魔導炎滅紅蓮放射真血鬼竜煉獄砲
「なあなあ」
「ん?」
「少年漫画とかでさ、あるだろ、必殺技」
「ああ、あるな。それが?」
「……俺さ、できるようになっちった」
「は?」
「オラ、なっちまった」
「何かに寄せたな。ま、いいんだけど必殺技?」
「そう『魔導炎滅紅蓮放射真血鬼竜煉獄砲』って言うんだけどさ」
「いやわからんわからん。頭にぜんっぜん! 入ってこないよ。ゆっくり言ってくれ」
「まどうえんめつぐれんほうしゃしんけつきりゅうれんごくほう」
「ださっ」
「おい!」
「はいはいごめんごめん。で、ショウタが来たらどこ寄り道して帰る?」
「おいー、話変えるなよ」
「あーはいはい。でもなあ、俺ら中学三年よ? 小学生じゃないんだぞ?
そういうのはもうなぁ。お前もいい加減にそ――」
「まあ、聞けって! いいか? 必殺技って色々あるだろ? なんたら波だの
なんとかスラッシュ、なんとか拳、なんとか斬り、まあオシャレ重視なのとかもさ」
「ああ、あるな」
「お前だって真似したことくらいあるだろ?」
「そりゃ、小学生の時はな」
「でも出なかったよな。それはな……当然のことなんだよ」
「溜めて言わなくてもそりゃそうだろ」
「違う違う。俺らはその流派みたいなのに入っていないわけじゃん?
そもそもの体のつくりとか種族とかも違うじゃん? だから出るわけがないんだよ」
「はぁ? まあ、うん」
「だからさ、考えたんだよ。俺ら人間が出せる必殺技をな」
「ああ、それがさっきの」
「そう! こういうのはさ、呪文と言うか言霊みたいなもんなんだよ。
一文字違うだけで失敗したりさ、不発に終わるもんなんだ。
だから俺はな、小学生の頃から今までの数年間、ずっと研究し続けてきたんだよ!」
「うわぁ、お前……。俺ら来年受験よ? お前、時間というものをもっとさぁ」
「いいんだよそんなことは! 俺の苦労は、はぁもう、本当に大変だったんだぞ?
一文字ずつそれっぽいのを組み合わせてさ」
「それがさっきの魔導砲ね」
「違う! 短くするな! 『魔導炎滅紅蓮放射真血鬼竜煉獄砲』だ!
そう唱えれば出るんだよ、波がな!」
「今出てないじゃん」
「構えがいるんだよ。ふぅー、まあ見てろ。よし、ほら来いって。
ちょうどグラウンドのあの辺、人がいないからあそこに撃つぞ。はぁぁぁぁぁ」
「溜めいるのかよ」
「いいから静かに! 魔導炎滅紅蓮放射真血鬼竜煉獄砲!」
「はいは……え、え、え、マジ?」
『政府によりたった今、魔導炎滅紅蓮放射真血鬼竜煉獄砲の使用の禁止が決定されました。
このみゃど、魔導炎滅紅蓮放射真血鬼竜煉獄砲はとある中学生が発見したもので
SNSの投稿により、広まり、そして社会問題へと発展しました。
威力、飛距離共に然程強力なものではないのですが
階段での背後からの使用による怪我や
また子供から三十代の主に男性による、左右に分かれて行う
魔導炎滅紅蓮放射鬼竜煉獄砲合戦が怪我や建物の破壊など問題になり
また、公園の芝生など荒れるなど苦情と相談の声が相次ぎました。
もう間もなく、この件で官房長官の会見始まります』
「いやー、禁止されちったな。オラ、悲しいぞ」
「気に入ってんのかそれ……」
「なんだ、元気ないな。お前こそ、あの技そんなに気に入ってたのか?」
「いや、別に……」
「嘘つけよ、あの初披露のとき、お前、興奮して少し漏らしてたろ」
「も、漏らしてねえよ!」
「あの後、教室に戻って来たショウタにも教えて
いや、しかし、まさか全員すぐにできるようになるとはなぁ。
師匠冥利に尽きるってやつだ」
「師匠ぶるなよ……。お陰で世界中大混乱じゃねえか」
「そんなに褒められると、オラ、照れちゃうゾ」
「褒めてねえよ、え、そっちのキャラだったの? いや、いいけどなんでも」
「ははは、そうそう。いいのいいの禁止でもさ」
「へえ、ショックじゃねえんだ。せっかく開発した技なのに。苦労したんだろ?
ま、それもそうか。未練なし。これでようやくガキ卒業。受験に専念できるってわけだな」
「んー、ふふふ」
「な、なんだよ。気味悪いな」
「ふふん。『魔導炎滅紅蓮放射真血鬼竜煉獄砲』は使わなきゃいいだけの話なんだろ?」
「え? あ、お、おい、お前……その構え、まさか」
「へへっ、外のあの木を見てな」
『次のニュースです。政府により、えー
魔訶鳳来遊心波狼風魔烈爪気円断滅双王嵐龍撃連拳の使用が禁止されました。
この魔訶鳳来遊心波狼風魔烈爪気円断滅双王嵐龍撃連拳は
図にある構えをした上で魔導炎滅紅蓮放射真血鬼竜煉獄砲同様に
噛まずに言うことが発動の条件で
発動すれば拳の先にいる相手を軽々吹き飛ばすほどの威力があります。
たとえ、吹き飛ばされた先がやわらかいマットの上などであっても
主に肋骨の骨折などの怪我が多数報告されています。
また、窓に向けて使用すると魔導炎滅紅蓮放射真血鬼竜煉獄砲と比べ
容易く割ることができることから威力は数段上とのことです。
では、官房長官の会見と中継を繋ぎます』
「まーた禁止だってさ。まったくまいったよ」
「いや、当然の流れだろ。まあ、俺も使いまくったけども……。
でもまあ、これで今度こそ受験に専念。やっぱりいつまでも小学生染みたことを
……いやおい、お前、その余裕まさか」
「へへへ、いやー、目覚めちまったのかなぁ……俺の才。秘めたる力ってやつがよぉ」
「それは知らねえけど……」
「くっ、腕がうずくぜ」
「中二病……いや、じゃあ小学生よりは成長しているのか、どうなんだ……」
「ふっ、悩んでいるなぁ。そんなお前にいいものがある」
「お前が悩みの種だけど……それで、また新技を……?」
「そう……その名も」
『続いてのニュースです……はぁ……えー、新たな技が禁止されました。
では次のニュース……駄目? 読むの? まあ、そうよね。はいはい、えー
冥雷五龍天海覇王一閃乱轟鬼気円舞寧寧地衝天突光輪槍破爆……
も、も、もうイヤアアアアア! なんなのよこれえええぇぇぇ! どんどん長くなるし
どれだけ噛まずに言えるよう練習しなきゃならなかったと思ってるのよおおおぉぉ!
いい加減にしてよぉぉぉもうなんとか波でいいでしょ五文字で! 波ぁ!
……って、え、みんな、大丈夫? え、嘘でしょ、出たの今? 天井が、空、え。
波ぁ! あれ、出ない。あ、どこから、「もうイヤアアア」からかな。
え、と言うかこれ、気合とただ技名が長ければ出る感じ……?』
こうして、世界を破滅へと導く、混沌苦苦煩雑狂乱冥冥乱打黒濁の暗黒大帝奈落断崖羅刹奇々怪々悪獄轟々門は開かれたのだった……。