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第6話 ヒサメのおしごと 後編

夜、それは世界の全てが私の庭に変わるということ。部屋のハンガーにかけてある服を身にまとい、色々身に着けて外に飛び出せば、そこからはもう普通の人間ではない。


やっほー、お馴染み普通の女子中学生とはちょっと違うヒサメちゃんだよー。さて、ここまで何が違うかどうかわかんなかったよねー、そうだよねぇ。


じゃあ、発表します。私が普通の子と違う理由……。それは……


  



                   忍者なのです。






そう、私は所謂くノ一。身長は151㎝しかないけど、これでも裏社会では”世界最後の忍者”とか”ラストニンジャ”って呼ばれて恐れられてるんですよ。あ、そうそう。中学生だけど、私の本業は裏社会の情報屋さんです。そこまで人をヤっちゃったりしてませんよ? めちゃくちゃヤクとかで狂ったヤクザさんたちを5人くらいぶちのめしたら逝っちゃったとかくらいで、そこまで凶暴じゃないよ? だって情報屋だし。懇意にしてる殺し屋いるし。


そんなこんなで、トゥデイズミッションはただ1つ。おにいと桃子ちゃんの人助け。うちの学校の教頭とやらを徹底的に調べ上げるのです。一度しか見たことがないあの肥満肉塊、なんか裏ありそうだなーって前々から思っていたんですよ、はい。だってヒサメちゃん忍者だもん。


屋根の上を足音がしないようにぴょんぴょん飛び越え、鉄道の高架を昇って丁度通った学校方面行の電車の屋根に不正乗車。そして学園前の駅を通過するときにホームの屋根に飛び移って、そこから直行で学園に侵入。わざわざ学校に来る必要はなかったけど、あの肥満だるまの住所を知らないから、職員名簿から調べてやろうという魂胆。あとは発信機を仕掛ける目的もある。


鉄条網をホップステップ大ジャンプで飛び越え、真っ先に警備員がいる警備員質の通気口にIN!

ヒサメちゃん結構細いから換気口とか通気口とか入れるの。えっへん。


「ふあ~……そろそろ見回り行くかぁ?」

「んだなぁ、あと10分で1時だから、時間になったら行くべ」


時刻は午前1時前後。そろそろ警備員さんもおねむな頃でしょう。なので、素直に眠らせてあげましょう。というわけで、煙が出ない睡眠薬入り発煙筒を通気口に設置。そして通気口はしっかりとロック。これであの警備員さんたちは明日の5時くらいまでぐっすり。


あとは、防犯用の対人センサーとかを華麗によけて、上手い具合にピッキングしてドーン!


職員室を物色して、出てきた職員名簿から肥満肉塊の名前を探す。あれ……ひまんって文字ない。そっか、あの人の名前肥満じゃないの。そっか。


素直に高等部教頭の欄を見て情報ゲッツ。ついでに怪しいと思ったので中東部の教頭の方もメモ。あとは元の場所に戻すと同時に、それぞれのデスクに発信機取り付けておいた。最近の技術はすごくて、私が今使ってるのなんかはめちゃくちゃ小さい針タイプ。返しがついてるから簡単には外れない特性仕様で、しかも大きさは0.02mmと小さい。一つ一つピンセットにつままれた状態の発信機を仕掛けたら、あとは通気口の睡眠発煙筒を取り除いてお仕事かんりょー。


動きがあるまで待ちましょか。


 〇 〇 〇


1週間後。仕掛けておいた罠にまんまと引っかかった犯人たちは、とある場所に集まっているよう。これ以上たったらひっそりと家に忍び込んでやろうと思いながら自室で動画を見ながら根気よく待っていた甲斐があったというもの。これ以上はキレて家宅捜索しそうになったので、あの肥満肉塊にしてはいい行動です。グリフィンドールに1点。


手早く準備を済ませた私は、自室に作った隠し通路から屋根へ。そして、3つ交差点を挟んだ先にある駐車場に行けば、そこには短距離移動用の大型バイクが。中学生じゃ免許取れないだろうって言われてるだろうけど、これは20代の女性に変装して偽戸籍を買って作ったもの。裏社会ってこういうとこ便利。黒装束の上から、免許を取ったときの変装をつけていざ夜の街へ。


