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第19話 『オタクになろう』


 最近、紗良はある計画を心に決めていた。


 それは柊斗がもっと喜んでくれるように、彼が好きなオタク趣味についてもっと知ろう、そして楽しめるようになろう!ということだった。


 ──柊斗、あんなに楽しそうに話してくれるんだから、私ももっと知りたいし、一緒に楽しみたいなぁ。


 そう感じるようになったのは、彼がオタク系イベントに誘ってくれて以来だった。


 柊斗は自分の趣味について語るとき、普段以上に活き活きとしている。

 それを見ていると、自然と彼の好きな世界を共有したくなる。私も彼の趣味を知れたらもっとそれが深まるのではないか。

 そう思った紗良は「オタク趣味を勉強してみよう」と密かに決意を固めたのだ。





 ******



 


 ある日の放課後、紗良は一人で図書館に向かい、まずはアニメや漫画の情報を調べることにした。


「アニメ入門」「初心者におすすめのアニメ作品」といったキーワードで検索してみると、人気のある作品のリストや、アニメや漫画の歴史についての記事が次々に表示される。


「へえ、こんなにいろんな種類があるんだ……」


 調べていくうちに、彼が話していた作品やキャラクターの名前がちらほら出てくる。紗良はそのたびに「あ、これ知ってる!」と内心で喜びながら、メモ帳に興味を持った作品のタイトルをどんどん書き込んでいった。


「うーん、でもこんなしっかりした勉強って感じだと楽しくもないよなぁ……」


 そう思い紗良は、


「まずは、柊斗がよく話してるこの作品から見てみようかな」


 そう決めたのだった。まずはとりあえず彼が好きだと言っていたアニメから見てみるのが良いと思った。


 家に帰ると、紗良はすぐにメモをもとに動画配信サービスを開き、彼の好きなアニメをひとりで見始めた。


 画面の中で繰り広げられる壮大なストーリーや、個性的なキャラクターたちの掛け合いに、次第に引き込まれていった。


 次の日、学校でも紗良はすっかりその作品に夢中になっていた。

 授業の合間にもキャラクターや設定について調べ、「あのキャラってどうしてあんなことしたんだろう」と、彼女なりに考察してみたりもする。


 傍から見たら彼女は普通のアニメオタクよりしっかりオタクしていた。


 昼休みに、ふと柊斗に話しかけたくなるが、今はまだ「もう少し自分で詳しくなってから驚かせたい」という気持ちが勝り、こっそり計画を進めることにした。


 そしてその日の帰り道、紗良はさらに情報を集めようと、ネットのオタクコミュニティにこっそり参加してみた。


 そこでファン同士の盛り上がりを目の当たりにし、彼らがどれだけ真剣に作品について語り合っているかを知ると、自分もその一員として理解を深めたいという思いが強くなる。


「こんなふうに、柊斗と一緒に語り合えたら……きっと楽しいよね!」


 初めてのことばかりで戸惑うことも多かったが、彼のためなら努力したいという気持ちが、紗良の背中を押してくれた。




 ******




 そして数日後、そんな紗良の様子に柊斗も気づき始めた。

 ある昼休み、彼女がこっそりスマホをいじりながら何かに集中しているのを見て、何をしているのか気になった柊斗が声をかけた。


「何見てるんだ?」


 紗良は少し驚いた表情を浮かべ、慌てて画面を隠そうとしたが、すぐに照れくさそうに笑ってスマホを見せてくれた。

 そこには、柊斗が好きだと言っていた作品のキャラクターが写っていた。


「実はね、私、柊斗の好きなアニメを見始めたんだ」


 その言葉に、柊斗は思わず目を見開いた。

 まさか、紗良が自分の好きな作品を一人で見て、わざわざ調べてまで理解しようとしてくれていたなんて、考えてもみなかったからだ。


「えっ、本当に?……そんな、無理しなくていいのに」


 柊斗は驚きつつも、どこか申し訳ない気持ちでそう言ったが、紗良は嬉しそうに首を振った。


「無理なんかじゃないよ。柊斗が話してくれるとき、すごく楽しそうで、私ももっと知りたいって思ったんだ」


 その言葉が柊斗の胸にじんと響いた。

 彼女が、自分のためにここまで努力してくれていたことが信じられないくらい嬉しかった。


「……ありがとう、紗良。本当に嬉しいよ」


 紗良は照れくさそうに笑い、「へへ、そんなに喜んでもらえるなんて、やっぱり頑張ってよかった」と返してくれる。


 その笑顔に、柊斗はまたしても彼女の優しさを感じ、どれだけ彼女が大切な存在であるかを改めて実感した。


 それからも紗良は、柊斗と同じアニメや漫画の世界を楽しむため、さらに勉強を続けていった。

 そして二人は放課後にカフェに寄り、自然とその作品について話をするようになる。


 紗良が「ねえ、あのキャラってさ、どうしてあんなことするの?」と真剣に質問してくるたび、柊斗は心から嬉しくなる。

 そして、彼女に作品の面白さを語るたびに、二人の距離がさらに近づいているのを感じるのだった。

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