輩!私たち3人ともそこら辺は何も無いもので……なんかコツとかないでしょうか!?」
「……え、えーっと……」
私が少し返事に困っていると美咲が、そんな困ってる私を感じとってくれたのか口を開いた。
「まぁ、紗良可愛いからね!」
そう言うと、千佳が、
「いや、そーなんだよねぇ、紗良は可愛いからなぁ……羨ましいっす……」
千佳がそういうと、奈央も納得した様子でエアーマイクを下ろして、うんうんとうなずいた。
そこで私は違和感を覚えた。
これは今までとは違うプラスな違和感だ。
──私の『かわいい』は否定されてない……?
そうなのだ、てっきり私の身に起こった突然のギャル変身が私に合っていない、三人はそう思ってる、と私は考えていた。
しかし今の話の流れを聞く限り、今の私でも『かわいい』、そういうことを言われたのだと私は解釈した。
「じゃあ、また近いうちに集まろうよ!」
そんなことを考えているうちに、何気ない会話が進み時間が過ぎ、お開きの時間になった。
千佳の提案で、次回も会う約束をして解散になった。
カフェを出て夜道を歩きながら、私は三人との時間を振り返る。
確かに楽しかった。懐かしい話もできたし、三人の笑顔を見て安心もした。
でも──。私はどうすればいいんだろう。彼女たちが私に対して何を思っているのだろうか。
それを確かめなければ行けない。
そう決意しながらも。
心に残るモヤモヤを抱えたまま、私は一歩ずつ家へと向かった。




