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第37話 『挑む彼女、祈る彼氏』


 翌日、いつものように教室に入ると、柊斗が先に来ていた。私に気づいた彼は、少し照れたように笑いかけてくれる。


「おはよう、紗良」


「おはよう、柊斗」


 何気ない挨拶だけど、その優しい声が胸にじんと響く。


 昨日のことが頭をよぎった。柊斗が麗華さんと直接話をしに行くと言って出かけたあのときの真剣な表情。

 帰り道のメールで「話はついた」と報告を受けたとき、どれだけホッとしたか。

 どのような話をしたのかは分からないがここで私が心配してても柊斗が逆に私を心配してしまうだけな気がして、もうこのことに関しては私はこれ以上追及しないと決めた。


 けれど、まだ自分の中のモヤモヤが完全に消えたわけではない。

 柊斗の元カノ、麗華さんとの問題ではなくてもう一つの問題。

 思い出すと自然と顔が下がる。

 柊斗は昨日せっかく私のために元カノとキリをつけてくれたであろうに、それに応えられない自分に少し嫌気がさす。


 ──私は、どうしたらこの気持ちに区切りをつけられるんだろう……。


 そう思いながら席につくと、柊斗が小さな声で言った。


「放課後、ちょっと話さない?」


 驚いて顔を上げると、彼は真剣な目をしていた。


「昨日のこととか、ちゃんと話したいからさ」


 そんな彼の優しい言葉に、私は小さく頷いた。


「うん……わかった」


 


 ******


 


 放課後、私たちは校舎裏に向かった。


 ここは人通りも少なく、夕焼けが静かに照らす場所だ。柊斗と並んで立つと、ほんの少し風が吹いて髪を揺らした。


「ごめんな、紗良」


「……なにが?」


 彼が口を開いた。


「昨日、俺が勝手に動いたから不安にさせちゃったかもしれないけど……麗華にはもうちゃんと話をつけた。あいつは、もう紗良に何かしてくることはないと思う」


 その言葉に、胸がじんと熱くなる。


「ありがとう、柊斗。本当に……ありがとう」


 自分を守ってくれる彼の優しさが嬉しくて、自然と笑みがこぼれた。


 でも、その笑顔の裏側に、まだ心の中に残っているモヤモヤがあった。


「でも、まだなんだよね」


 そう呟いた私の声に、柊斗が首を傾げた。


「何が?」


「昨日の麗華さんのことは……ちゃんと解決したのはわかる。でも、ウチが自分に自信をなくした理由って、麗華さんだけじゃないから」


 柊斗はこくりと頷きながら続きを促してくれる。

 自分の中の言葉をゆっくりと整理しながら話す。

 

「中学時代の友達たちに会ったときに言われたことが、どうしても頭から離れないんだよね。『無理してるみたい』とか、『ギャルなんて想像できなかった』とか……あの言葉が、ウチの中でずっと引っかかってる」


 柊斗は黙って私の言葉を聞いてくれていた。そして、静かに頷いた。


「そっか。それが、その言葉がまだ紗良の中で消えてないんだな」


「うん……」


 自分でもどうしたらいいのかわからなかった。

 でも、このままじゃダメなこともわかっている。なにか行動を起こさねば。


「私……彼女たちとの気持ちに区切りをつけてこようと思う」


 そう宣言したとき、柊斗が少し驚いた顔をした。


「紗良……本気でそう思ってるの?」


「うん。逃げたままでいるのは嫌だから」


 柊斗は心配そうにするが私はもう心に決めた。

 自分の言葉に力を込めて頷く。

 柊斗が昨日、麗華さんと話をつけてくれたみたいに、私も自分で話をつけて、区切りをつけて解決しないといけない。


「でも、無理しないでな。辛くなったら、俺に頼ってほしい」


 彼の優しい声が、私の胸に響いた。

 前私は彼に素直に頼ることが出来なかった。

 でもこの一件で今後何かあった時は素直に彼の優しさに甘んじることにしよう、そう決めた。

 それがお互いのためにもなるってわかったから。


「ありがとう、柊斗。でも、これはウチがやらなきゃいけないことだから。でももし無理になったら助けてね」


 しっかりと前を向いて答えたその瞬間、心の中に少しだけ自信が戻ってきた気がした。

 その言葉を聞けて満足だ、と言わんばかりに柊斗は微笑んだ。


 帰り道、私はこれからどう話をしようかと考えを巡らせていた。

 あの子たちに何を伝えたいのか、自分でもまだ全部は整理できてないけど……。


 それでも、彼女たちと向き合うことで、少しでも自分の中のモヤモヤを解消できる気がする。


「頑張ろう」


 小さな声で自分を励ましながら、私は夕焼けの空を見上げた。



 

 ******



 

紗良の背中を見送りながら、心の中で祈るような気持ちだった。


 大丈夫だよな、紗良ならきっと。


 彼女は強い。それは間違いない。

 でも、それでももし彼女が辛くなったら、俺が支えてあげよう。


 そう心に決めながら、俺も帰路についた。

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