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第26話 『彼女の好きに触れたい』

「──ねえ、今度うち来てみない?」


 昼休み、紗良が何気なくそんなことを言ってきた。

 隣の席から軽いノリで、あたかも普通の誘いみたいに。


「え、家?」


 思わず間抜けな声が出てしまう。


「そうそう。柊斗、いつもウチのこと気にしてくれるし、うちでのんびりしよっかって思ったんだけど、ダメ?」


「いや、ダメじゃないけど……」


 突然の展開に頭がついていかない。

 そんなの彼女の家に遊びに行けるなんて楽しみでしかないし、ドキドキだ。

 しかし家に誘われるって、普通こんな軽い感じで決まるものなのか? それを疑問に思いながらも内心、心臓がバクバクしている。


「決まりね! じゃあ、土曜の午後とかどう?」


 紗良が微笑みながらスケジュールまで決め始める。

 その流れに反対できる度胸もなく、「う、うん」と頷くことしかできなかった。

 ……まぁ切りかえていこう、楽しみだ!!!




 ******


 


 家に帰ると、妹の柚香(ゆずか)が妙にじろじろと俺を見てきた。


「お兄ちゃん、なんか今日変だよね。デート?」


「……な、何言ってんだよ!」


あまりにも鋭い指摘に、思わず声が裏返る。


「ただ友達とお買い物に行こうってだけで……別にデートとかじゃ」


 そんなふうに誤魔化そうとしたが、妹の柚香にはバレバレだったようで……。


「はいはいわかったわかった!お兄ちゃんわかりやすすぎ! ……んでどっか行くの?」


「べ、別に、普通だって」


 適当にごまかして自分の部屋に引っ込む。

 でも、どうしてもニヤついてしまう顔を止められない。


「紗良の家、か……」


 彼女の部屋がどんな感じなのか想像しようとするけれど、全くイメージが湧かない。

 ギャルな紗良だから、部屋も派手なのか? それとも意外と落ち着いた感じなのか?


「うわー、緊張する……」


 そう呟きながらも、心の奥には期待が膨らんでいた。

 何気に女の子の部屋に入るのは妹以外で初めてな気がする。

 いい匂いとかしたりするのだろうか……やばい思考がどんどんダメな方に。

 ……よしっ、切り替えようっ。




 ******



 

 土曜日、約束の時間が近づき、俺は少し早めに家を出た。

 途中でコンビニに寄って手土産代わりのお菓子を買う。紗良の家の近くに着く頃には、緊張がピークに達していた。


「深呼吸、深呼吸……」


 彼女の家のチャイムを恐る恐る押すと、すぐに紗良が出てきた。


「柊斗、いらっしゃい!」


 ドアを開けた紗良は、部屋着のラフなスタイルだった。

 いつものオシャレな姿も可愛いけれど、こういう自然体な感じも新鮮で心臓に悪い。

 ダメだ、いちいち反応していては体が持たない。


「おじゃまします」


 紗良に案内されて部屋の中に入ると、そこは想像以上に居心地の良さそうな空間だった。


 彼女の部屋に通されると、俺は驚きを隠せなかった。


「うわ……すごい」


 思わず声が漏れる。

 壁に飾られた可愛いポスター、整然と並べられた小物、カラフルなクッションやライト……どこを見てもセンスが良くて、しかも可愛らしい。


「紗良、めっちゃオシャレじゃん……」


「そう? 普通だよ、これくらい」


 そう言いながらも、紗良は少し頬を赤く染め得意げに笑っている。


「可愛いものが好きだから、部屋もそういう感じにしてるんだよね」


「へえ……紗良って、こんなのが好きなんだな」


 初めて知る彼女の一面に、どこか新鮮な気持ちになる。

 そして、それと同時に彼女が好きなものをもっと知りたいという思いが湧いてきた。


 紗良がクッションを勧めてくれて、俺はそこに腰を下ろす。彼女は部屋の棚からお気に入りの小物をいくつか持ってきて、見せてくれた。


「これとか、すっごく可愛くない?」


「確かに……こういうのが好きなんだな」


俺が頷くと、紗良は嬉しそうに微笑む。


「そう! 可愛いものが好きでさ。あとね、オシャレもめっちゃ好きなんだよね」


「オシャレか……紗良はいつもオシャレだもんな」


 そう言うと紗良はくしに手をやってふんっと言って満足げな表情になる。いちいち一つ一つの動作が可愛い。


「でしょ? あ、でも、柊斗くんだって最近すごくいい感じだよ!」


「そ、そうかな?」


 そしたら、急に褒められて、なんだか照れてしまう。だけど、彼女の言葉が純粋に嬉しかった。


「……じゃあさ」


 ふと気づけば、俺はこんなことを言っていた。


「──紗良が好きなもの、俺もやってみたいな」


「えっ?」


 紗良は目を丸くしてこっちを見た。


「いや、せっかくだし。紗良が好きなものを知りたいし、触れてみたいんだよ。いつもアニメとか俺の好きな物に付き合ってくれてるから、俺も紗良の好きな物知りたいし一緒にやってみたくって……」


 そう言うと、紗良は少し驚いたような顔をしていたけれど、次の瞬間、嬉しそうに笑った。


「そっか……じゃあ、何から始めようかな?」


 そう言いながら考え込む彼女の姿を見て、俺は改めて彼女の「好き」に触れたいという気持ちを強くした。

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