発信機がついている場所はここから少し離れた海老名の倉庫。どうも悪党というのは倉庫を好む傾向があるようで。この前ボコった半グレたちも倉庫に住んでたし。そのうち、私の仕事道具置いてる倉庫アパートに住みつかれないか心配。前にネズミに住み着かれたことならあるけど。


そんなこんなでバイクを走らせること約30分。私がやってきた海老名の倉庫には未だに灯りがともっていた。そして中からは複数人の声と気配。どうやら発信機をつけた二人以外にも数人ほど人がいるようです。なんかめっちゃ嫌な気がする。


とりあえずもう一度黒装束にドロンして、倉庫の屋根に昇った後は、換気口から侵入。こーいう倉庫ってたいてい直射日光厳禁なとこ多いから、その分でかい換気口使ってるんですよね~。侵入しやすくて何より。たまーに罠とか仕掛けられてるけど、引っかかりませよ。私は忍者なので。


そんな感じでパパっと侵入して、高いところに設置されていた換気口の出口から地面にスーパーマン着地! もちろん音は立てません。私のブーツの底には足音を完璧に消せる防音クッションが入ってますからね。


換気口から降りる間に確認したけど、肥満肉塊は計5人に膨れ上がっていた。正直言って誰が誰だかわからないものの、うちの学校の肉まんはご丁寧に学校のジャージ的なものを着ていたのですぐわかった。あとは黒服のいかついSPみたいな護衛が4人。アレはおそらく雑魚かな。


「ぐへへへ、これでいい感じに取れましたな」

「ああ。流石はいいボンボンどもが集まる学校だ。いくら高くても親はどんどん金を出しやがる」

「コストカットでちょっとデザインがいいだけのマイナーを導入してもボンボンどもは気づかんしな」

「「「「はっはっはっは」」」


うわぁ……生粋の悪党じゃないですかヤダー。聞いてる限り、この人たちは学園の理事とかを騙して設備費や部費などを名目に学費を上げ、本来の余剰分を吸い取ってたというわけですね。一人あたりから取れるのは、裏社会基準で言えばしょぼいですが、うちみたいに全校生徒が800人くらいになるとヤバい額が取れるというわけです。


ちなみにマイナーチェンジの設備が投入されているのは私気づいてましたよ? あと中等部のパソコン部がなぜか「これ前のやつじゃね? デザインだけじゃね?」って言って勘づいてました。あのオタク集団の特定能力なんなんですかね。相手にしたくない。


「さて、今日はここまでにしようか。今後動きがあれば逐次報告してくれ」

「ああ。とりあえずこれはまた山田組の金庫にしまってもらうとしよう」


「はい、じゃあ受け取りますね!」


「おう。頼んだぞ……ん?」


次の瞬間、私の体は自然と動いてました。おそらくは黒人のでかいマフィアみたいな人に渡そうと思ってたらしいですが、マネーが入ったアタッシュケースを私がゲッツ。そして渡してきた肥満肉塊の顔にムカついたので、持っていた鳥もち設置用の短棒で顔面を強打しておきました。

あ、吹っ飛んだ。体幹よわっ。


「な、誰だてめぇ!?」

「おい、護衛! はやくなんとか……倒れてるぅ!?」

「気づくの遅っw」


この方々、実はさっきから金にしか視線がいってなかったのです。なので裏で一人一人音を立てずに締め落としておきました。背後からの不意打ちに気づかないとは、本当にざっこ。しかし、それを見た豚まんさんたちはそろいもそろって顔を真っ赤にして怒り出した。これじゃあ豚まんというより赤だるまですね。縁起いい。


