第22話 『自分磨き大作戦!』
紗良と過ごす日々が増えるにつれ、彼女がどれほど俺のことを大切に思ってくれているかが伝わってくる。
紗良が俺の趣味を理解し、共感してくれることが本当に嬉しかったし、彼女の優しさと努力に改めて心を打たれていた。
「──紗良のために、俺ももっと自分を高めたい」
そんな思いがふと芽生えたのは、休日に紗良と一緒にアニメショップを巡り、お揃いのキーホルダーを買った日の夜だった。
帰り道で紗良が「もっと柊斗のこと知りたいな」と言ってくれたことが、心に強く響いていたのだ。
まずは何を変えていけばいいのか、少し考えてみる。
ふと鏡に映る自分を見ると、無頓着にまとめていた髪や、シンプルすぎる服装が目についた。
自分が特別おしゃれに興味があるわけではなかったが、紗良の隣にいるならもう少しきちんとしたい、そんな気持ちが自然と湧いてきた。
彼女の隣に並んでも違和感のないような、かっこいい男になりたい。シンプルにそう思った。
「よし」
俺は覚悟を決めた。
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翌日、思い切って一人で最寄りのショッピングモールに出かけることにした。
妹の柚子に頼もう、とも一瞬思ったが、彼女には今のところ俺に紗良というギャル彼女がいるということは知らない(はず)なので、今回は一人でどうにかしよう、となった。
そもそも一人でどうにか出来なければダメだ、とも思った。紗良が俺のために一人努力してくれたように、俺も紗良のために努力をしなければならない。
一人でショッピングモールに到着した俺は、一度目に着いたメンズの服のお店に入ってみることにした。
最初はどんな服が似合うのかもよくわからず、少し気が引けたが、カジュアルな洋服店に足を踏み入れると、店員さんが親切にアドバイスをくれた。
紗良がよく見かけるシンプルで清潔感のあるコーディネートをすすめられ、少し緊張しながらも鏡の前で試着をしてみる。
「……案外、悪くないかも」
店員さんに選んでもらった服を着てみると、見慣れない姿に少しだけ自信が湧いてきた。
髪型ももう少し整えようと思い、翌日には地元の美容院でさっぱりとカットしてもらった。
いつもより少し短めにしてみたが、鏡に映った自分を見て、少しずつ変わっていく自分を感じて、何とも言えない気持ちになった。
次の日、学校で早速紗良と顔を合わせた。最初は何も気づかれないかと思っていたが、教室で会うなり、彼女の目がぱっと輝いた。
「えっ、柊斗!なんか髪型とか変えた?」
俺は少し照れくさくなりながらも、頷いて「うん、ちょっとだけイメチェンしてみたんだ」と返事をした。
すると、紗良は目をキラキラさせて嬉しそうに笑いながら、まっすぐ俺を見つめてくれた。
「か、かっこいい……!かっこよすぎ!すごく似合ってるよ!」
その言葉に、胸がじんと熱くなった。まさか、ここまでストレートに褒めてもらえるとは思っていなかった。
そこまでかっこいいと言われるとさすがに照れてしまう。
そんな目の前の大切な彼女の笑顔を見ていると「頑張ってよかった」と心から思えた。
「……ありがとう、紗良」
思わず礼を言うと、紗良は軽く肩を叩きながら「これからもその調子で頑張ろうね」と冗談っぽく言ってくれた。
その軽口が心地良く、俺も自然と笑顔になっていた。
その日から、俺は紗良にふさわしい自分になるために、身だしなみにもっと気を配るようにした。
朝、髪型を整えたり、きちんと服を整えて学校に向かうようになり、少しずつ自分に自信が湧いてくるのを感じた。
そんな俺の様子に気づいたのか、クラスメイトたちも「最近いい感じじゃん」と声をかけてくれることが増えた。
放課後、紗良と一緒にカフェに立ち寄ったとき、彼女がふいに言った。
「柊斗、ほんと最近かっこよくなったよね。なんか、見てて嬉しい」
「そうか……ありがとう」
「うんん、ほんとに柊斗はウチの自慢の彼氏だよ!」
その言葉が、俺にとって何よりの励ましだった。
そこまで言ってくれるのか。本当に彼女は俺を喜ばせる天才だ。俺の手ではあまりあるくらいいい子だ。
ほんとに幸せだ俺は……!
そんな彼女の言葉に背中を押されるような気持ちがして、もっと頑張ろうと心から思えた。
帰り道、手をつなぎながら俺は改めて感じていた。
紗良が隣にいてくれるだけで、自分が変わっていくことができるし、彼女にふさわしい自分でありたいと強く思える。
これからも、彼女のために努力を続けていきたいという気持ちが、心の中で揺るぎない決意となっていくのだった。




