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第14話 『湧き上がる感情』


「よし、会おう……大丈夫、大丈夫だから」


 私は迷いながらも、思い切って桜庭柊斗に会いに行こうと決めた。

 放課後、彼がいつも通るはずの駅周辺で待ち、偶然を装って話しかけるタイミングを狙っていた。


 最近の私の気持ちはかなり複雑だった。


 新しい彼氏との関係に疑念が生まれ、ふと柊斗のことを思い出すことが増えていた。

 あの時、自分が「オタクは無理」と言って彼を拒絶し、別れを切り出したことも、今になって考えると後悔に変わっている。真面目で優しい、誠実な柊斗の姿が、胸の奥で静かに蘇る。


 そして、彼を取り戻したいという思いが日に日に募り、ついに行動に移す決意をした。今日は、その第一歩だ。


 放課後、彼がよく通る駅近くの道をうろつきながら待っていると、やがて彼の姿が見えてきた。

 久しぶりに目にした彼はどこか自信に満ちていて、以前の彼とはどこか違って見えた。

 その姿に一瞬、声をかけることをためらったが、思い切って声をかける。


「あ……柊斗、偶然だね、久しぶり」


 彼が驚いたように顔を上げ、私と目が合う。

 彼の目にはほんの一瞬の驚きが浮かんだが、すぐに冷静な表情に戻った。


「ああ、麗華……どうしたんだ、こんなところで」


 彼の淡々とした口調に、少し胸がざわつく。

 自分から別れを切り出したとはいえ、彼と再会した時には少し懐かしさや笑顔が返ってくることを期待していた。


 だが、彼の反応は淡白で、こちらを見つめる視線にも、以前のような優しさは感じられない。


「たまたま会えたことだし……ちょっと、久しぶりに話さない?」


 私はなるべく自然な笑顔を作り、何気ない様子で彼に話しかける。

 ……しかし、彼の反応は相変わらず冷静で、昔の温かさを感じることができなかった。


「ごめん、今は無理なんだ。今日は、紗良と一緒だから」


 私の心がざわつき、うろたえる。

 彼の言葉には、まるで遠回しに「もうお前は過去のことだ」と言われたような冷たさが感じられた。

「紗良」恐らくあのギャルっぽい女の子の名前だろう。その名前を口にする彼の表情には、以前には見られなかった穏やかさがあった。

 それを見た瞬間、胸が痛んだ。


「……そっか、前見たあの子ね、その子と……」


 私は何とか笑顔を保とうとするが、彼の心が自分から遠ざかっているのを感じて動揺していた。

 彼の視線はまっすぐに私を見ているものの、その中にかつての温かみはもうなく、未練もなければ後悔も感じられない。


「──じゃあね」


 そう言って彼が軽く会釈してその場を去ろうとする。


 そのあっさりとした態度に、彼がどれだけ変わってしまったのかを改めて思い知らされる。

 以前なら、自分が「少し話したい」と言えば迷いなく応じてくれたはずなのに、今の彼は少しの躊躇も見せずに去っていこうとしている。


「……待って、柊斗」


 思わず、彼の名前を呼び止めてしまった。

 彼は振り返り、少しだけ驚いた顔を見せる。


「……何か用?」


 その冷静な声に、またも胸が痛む。

 焦りと寂しさが混ざり合って、何か言葉を紡ごうとするが、何を言えばいいのかがわからなかった。

 気まずい沈黙が流れた後、私は何とか言葉を絞り出す。


「いや……ごめん。なんでもない」


 彼は軽くうなずき、「じゃあ」とだけ言って再び歩き出した。

 そのままギャルの女の子──紗良のいるであろう方向に向かって遠ざかっていく柊斗の姿を、私はただ見つめることしかできなかった。


 彼が歩き去った後に残されたのは、自分が完全に過去の存在として扱われたという事実。

 そして、彼の隣にはすでに紗良という新しい存在がいるという現実。


 しかし、私の中には、ただ終わりを受け入れるだけでは済まない感情が渦巻いていた。

 彼が冷静に振る舞い、過去の思い出を振り返る様子もないその態度に、焦りと同時に悔しさがこみ上げてくる。


 ──柊斗は、今本当にあの子と幸せで、私なんて必要ないの?


 その考えが頭をよぎるたびに、柊斗への未練がますます募っていくのを感じる。

 彼が変わってしまったのは、自分のせいなのかもしれない──そう思うと、どうしても彼のことをあきらめきれなくなる。


 ──あの子のものになるなんて、許せない……。


 自分でもこの突然湧き上がった感情に驚いていた。

 

 しかし私は気づけば、もう一度柊斗の元へ近づく方法を考え始めていた。

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― 新着の感想 ―
この屑女何自分勝手な妄想してるんでしょうかね? 全部自分がやったことだろうが! あんな屑なことしといて、自分が許されるとでも思ってるですか?頭の悪いほんとムカつく女だ。
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