「ふん、てめぇみたいな小娘に負けるかよ!」

「戦いは暴力だよアニキ!」

「かかれぇぇぇ!!」


次の瞬間、意外と機敏な4つのだるまがこちらにとびかかってきた。さっき吹っ飛んだ肉まんも遅れてとびかかろうとしてくるが……え、でもこれってさ。


「よっと」

「よけるなぁぁ! ぐえっ」

「うおお、止まるなァぁ! ごふっ!」

「あっ!」


私がバックステップで1歩引くと、そこにとびかかってきた肉まん1号が着地。そして、その奥から肉まん2号が1号にタックル。それの繰り返して、全員が地面に倒れ伏してしまった。あまりにもダサいので笑ってしまいそうになったが、それを必死にこらえて、私は素早く苦無を抜く。そして、目が未だに見える状態の5人に向かって、私は空中に石を投げてから、それを粉々に切って見せる。すると、嫌でもそれが実物だとわかった5名は、見る見るうちに青だるまへと変化していった。


「いいか。一歩でも動いたら次にこうなるのは貴様らだ。わかったら大人しくしていろ」

「ひ、ひぃぃぃ」


私に対して圧倒的な恐怖を悟った5つの青だるまは、それから私から目線を外そうとはしなかった。一部顔から下のところを見られているような気がする。まあ、この黒装束は身体のライン少し出ますからねー。衣ずれの音とかしないようになるべく身体ぴったりにつくんないといけないんですよねー、黒装束って。で、だるまに見せるために私は忍者姿になっているわけではないので。


「はーい、これちゅうもーく」

「「「「え?」」」」

「はい、ドーン!」

「「「「ギャーッ!!!」」」」


ちょっと手洗いとは思うが、発光玉をどかん。一瞬の強烈な光で目をまんまるに見開いていたら半日は失明してしまうでしょう。私は投げたと同時に遮光マントで防いだので特に問題なっしんぐ。それから、資料とマネーをいただいた私は、すぐに家に帰っていった。


  〇 〇 〇


さらに数日後。色々私が空き時間に頑張ったこともあり、事件はすぐに解決……というか社会的な大事になった。まあ、大事にした犯人は私だけど。


あれからどうしたか聞きたい? 聞きたいよね。よろしい、聞かせてしんぜよう。でもおにいには内緒です。


まず、1000万円だけど、アレは全額社会福祉事業団に寄付しました。私の活動資金のために1割くらいもってってもよかったんだけど、汚れたマネーはいらないし、何よりあのだるまが触ってたかと思うと怖くて手が付けられませんでした。金に頬ずりしてた事業団ドンマイ、ニキビできたら治療してね。


次にあのだるまたち。よくよく調べてみたら、神奈川の中高一貫私立校の教頭の集まりだったようです。そして、驚くべきことに彼ら全員親族だったんですよ。瓜二つどころの話じゃないくらいに全員同じレベルで肥えてたので、影分身の術でも使ったのかと思ったら、なんと家族だったとは。似すぎじゃない?


そして、私は資料をコピーして、それぞれの学校の校長室の棚に挟んでおいた。しかし、あまりにも見つけてくれなかったので、3日くらい経ったときに私が校長を見つけてから雑談して、「本棚になんか置いたっけってもの挟まってたりしますよねー」って言ったら、その日の3時間目に教頭が校長室に呼び出されてた。ざまぁ。数日間教頭がそわそわしていたのは、おそらくいつバレるかわからないが故の恐怖だったのだろう。ちなみに、同時刻に他のだるまが教頭をつとめる学校にも、潜入した協力者たちが同じことをしてくれて、昼休みの時点で全員が校長に呼び出されたことを確認。


そして、社会にバレた理由……それは、私がスキャンダル系をネタにする新聞社に匿名でネタと資料っぽいサムシングを送ったから。学校側の責任者には忙しくなるから悪いと思ったけど、やはり肉まんどもが逃亡しないようにするためにはこうするしかなかった。


「そんで、結局予算は見直しになるらしい。おかげで6月くらいまで部活予算の仕事が続きそうだ」

「へ、へー?」

「まあ、でもこれで例年通りに収められるから楽になったことはなったが……なんでいきなりバレたんだろうな……報道だと7年くらい前からやってたらしいし」


一方のおにいは、どこか納得がいかないというような顔をして私に生徒会側のことの顛末を聞かせてくれた。私のせいで仕事の期間が増えたらしい。ドンマイ。私知らない。


こうして、また1つ世の中の悪を撲滅することができましたとさ。めでたしめでたし。

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