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第30話 『そんなはずない』

「柊斗はオタクだから、派手なギャルみたいな子ってあんまり得意じゃないんじゃない?」


 麗華さんの声が頭の中で何度も繰り返される。


 「そんなはずない」──そう思いたい。そう思わないといけない。

 だけど……だけど、どうしてもその言葉が胸に引っかかる。

 もしこれが私だけがそう思っている一方通行の思いで私が1人突っ走っているだけだとしたら……?

 そもそも私と柊斗の関係の始まりも半ば無理やり、私の提案によるものだった。


 その時のことをもう日々の、柊斗とのかけがえのない記憶で上書きして忘れてしまっていたが、よく良く考えればあれは私の無理強いの押しつけだったのではないか。

 今更そんなことを思ってしまう。

 そしてそんなことを思ってしまう自分が嫌だった。


 夕暮れの街を歩きながら、私は自分に言い聞かせるように呟いた。


「柊斗はウチと一緒にいるとき、楽しそうにしてくれてる。それが全部本当なら、こんなことで不安にならなくてもいいよね」


 不安にならなくていい……はずなのに。

 でも──「もしも」の可能性が消えてくれない。


「本当は、私が気を使わせてるだけだったらどうしよう」


 1人つぶやき足を止め、街灯に照らされたアスファルトをじっと見つめる。


「柊斗に迷惑をかけたくない」


 そう思えば思うほど、心が重くなる。

 私はそのままとぼとぼと一人帰り道を歩いた。


 


 ******


 


 翌日、学校に着いても気持ちは晴れないままだった。


 教室に入ると、クラスメイトたちがいつものように賑やかに話している。いつもならその輪に加わるところだけど、今日はその輪に入る気分にはなれなくて、窓際の自分の席にそっと座った。


 机の上に頬杖をつきながら、ぼんやりと窓の外を見る。

 青空が広がっていて、爽やかな風が木々を揺らしているけど、それを見ていても気持ちは沈んだままだった。


「はぁ……」


 気づかれないようにため息をつく。


「……紗良、どうしたの?」


 急に声をかけられて、心臓が跳ねる。


 振り返ると、隣の席に座る柊斗が心配そうにこちらを見ていた。


「え、なんでもないよ?」


 私は咄嗟に笑顔を作った。


「本当に? なんか元気なさそうに見えたけど」


 柊斗の視線は真剣だった。

 それだけに、胸がぎゅっと締めつけられる。


「大丈夫、大丈夫! 昨日ちょっと寝不足だっただけだから!」


 そう言って、わざと明るい声を出してみせた。


 柊斗はまだ疑うような目をしていたけど、「そっか」と言って自分の席に戻った。


 ……これでいいんだよね。


 本当のことを話せば、彼を困らせてしまうかもしれない。そんなのは絶対に嫌だった。

 こんなものは私一人の心の問題だ。柊斗を巻き込む訳には行かない。


「なんでもない」


 そう言い続ければ、きっと自分の中の不安もそのうち消えてくれるはずだ。


 授業が始まると、いつも通り黒板の文字をノートに写す。だけど、いつも通りには頭に入ってこない。


『私って……本当に柊斗にとって合ってるのかな?』


 何度目かわからないその疑問が、また頭の中に浮かんできた。


 麗華さんの「ギャルは得意じゃないんじゃない?」という言葉。


「もしそれが本当だったら……」


 想像するだけで胸が痛くなる。

 自分の好きなファッションやスタイルを貫きたい気持ちと、彼の気持ちを考えてしまう自分。

 どちらも大事なはずなのに、うまく折り合いがつかない。


 放課後、友達と話している柊斗をちらりと見る。彼の楽しそうな顔を見て、胸の中で何かがざわつく。


「私、こんな顔をさせてあげられてるのかな……」


 一緒にいるときは笑ってくれるけど、それが彼の本心かどうかを確かめる勇気がない。


「私、なんでこんなことで悩んでるんだろう」


 自分を責める気持ちが強くなる。でも、誰にも相談できない。


 家に帰っても、気持ちは晴れなかった。部屋に入ってベッドに寝転ぶと、天井をじっと見つめる。


「柊斗……」


 彼の優しい笑顔が頭に浮かぶ。


「やっぱり私のこと、ちゃんと好きでいてくれるのかな」


 そんなことを考えている自分が嫌になる。


「……ちゃんと信じたいのに」


 信じたい気持ちはある。でも、心のどこかでそれを邪魔する何かがいる。


 その夜、ベッドに入ってもなかなか眠れなかった。


「私が……柊斗を信じられないなんて、ダメだよね」


 そう自分に言い聞かせながら、私は1人眠れない夜を過ごした。

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