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第1話 『彼女のおかげで』

 翌朝、教室に入った俺は、まだ昨日のことが夢みたいで頭がぼんやりしていた。

 昨日の出来事を思い出すと、顔が熱くなる。水島と勢いで付き合うことになったのはいいが、本当にこれで良かったのだろうか?

 そんなことを考えていると、背後からいきなり元気な声が響いてきた。


「おはよー、彼氏くん!」


 振り返ると、いつもの明るい笑顔で水島が立っていた。

 どうやら俺の後を追うように登校してきたらしい。

「彼氏くん」なんて呼ばれたことがなさすぎて、瞬時に頭が真っ白になる。


「あ、ああ、おはよう……水島」


 ぎこちない返事しかできず、なんとも言えない空気が漂った。

 水島は気にした様子もなく、ニコニコしながら「今日もよろしくね!」とウィンクして、俺の隣の席に座った。さすがギャル、自然なウインクだ……。

 そんなことで俺が感心していると俺たちの会話を耳にしていたクラスメイトたちがざわつき始める。


「え、桜庭と水島、付き合ってんの?」


「昨日まで全然そんな雰囲気なかったのに……」


 教室のあちこちから驚きと好奇の視線が注がれている。

 もちろんクラスの友達である山田も、「どういうことだよ!?」と信じられない様子だ。

 俺はその反応に恥ずかしくなりながら、何とか言い訳しようとするが、水島が丁度友達と喋っておりあっさりと一言で片づけた。


「うん、昨日から彼氏彼女ってことで!」


「う、嘘だろ……マジで!?」


 教室に響き渡る水島の声。

 あまりに堂々とした発言に、友達たちは言葉を失っていた。


 一方で、俺はと言うとこんな風におおっぴろげに周りにバレるとは思っていなかったので内心ビビり散らかしていた。

 そしてそもそも俺があのクラスのムードメーカー的存在のギャル、水島紗良と付き合っているというこの状況がいまだに信じられてない。


 午前の授業が始まるが、俺の視界に水島がやけに入って意識がそわそわして集中できなかった。

 視界の端で、時折水島が俺の方に視線を向けているのを感じるたびに、変に緊張してしまう。


 そしてそんなこんなで昼休みになった。

 すると山田が、


「昨日、何があったんだよ!?」


 と詰め寄ってきた。俺もどう説明したらいいのか分からず、「いや、その……」と口ごもっていると、水島がすたすたとやってきた。


「桜庭くんはウチの彼氏なんだから、もっと堂々としていいんじゃない?」


 そう言いながら、水島が自分のお弁当箱を俺の机に置き、「ほら、半分こしよ」と言ってくる。

 俺は、予想外の行動に思わず目を見開いた。


「い、いいのか? そんな……」


「もちろん! 彼氏限定だからね!」


 水島はニコッと微笑みながらそう言った。

 その自然体な態度に、俺は返事をする間もなくお弁当を受け取ってしまっていた。


 目の前の山田、周囲のクラスメイトたちからは驚きの視線が注がれるが、水島はまったく気にしていない様子で、俺の目の前に座り、堂々と自分のおかずを分けてくれる。


「はい、これ。めっちゃおいしいから食べてみて!」


 一口おかずを口に入れると、想像以上においしくて、驚きのあまり思わず「うまい……」と口にしてしまう。それを聞いた水島は満足げにうなずき、「でしょ?」と得意気な顔をしつつも、少し顔を赤らめた。


「ウチが朝作って来たんだー!桜庭くんが喜んでくれたらな〜って思って」


 か、可愛い……。不覚にもそう思ってしまった。


 俺が言葉を失っていると、山田が小声で「なんだよ、すげぇラブラブじゃん……」とぼやいているのが聞こえた。


 その反応で顔がさらに熱くなり、なんだか変に恥ずかしくなってきたが、水島はまったく気にする様子もなく「もっと食べていいよ!」とおかずを勧めてくれる。


 彼女のその積極さに、俺は少し圧倒されながらも、心のどこかで妙な安心感を感じ始めていた。

 まるで、ここにいてもいいんだと許されたような気分だ。

 彼女と一緒にいることで、自分が素直に楽しんでいいと思えるような気がしてくる。


「じゃあ桜庭くんまた後で!」


「う、うん」


 昼休みが終わり、午後の授業が始まる頃には、俺は少しずつ水島との時間に居心地の良さを感じるようになっていた。

 それにしても、こんなに自然体でいられる彼女と一緒にいるのは、不思議な感覚だ。

 昨日まではまったく接点がなかったはずなのに、今では水島の明るさに引っ張られて、あれだけ失恋で落ち込んでいたのに少しだけ元気になってきたのが不思議だ。



 そして午後の授業も終わり放課後。

 教室を出るとき、また水島が声をかけてきた。


「桜庭くん、今日は一緒に帰ろっか!」


「え……いいのか?」


 俺が少し戸惑うと、水島は「いいに決まってるじゃん!」とあっさり答え、俺の隣に並んで歩き始めた。

 まるで彼女にとっては自然なことのようで、何も気負いがない。


 なんでこんなに気軽にできるんだろう。

 俺にはちょっと信じられないけど、水島が隣にいるだけで、なんだか少しだけ心が軽くなるのを感じていた。


 まだ付き合い始めて一日目。

 俺はまだぎこちないままだが、水島の積極的な態度に戸惑いながらも、少しずつ2人での関係を築けて行けているような気がした。


 そして水島の明るさにつられて、おかげで段々元気になっている自分に気付いたのだった。

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