第27話 『似合わないギャルメイク』
「じゃあさ、柊斗の顔で試してみる?」
紗良が突然そんなことを言い出した。
「……俺の顔?」
……どういうことだ?
紗良の趣味を知りたい、一緒にやりたいと言ったら俺の顔で試してみる……?訳が分からん。
呆気にとられて聞き返すと、紗良はニヤリと笑いながら、手元のポーチを開けて中身を見せてきた。
そこには、いろんな種類のメイク道具がぎっしり詰まっていた。
「そうそう! 私のメイク道具で柊斗を変身させちゃおうかなって!」
ほほう……んんん?
「いやいや、待て待て! 俺にメイクって大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ!最近って結構メンズでもメイクとかするの結構流行ってるし!アイドルとかは普通にメイクとかしてるよ!」
「いやぁ、そうなのか……?」
初耳だ。男でもメイクをしたりするのか。
そういう固定観念も良くないかもな。
「大丈夫! 絶対楽しいから!」
た、楽しいって……。
結局それが本心なのだろう。いつもメイクをしてる紗良にとって、オシャレ、オシャレになるための色々な手段は彼女にとって楽しいものなのだ。
紗良の目はキラキラ輝いていて、完全にノリノリだ。俺が何を言っても止められる気がしない。
まぁ最初から断るつもりなんてない。彼女の『好き』を知りたい、付き合いたい決めたのは俺だから。
「……本当に大丈夫なのか?」
まだ半信半疑の俺をよそに、紗良はもう準備を始めていた。
「ほら、こっち向いて」
紗良は笑顔で俺に近づいてくる。逃げ場がないことを悟った俺は、正面を向いた。
「……やるなら、ちゃんとやってくれよな」
「任せてよ!」
そう言って胸を張りドドン!と胸を叩く。
紗良は楽しそうに筆やパフを手に取り、俺の顔に触れ始めた。
「まずは下地ね。しっかり塗らないと崩れちゃうから」
「崩れるも何も、俺がメイクすることなんてないだろ!」
「ふふっ、そんなこと言わないで楽しもうよ!」
彼女のノリノリな声を聞きながら、俺は不安を感じつつも、次第に彼女のペースに巻き込まれていった。
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「よし、次はアイシャドウっと……」
柊斗の顔に自分が普段しているようなギャル風のメイクを施していく。彼の目元に大胆な色を乗せていくと、だんだん楽しくなってきた。
普段自分の顔にしかメイクをしないので、こうやって他人の顔にメイクとかしてみるのも、かなり面白い。
「うーん、結構いい感じじゃん?」
「いい感じって、どんな感じなんだよ……」
柊斗が苦笑しながらそう言うけど、私は仕上がりが楽しみで仕方ない。はやく、はやく。自分で自分が待ち遠しい。
「最後にリップを塗ったら完成!」
私が手を止めて、「はい、できた!」と言うと、柊斗は怪訝そうな顔をしながら聞いてきた。
「で、どうなったんだ? 見せてくれよ」
「うん!いいよー!ででーん!」
そう言って私は手鏡を取り出して柊斗に渡した。
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紗良が手鏡を差し出してきた。恐る恐るそれを受け取り、自分の顔を覗き込む。
「……うわっ! なんだこれ!?」
鏡に映った自分の顔に思わず声を上げた。
目元には濃いアイラインとキラキラのシャドウ、口元には派手なピンクのリップ──まさにギャル風メイクそのものだった。
いつもの紗良はギャル風メイクではあるがあくまでもギャル風だ。そこまで濃い訳でもない。
しかし今回紗良が俺に施したメイクは完全にギャルだ。もう男がこれをするとオネェでしかない。
「これ、完全にヤバいやつじゃん!」
「ぷはっ! 柊斗、似合わなさすぎ!」
紗良は今まで我慢してたのか、ついに吹き出すと、お腹を抱えて爆笑している。
「ちょ、ちょっと待て! そんなに笑うなよ!」
俺が文句を言っても、紗良は涙を浮かべながら笑い続ける。
「ごめん、でもほんとに面白い! あ、写真撮らして!はいチーズ!」
「やめろぉ!」
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あまりにも似合わなすぎて、笑いが止まらなかった。
柊斗は「そんなに笑うなって!」と不満そうに言うけど、そんな顔をしている彼も面白い。
「いやー、さすがにこれは似合わないね」
「だろ……最初から無理があったんだよ」
「でもさ、すっごく楽しかった!」
そう言うと、柊斗くんは少し呆れたようにため息をつきながらも、どこか満更でもない顔をしていた。
「まあ、紗良がこんなに楽しんでくれるなら……いいけどさ」
その言葉に、私は嬉しくなって、もう一度彼の顔をじっくり見た。
彼は本当にいい人だ。私の好きな物にも真剣になってくれる。
「……じゃあ、次はもっと柊斗くんに似合うメイクを試してみよっか!」
「似合うメイクって……」
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「ちょっと待ってて!」
紗良はスマホを取り出し、何かを検索し始めた。
「男子でもナチュラルに似合うメイクってどんなのがあるかなーっと……あ、これいいかも!」
彼女が楽しそうに次のプランを考えているのを見て、俺は少しだけ安心した。
「まあ、ここまで来たら付き合うしかないよな」
紗良の笑顔が見れるなら、これも悪くない──そんな風に思い始めていた。




