第12話 『水族館デート』
最近、学校に行くのが楽しみになってきている。
クラスに入ると、いつも隣の席で紗良が笑顔で「おはよー!」と手を振ってくれる。
彼女がいるだけで一日が明るく始まる感じがして、自分でも驚くほどに元気が湧いてくるのを感じていた。
ふと気づけば、元カノのことなんて全く考えなくなっている自分がいる。
つい最近までは、ふとした瞬間に過去を思い出して、心にしこりが残っている気がしていたのに、今ではそのしこりもなくなっていた。
心のどこかで彼女への未練があったはずだけれど、紗良と過ごす時間のおかげで、もうそれすら薄れていったのだ。
放課後の帰り道、俺は自然と紗良に「今度の週末も、一緒に出かける?」と聞いていた。
紗良は驚いたように目を見開いたけど、すぐに笑顔になって「もちろん!」と頷いてくれた。
俺もつられて笑顔になり、少しだけ照れ臭く感じるが、これが当たり前のように思えてしまう。
「今度はどこ行こうか?桜庭くん、行きたいところある?」
紗良が楽しそうに尋ねてくる。
なんだかんだ今まで休日デートと言ってもメイドカフェに行ったりデートっぽいデートしてないかもな、とかそんなことを思ったので勇気を持って俺は1つ提案をしてみた。
「そうだな……水族館とかどう?」
そう俺が提案すると、彼女の目がキラキラと輝いた。
「おお、いいね!水族館、大好きだよ!いろんな生き物見るの楽しそう!」
紗良のその笑顔に、自分の提案を喜んでもらえたことが嬉しくて仕方がなかった。
彼女といる時間が、どんどんかけがえのないものに感じられていく。
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週末のデートが待ち遠しくて、気づけば授業中も、次に紗良と何を話そうかと考える時間が増えていた。
これまでの自分だったら、こんなふうに誰かと一緒にいる時間が「自然」で、そして待ち遠しいと感じるなんて思いもよらなかっただろう。
昼休み、隣で弁当を広げている紗良がふいに、
「これからもずっと一緒にいようね」
と言った。
不意に彼女が口に出したその一言が、俺の心に静かに染み込んできた。
彼女が何気なく言ったその言葉に、胸の奥で温かいものが広がる。
俺はその気持ちに素直に答えたくなって、
「……もちろん、これからも一緒だよ」
紗良は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに笑顔で「やったー!」と言って手を振り返してくれた。
その瞬間、俺たちの距離がぐっと縮まった気がして、心が満たされていくのを感じた。
周りの目線も少しあったような気がするがまぁ少し声も押えたし大丈夫だろう。
紗良がわーい!ってやってるのはいつもの事だし。
……まぁ幸せだから大丈夫だ!
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週末の水族館デート当日。
二人で並んで水槽を眺め、いろんな生き物について笑いながら話していると、心から「楽しい」と思えた。
紗良が俺の好きなことに興味を持ってくれて、そして一緒に過ごすことを楽しんでくれていることが、何よりも嬉しかった。
「この魚、カラフルで可愛いよね!」
と、紗良が指差した先には、色鮮やかな熱帯魚が泳いでいる。
その楽しそうな横顔を見ていると、改めて彼女が大切な存在であることを実感する。
「紗良、綺麗だね」
「うん!めちゃくちゃこのお魚たち色とりどりで綺麗だね!」
思えば俺の日常に彩りをくれたのは他の誰でもない、今俺の目の前にいる紗良だ。
彼女はカラフルに輝いていて、その横にいることで俺の日常も綺麗に彩られている。
そんな紗良も綺麗だよ、とかそんなことを思ったが、ちょっと性にあわないのでやめといた。
デートを終えて帰り道、俺はふと彼女に聞いてみた。
「紗良、今日は楽しかったか?」
「うん、めちゃくちゃ楽しかったよ!桜庭くんのおかげだね!今日も来てよかったよー!」
そう言って笑う彼女の姿に、思わず胸が締め付けられるような気持ちになった。
自分のそばにいる彼女が、心から楽しんでくれている。
その事実が、自分にとってどれほど大きな意味を持っているかが、今になってよくわかる。
俺は紗良の手を取り、少し強く握り締めた。
彼女も驚きつつも、優しく握り返してくれる。
その瞬間、俺たちは言葉を交わさずとも、お互いに通じ合っているような気がした。
こうして紗良といる時間が、ただの「日常」になっていく中で、彼女への感謝と、少しずつ膨らんでいく恋心が心の中で静かに広がっていくのを感じた。
過去にとらわれることなく、前向きに歩いていける自分がいる。
それは紗良がそばにいてくれるからこそだと、俺は確信した。




