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第38話 『私を好きな彼のために』


「じゃあね!」


「うん、また明日」


 放課後、帰宅中。

 ヒラヒラと手を振り柊斗と別れを告げた。

 そして私は家へと向かう道の途中、スマホを思わずぎゅっと握りしめる。

 自分への決意を表すかのように。


 連絡するならこのタイミングだよね。

 そう自分に言い聞かせる。


 中学時代の友達に連絡を取るのは、ずっと避けてきたことだった。

 

 ギャルになった私が、あの頃の友達と再会して一緒に遊んだり、深く関わったりしたらどうなるのだろうか。

 前少しあっただけでも無理してる?と言われた。それは私を心配してのことなのか、それとも……。

 まぁ今そんなことをひとりブツブツと考えたところで答えは出ない。


 逃げてばかりじゃ前に進めない。このモヤモヤを解決するには思い切って会って確かめる、それしかない。

 それも自分の力で、だ。

 こればかりは柊斗に頼ってはダメな気がする。

 こんなのはただの自己満なのかもしれないけど。

 

 思い切って前へと進む、それが大事だと気づかせてくれたのは柊斗だった。彼がそばにいてくれたから、私は変わることができた。


「やってみよう」


 深呼吸をして、震える指でスマホを操作する。

 メールのグループトークを開いて、メッセージを打ち込んだ。

 何回か文章を考えて打ち込んでは消して、を繰り返したが、途中でもう変わらないと思い思い切って送信ボタンを押した。


「久しぶり! 最近偶然会えたし今度みんなで1回会わない?」


 送信ボタンを押した瞬間、心臓が跳ねるような緊張が走る。


しばらくして、メッセージが返ってきた。


『えっ、紗良!? 久しぶりすぎ!』


 中学の時中が良かった3人のうちの1人、美咲からの明るい返信に、少しだけ緊張がほぐれた。


「懐かしい!」「元気だった?」ともう二人の千佳や奈央からも続けてメッセージが届く。


 よかった……。

 思わず彼女たちの反応に胸を撫で下ろしたけど、心のどこかで彼女たちの「本音」が気になってしまう自分がいた。




 ******



 

 紗良からメールが来たとき、私──美咲(みさき)は思わずスマホを握りしめた。


 紗良が久しぶりに連絡をくれるなんて、どういう風の吹き回しだろう……。

 まぁ最近会ったからな、とも思いつつも、彼女からの申し出に少し違和感を感じるのも確かだった。


 彼女の中学時代を思い出す。

 中学時代の紗良は、普通で目立つタイプじゃなかった。

 それなのに、今はギャルになったと聞いている。

 実際前彼女を見た時はとても驚いた。


「ねえ、美咲、紗良って本当にギャルになったの?」


 千佳が興味津々に聞いてきた。


「たぶんね。でも、なんで急に会おうって言い出したんだろうね?」


 奈央も首をかしげる。


「分かんないけど、久しぶりだし会ってみるのもいいんじゃない?」


「そうだね」


 三人とも少し不安を抱えながらも、待ち合わせの提案を受け入れることにした。



 


 ******


 


 あれからグループで少しやり取りを重ね、カフェで再会する日が決まった。

 家に帰ってから、少しだけ緊張が和らいだ気がする。


 鏡の前に立って髪を整える。

 お気に入りのネイルも確認する。


 ギャルになった今の私が、昔の友達にどう映るのか分からないけど、それでも自分の「好き」を否定するつもりはなかった。

 ギャルの自分に自信を無くしかけたが、それを柊斗に救ってもらった。

 私のためにも、そしてこんな私を好きでいてくれる柊斗のためにも、ギャルでいる私──私の好きな私を誇らろう、そう思った。


「これでいいんだよね」


 鏡に映る自分に、言い聞かせるように小さく呟く。


 今の私は、あの頃の私とは違う。それをちゃんと伝えられるといいな。

 そう思いながら、私は明日に向けて少しずつ気持ちを固めていった。



 


 *******



 


 下校で紗良と別れ、紗良の背中を見送りながら、どうしても俺は心配が拭えなかった。


「大丈夫かな……」


 彼女が一人で向き合おうとしているのは分かっているけど、それでも何か力になりたいと思う。

 何か出来ることは……そう思うが、彼女の私一人でやらなくちゃ、というような事を言った時の、彼女の決意が込められた表情を思い出す。


 ──紗良ならきっと大丈夫だよな。


 そう自分に言い聞かせながら、俺は紗良の成長を信じることにした。

 

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