第20話 『愛おしい我が彼女』
昼休み、いつものように紗良と一緒に教室で過ごしていると、彼女が嬉しそうに俺に話しかけてきた。
「ねえ、柊斗。この前見たアニメのルナとナナのバトルシーン、すっごく面白かった!」
思わず手を止めて顔を上げると、紗良がにこにこしながら、少し照れたような表情で俺を見ていた。
彼女が見てくれたのは、俺が何度も話していた魔法少女のアニメのことだった。
「ほんとに……見たんだ」
驚きと嬉しさで声が出てしまう。正直、少し話題を合わせてくれているだけかと思っていたが、彼女の目は真剣で、どこか誇らしげでもあった。
「うん! しかも、あのシーンがすごく良かった!特にナナがめちゃくちゃカッコよくて、ちょっと泣いちゃった!」
そう言って、彼女は俺が大好きな魔法少女キャラクターについて語り始めた。
ナナは、シリーズの中でも特に俺が好きな主人公のライバルキャラで、主人公達のために奮闘し、最後には感動的なシーンがある。
ナナは主人公より魔法の出来も、戦闘の出来も悪く、魔法少女学園の中で落ちこぼれになってしまう。
そして力を手に入れるために、闇の魔女と禁断の契約を結んでしまい、主人公のルナ達の敵側の組織の幹部として、敵の幹部と共に三人で主人公たちの前に姿を現す。
裏切り者として現れたナナは、魔女との契約で得た闇の力で幹部たち三人で主人公たちを圧倒する。
しかし幹部三人によって主人公たちを絶対絶命のピンチにまで追い込まれた時に、彼女のかつての仲間への想いのほうが上回り、彼女は自身の身を犠牲にしながら戦うことで何とか幹部二人を撃破した。
そして彼女は消えかけの命で何とか言葉を学園で共に学んだ旧友、そしてライバルの主人公ルナへと紡ぐ。
『──私、あなたを超えられた?』
と。
ナナはとても頑張り屋で、でも結果が出ずに、主人公たちに劣等感を感じてしまう。そしてその弱みに付け込まれて魔女と契約。
しかしそんな彼女が形はどうであれやっと力を手に入れて、最後に告げたその一言。
彼女の頑張り屋なところ、そして仲間思いなところ、そこが俺は好きだ。
「……ルナのあのシーン、いいよな。何回見ても感動する」
思わずそう答えると、紗良は嬉しそうに頷いて、「うん、ウチもめちゃ感動した!」と笑顔で返してくれる。
俺は紗良が、自分のためにこんなに頑張ってくれたこと、そして俺の好きを理解しようとしてくれた事が信じられないくらい嬉しかった。
自分が好きなものを、ただ受け入れてくれるだけじゃなくて、一緒に楽しもうとしてくれる彼女が、こんなに身近にいるなんて。心がぽかぽかと温かくなっていく。
「でも、ウチがナナのことを好きになったのは、きっと柊斗がナナのことを好きだからだと思うんだよね」
紗良が、照れくさそうに小さく笑いながらそう言った。彼女の瞳がまっすぐ俺を見つめていて、その無邪気な言葉が、まるで心にまっすぐ届くような気がした。
「柊斗がナナのことを、すっごく楽しそうに話してたから。だから、ウチも『どんな子なんだろう』って思って……見てたら、なんかウチも好きになっちゃった!」
その言葉に、俺の胸がぎゅっと締め付けられるような感覚がした。
自分のためにここまで努力してくれて、一生懸命向き合ってくれる彼女の姿に、どれだけ心を救われてきたか。
好きなものを共有してくれるだけでなく、自分が大切にしているものまで一緒に好きになってくれる彼女は、俺にとってかけがえのない存在になっていた。
「ありがとう、紗良」
そう呟くと、紗良は「そんなに照れないでよ!」と冗談っぽく笑いながら、俺の肩を軽く叩いた。
その明るい笑顔を見ていると、俺も自然と笑顔になる。
「ほんとに、ありがとう。……紗良がそこまでしてくれるなんて思わなかったからさ。だから、なんかすごく嬉しくて……」
言葉に詰まりながらも正直な気持ちを伝えると、紗良は少しだけ頬を赤らめ、
「ウチも、そんなに喜んでくれるなんて思わなかったから、頑張ってよかった!」
と返してくれた。その言葉が心に沁み渡って、自然と彼女への感謝の気持ちが湧き上がってくる。
放課後、俺たちは一緒に帰る道すがら、またそのアニメの話を続けた。
紗良は、ナナの特別エピソードについても興味津々で、細かなシーンのことまで語ってくれる。
彼女がそこまで熱心に調べてくれたことに驚きながらも、内心は嬉しさでいっぱいだった。
「紗良、もしかして、結構勉強した?」
「へへ、バレちゃった?」
紗良は照れくさそうに笑うと、ふいに
「実はね、柊斗を喜ばせたくて、ちょっとだけ勉強してたんだ」
と明かしてくれた。
「最初はよくわからなかったけど、見ていくうちに面白いなって思えてきて……。柊斗の好きなものをもっと知りたいなって思ったんだ」
その言葉に、俺は改めて彼女の存在がどれだけ大切かを痛感する。
彼女が、ただの好奇心や合わせるためではなく、純粋に俺のために一生懸命努力してくれたのが伝わってきて、心が温かくなる。
そんな彼女がたまらなく愛おしい。
「……紗良、ほんとにありがとう。俺、紗良のこともっと大事にするよ」
ふと口から出た言葉に、紗良は驚いたように目を丸くしたが、すぐに優しい笑みを浮かべて「じゃあ、期待しちゃおうかな」と冗談っぽく返してくれる。
その軽口が、俺たちの間にある信頼や温かさをさらに深めてくれるようだった。
こうして一緒にアニメの話をしているだけで、心が弾むような幸せを感じる。
紗良となら、どんなことでも共有していける気がするし、これからももっと一緒にたくさんのことを知り、楽しみたいと思う。
「紗良、また今度一緒に見ようか」
「うん、絶対に見ようね!」
紗良の無邪気な笑顔を見ながら、俺は彼女の手を取り、また新しい日々を一緒に歩んでいける未来を強く願った。




