表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/50

第11話 『今の彼と前の彼』

柊斗の元カノ、麗華視点のお話です。

 正直、私──中野麗華にとって桜庭柊斗との別れは「時間の問題」だった。


 オタク趣味があって、それなりに真面目で優しい人だったけれど、私が求めている「楽しいデート」や「ドキドキする瞬間」とは少しずれていた。


 そんな中、たまたま今の彼と知り合って、話しているうちに魅力を感じるようになったのも自然な流れだと自分では思っている。


 その結果、私は柊斗と付き合っていたタイミングが少しだけ重なる形になってしまった。

 けれど、どうせ彼には別れを告げるつもりだったし、彼に気づかれなければ問題ないとも思っていた。

 私の気持ちはとっくに冷めていたし、正直、あの関係は「自分が優先するべきもの」ではなかったのだ。彼が「オタク」なのも、私にはやっぱり合わなかった。


「まあ、世間一般的には『浮気』って言うかもしれないけど、もう終わりにするつもりだったし……仕方ないよね」


 自分にそう言い聞かせて、私は何もなかったかのように新しい彼との時間を楽しみ始めた。

 彼は、私が求めるデートや刺激を惜しむことなく与えてくれて、やっぱり私にはこういう人のほうが合うと確信していた。


 ……けれど、そんな自信が揺らぎ始めたのはここ数週間のことだった。


 彼とのデートの約束をしていたにもかかわらず、直前で「急に用事ができた」とキャンセルされることが増え始めた。

 最初の一、二回は、本当に急な用事かもしれないし、まあ仕方ないと思っていたけれど、その回数が増えるにつれ、不安が頭をもたげてくるようになった。


 さらに最近では、彼に連絡をしてもすぐに返事が来ないことが多くなり、まる一日以上連絡がつかないことも増えてきた。

 それまでは即レスだった彼が、急に態度を変えたような気がして、違和感を覚えずにはいられなかった。


「まさか……浮気してるわけじゃないよね」


 彼が私と付き合い始めたのは、まだ私が柊斗と付き合っている頃だった。

 彼もそのことを知っていたけれど、「気にしないよ」と言ってくれたことが好印象だったのに、いざ自分がその立場になると、想像以上に不安が押し寄せてくる。

 私が柊斗と別れたのも、新しい彼がいるからで、そんな状況でまた彼を失うなんて、考えたくもなかった。


 不安を紛らわすために、彼のSNSをこっそり確認することが増えた。

 だけど、特に怪しい投稿は見当たらないし、共通の知り合いにもそれとなく聞いてみたが、彼についての変な噂も特にない。

 けれど、私に対する態度が冷たくなっているのは事実だし、その理由がわからないのが一層もどかしい。


「どうして……私のほうから連絡を待つような関係にならなきゃいけないの?」


 少し前までは、彼が率先して予定を立ててくれて、私に合わせてくれる優しい彼だった。

 だけど、いつの間にか私が彼に合わせて必死に連絡を待つ側になってしまったのだ。その違和感と、感じたことのない不安が胸に残って、どうしても落ち着かない。


 そんな日々を過ごすうちに、ふと頭をよぎるのは桜庭柊斗のことだった。

 私が別れを告げてから、一度も連絡を取っていないし、彼が今どこで何をしているのかも知らない。

 けれど、不思議なことに最近、彼とふと出会ったりしてから、彼が可愛いギャルと一緒にいるところをみてから、妙に彼のことを思い出すことが多くなってきた。


「今、柊斗はどうしてるんだろう?」


 彼が新しい恋人を作ったとか、誰かと楽しく過ごしているとか、そういう話は一切聞いていない。

 でも、あんなに傷ついていた彼が、今どうなっているのか、なんとなく気になってしまう自分がいた。


「いや、別に未練があるわけじゃないのに」


 自分にそう言い聞かせながらも、彼のことを考える時間が増えているのは確かだった。

 あの頃、彼の趣味にあまり興味が持てなかった自分を少し反省する気持ちもある。だけど、それも過去のことであって、今の彼がどうしているかなんて本来ならどうでもいいはずだった。


 けれど、ふとした瞬間に彼と過ごした何気ない時間や、たわいのない会話が頭をよぎってしまう。

 それは今の彼とのデートに感じる楽しさとは違って、どこか穏やかで、安心感のあるものだった。


 あのとき、柊斗はいつも私のことを優しく包んでくれていた。

 それが「物足りない」と感じていたのに、今になって少し恋しく感じる自分がいることに、胸の奥がチクリと痛む。


「私……何を考えてるんだろう?」


 新しい彼がいれば、何も気にする必要はないはずなのに、なぜか過去の自分の選択が正しかったのか、自信がなくなりつつある。

 柊斗と別れて以来、順調だと思っていた今の関係に、どうしてこんな不安が生まれるのか、わからなくて仕方がなかった。


「私は……何を求めてるの?」


 自分に問いかけるがその答えは出ない。

もし気に入って頂けたら、評価、ブクマしてくださると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