第35話 『もう振り返らないから』
「柊斗から話したいことがあるって……」
スマホの画面に表示されたそのメッセージを見て、私は思わず笑みがこぼれてしまう。
正直、最近振られた彼氏のことなんてもうどうでもいい、いつの間にかそう思えるようになっていた。
──そう思っていたのに、柊斗だけはなぜか私の頭から離れない。
ギャルみたいな派手な子と付き合い始めたって噂を聞いたときは、少し意外だった。
でも、あの子には柊斗の良さなんてわからない。
「やっぱり私の方が柊斗にはふさわしいのよ」
そんな考えが自然と湧き上がってくる。
だから、彼からの『話したいことがある』とだけ来たメッセージは、そんな私にとって願ってもないチャンスに思えた。
きっと復縁したいって言いに来るんでしょ?
そう勝手に思い込みながら、待ち合わせ場所に向かった。
しかしそんなことあるはずもなく。
この時何も考えずに待ち合わせ場所に向かったこと、私は後悔することになる。
******
放課後の駅前のカフェ。テーブルに向かい合う形で麗華と座っていたが、正直俺の中には不快感しかなかった。
「で、どうしたの? 話したいことがあるって言ってたよね」
麗華は嬉しそうな顔を隠そうともせず、期待に満ちた視線を向けてくる。
俺はそんな彼女の表情を見て、一瞬で、それが何を期待しているのかを察した。
……勘違いしてるな。
──復縁。
彼女が思ってるのは、俺が持ちかけようとしてる話はそんな内容だろう。
けれど、俺の目的はそんなものじゃない。
その誤解を振りほどくように俺は本題に入った。
「──紗良のことなんだけど」
その一言で、十分だった。お前は勘違いしている、その事実を突きつけるには。
俺と相対する麗華の表情が固まった。
「紗良? なんであの子の名前がここで出てくるの?」
ホントにこいつは……。もうダメだな。
「あの子に言ったんだよな?『柊斗はギャルみたいな子が苦手なんじゃないか』って」
冷静な口調でそう告げると、麗華の顔が一瞬歪む。
だが、麗華はすぐに何事もなかったかのように笑顔を作り直した。
「そんなの、ただの冗談じゃない」
「冗談で言ったにしても、紗良がどれだけ傷ついたか考えたか?」
俺の声が無意識に強くなる。
「紗良は、自分が俺にふさわしくないんじゃないかって悩んでたんだ。自分を否定されたみたいに感じてたんだよ」
麗華は、少しだけ視線を逸らしたあとで肩をすくめた。
「別にそんな大げさな話じゃないでしょ? あの子、気にしすぎなんじゃない?だって事実だし……」
その無責任な態度に、俺の中の怒りがさらに燃え上がる。
もう俺は自分の中の怒りを止める術は無かった。
「──麗華、いい加減にしてくれよ」
「…………なに?」
「お前が何を考えてるのかは知らないけど、紗良のことを馬鹿にするのはやめろ。紗良は俺にとってかけがえのない人だ。それを傷つけるのは許さない」
俺の言葉に、麗華は明らかに動揺していた。
「……そんなに本気なんだ、あの子のこと」
ようやく彼女は口を開くが俺は一言でバッサリ切り捨てる。
「当たり前だろ」
そう言い切ると、麗華はしばらく黙り込んだ。
******
柊斗の言葉を聞いて、胸の奥がザワザワした。
──そんなに本気で、あのギャルのことを思ってるんだ。
いつもの優しくて大人しい柊斗が、こんなに強い言葉を口にするなんて信じられなかった。
「……でも、あの子じゃ柊斗の良さはわからないよ」
「それ、勝手な思い込みだよな」
静かだけど、鋭い彼の言葉に胸が刺された気がした。
「紗良は、俺のオタク趣味も全部受け入れてくれる。むしろ応援してくれるんだ。俺が自分の好きなことを堂々と楽しめるのは、紗良のおかげなんだよ」
その言葉を聞いて、何かが崩れたような気がした。
「麗華、俺はもうお前のことを振り返るつもりはない。紗良のことを悪く言うのも、もうやめてくれ。それが最後のお願いだ」
そう言って立ち上がる彼の姿を、私は黙って見つめることしかできなかった。
「じゃあ、これで……話は終わりだ」
その言葉を残して、柊斗はカフェを後にした。
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カフェを出て歩きながら、ようやく肩の力が抜けた。
「……これでいいんだ」
紗良のことを守るために、自分の気持ちを全て言えた。それだけで、胸の中が少しだけ軽くなった気がした。
これからも、紗良が笑顔でいられるように──それだけを考えて前に進んでいこう。




