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第16話 『俺には大切な人がいる』


 私は自分の気持ちが日々膨らんでいくのを抑えられなくなっていた。

 柊斗と別れた当初は、新しい彼氏と過ごす楽しい時間に心が浮かれ、柊斗のことをすぐに忘れられると思っていた。

 だが、いつからかその関係に疑念が生まれ、彼氏とのデートの約束は頻繁にキャンセルされるようになり、彼からの連絡も減っていった。


 気づけば彼は私を優先しなくなり、その態度に少しずつ疑いと不安が積もっていく。


 そんな心の隙間に、かつての柊斗のことが頭をよぎるようになった。優しくて真面目で、何があっても私を大切にしてくれていた彼の姿が、胸の中で大きくなっていく。


「やっぱり、柊斗がよかったのかもしれない……」


 そう自分に言い聞かせるたびに、彼にもう一度やり直したいと伝えたい気持ちが強くなっていった。

 もう一度、彼の隣で笑っていたい──そんな思いにさえ駆られ、私は思い切って行動に移す決意をした。

 何度か話すが冷たくあしらわれる。しかし彼がいいのだと、そう思ってしまう。




 ******



 


 放課後、私は思い切って柊斗を呼び出した。

 彼が驚いた顔をしてやってくると、私の心臓はドキドキと高鳴り、緊張で手が少し震えていた。


「久しぶりに、ちゃんと話したいんだ」


 私がそう真剣な声で言うと、柊斗は少し戸惑ったような表情を浮かべたが、静かに頷いてくれた。

 心の中で小さく安堵し、意を決して言葉を紡ぐ。


「……私、ずっと考えてたの。柊斗と別れてから、いろいろなことがあったけど、あなたのことがどうしても忘れられなくて」


 柊斗は黙って聞いている。彼のその冷静な瞳が、逆に私の不安を煽るように思えたが、今は気持ちを伝えきるしかない。


「柊斗と過ごした時間がどれだけ幸せだったか、今になってわかるの。優しくて、何でも真剣に向き合ってくれて……」


 少し声が震えそうになるのを感じながら、続ける。


「だから、もう一度やり直せないかなって思って……」


 自分の心がはっきりと口に出た瞬間、ようやく肩の力が抜けた。ここまで話したのだから、あとは柊斗の返事を待つだけだ。

 もしかしたら、彼もまだ少しは私に気持ちがあるかもしれない──そんな淡い期待が胸にあった。

 ……あっただけだった。


 しかし、彼はゆっくりと息をついてから、少し困ったような笑みを浮かべ、静かに首を横に振った。


「ごめん、麗華。……もう俺には、大切な彼女がいるんだ」


 その言葉に、私の心はまるで凍りついたかのように冷たくなった。

 まっすぐに自分を見つめる柊斗の目には、かつての温かさは見えず、代わりに穏やかで落ち着いた輝きが宿っている。

 彼が言う「彼女」とは、あのギャル風の紗良という女の子のことなのだろう。

 突然、そんな私の胸に激しい痛みが走った。


「……そう、なんだ」


 震えそうな声で返すが、彼の気持ちがもう完全に自分から離れてしまったことが痛いほど伝わってくる。


「紗良は、俺の趣味も全部受け入れてくれて、何でも一緒に楽しんでくれるんだ。今の俺には、彼女との未来を考えることがすごく自然なんだよ」


 彼の言葉がひとつひとつ、わたしの胸に突き刺さっていく。

 かつて自分が「無理」と言った、受け入れられなくて拒絶した彼のオタク趣味──それを、それだけではなくて彼のすべて受け入れてくれる存在が、すでに彼の隣にいることを思い知らされた。


「麗華が俺と一緒にいて楽しくないのは、きっと俺もわかってたんだと思う。だから……ごめんな、もうやり直すことはできない」


 ハッキリそう告げた彼の前で、私は言葉を失い、立ち尽くしたまま、ただ彼の言葉を受け止めるしかなかった。

 かつての彼なら、自分に何かを求められればすぐに応じてくれていた。

 だが、今の彼は、自分の人生を歩む決意が感じられ、何も揺らぐことなくただ「過去の人」として私を見ているのが一目でわかった。


「……そっか。わかった」


 その一言が精一杯だった。

 心がじんじんと痛み、目の前の柊斗が遠くに感じられる。


 自分が失ったものの大きさを、今になって痛感している。彼がどれほど大切な存在だったか、彼の真っ直ぐで優しい性格がどれほど貴重だったのか──気づくのが、あまりにも遅すぎたのだ。


「じゃあ……もう行くね」


 彼が軽く頷き、その場を離れていく姿を、私はただ見送ることしかできなかった。彼の隣には、もう自分が入る余地などどこにもなかった。


 柊斗が去った後、残ったのは一人ぽつんと取り残された私。


 私は一人立ち尽くしながら、涙がじわりと溢れてくるのを感じた。

 彼にやり直したいと告げ、そしてそれを拒絶されたことで、すがりついていた小さな希望がすべて崩れ去ってしまった。

 そして、彼の中にはもう自分の影は残っていないことを知り、どうしようもない喪失感が胸に押し寄せる。


「……私、なんで気づけなかったんだろう」


 呟きながら、私は自分の過ちを責める気持ちと、完全に自分が過去の存在になったことの寂しさに打ちひしがれた。

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