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第5話 ヒサメのおしごと 前編

春、新学期。


……から、もう1月は経ったんですけどね、はい。桜はとうに散って、素敵な素敵なGWはいつの間にか過ぎ去り、憂鬱な学力調査テストを予告して過呼吸になりそうな今日この頃です。


誰かって? そりゃあ言わなくてもわかるでしょ? 私ですよ私。え、ここまでに書いてない? じゃあ名乗る。


私は太田氷雨。何を隠そう、普通……とはちょっとだけ違う中学3年生なのです。勉学はそこまでできるという自信はありませんが、運動神経には自信があります。不良が集まる高校野球部の主将10人くらいなら同時に相手どれます、はい。


そんな私には、この学年になってから仲良くなった二人の友達がいます。


「ヒサメちゃ~ん、学力調査だってよー」

「うむ……さすがに拙者も今回は、うぅ」


私の席の前でこれまた次の学力テストを嘆くお二人……口調が元気っぽそうなのが南谷桃子ちゃん、そして一人称が拙者とかいう古風なのが鳳一葉ちゃん。これまたちょっと普通の女子中学生とは違う方々。


桃子ちゃんはこの学校の中等部生徒会長。この学校めちゃくちゃ偏差値いいし、去年の暮れにあった選挙では政治家の息子の成金ボンボンも出馬してたけど、フルボッコにして勝った。なんか洗脳術でも使ってるのかと思うくらいスピーチうまかった。すごい。

そして一葉ちゃん、彼女は所謂剣の天才。居合斬りは既にプロの領域。2年連続で剣道の全国大会では優勝しているから、今年勝てば無傷の3連覇。強い。あと私の普通じゃない面知ってる一人。


「私も今回はピンチですよ~……というか、二人とも私より勉強できるからいーじゃん~」

「そ、そんなでもないよ?」

「拙者は勉学より剣の方が好きなのだが……しかし義務教育であるからにはやらねば、と」


そーなんですよねー。現代日本って摩訶不思議なことに小中は義務教育で絶対に行かないといけないんですよ~。だから家庭だけで見れば一般なも当然のごとくお受験させていただいて、こんな頭のいい私立の中高一貫に来てしまったのです。


そして、次の学力調査テストは高校受験がそのまま面接のみでスルーできるか、それとも一般の人に混じって学力で高等部への進学を勝ち取るかの分かれ道に直結する。別に学力でもボーダーは低くて済むのだが、そえでも受験勉強をするのはめんどくさい。なので今回ばっかしはガチらないとめんどいのです。


「あ、そうだ。じゃあ今日の放課後に私の家で勉強会する? 丁度おにいも生徒会で夜まで帰ってこないだろうし」

「うん、いいね! 賛成!」

「拙者も大丈夫。何か手土産をもっていかねば——」

「だ、大丈夫だよ。5時間目終わったらそのまま行こうよ」


私の今の家族はそこまでかしこまったところではない。というかめちゃくちゃ緩い。愛妻家の父とやり手OLの母、そしてめちゃくちゃ頭がいい兄。そして実は甘党はヒサメだけなのです。シンプルに悲しい。甘いものあんま作ってくれない。泣いちゃうぞー。


「とりあえず、放課後になったらなんかお菓子買っていこうよ。ついでに女子会しよ、女子会!」

「だね~。やろう!」


ノリのいい桃子ちゃんはノってくれましたが、一葉ちゃんは「勉強するのでは?」というような顔をしている。やだなー、もちろん勉強がメインで女子会はあくまでもコンテンツですよコンテンツ。追加ダウンロードです、アーユーオーケー?


まあ、そんなこんなで私たちは勉強会をすることになった。


  〇 〇 〇


その日の夕方。勉強を少しやって、休憩でゲームをやっていたら、おにいが帰ってきました。そしてめちゃくちゃじっくりことこととゲームに夢中になっていたことを指摘されました。おにいのこういうとこ嫌い。デリカシーなし! こんなんだから未だに彼女できないんですよーっだ。


ただ、おにいが来てくれたのはとてもいいこと。私と違って頭がいいから、こういう時に勉強をわかりやすく教えてくれるところ好き。あと勉強に糖分が必要だからってチョコ出してくれるのも好き。早く彼女できるといいね。


なんて思ってた私がバカでした。おにいは私たちがゲームにかまけてた罰としてめちゃくちゃスパルタ指導を始めたのDEATH……あ、違った、です。


「違う、やり直し! この公式を20回書いて頭に叩き込めぇ!」

「そこは作者の心情を読み取れっつってんだろ! 答えは全部問題文の中にあるんだから意地でも見つけ出せ!」

「ええい鉛筆コロコロで答えを決めるな! は? それで7割合ってるのマ?」


唯一剣道部で体育会系の一葉ちゃんだけめちゃくちゃガッツを見せて食らいついているけど、私と桃子ちゃんからしたらこの暑苦しい展開は耐えられない。なんでこう、男子って太陽みたいにすぐ熱くなるんですかねー、生きてる世界が違うんだと個人的に思う。あと同学年の男子が変な笑い声してるのも意味不明。控えめに言って猿山に蹴り落としたくなる。


まあ、そんなこんなで、学力テストはなんとかなりました。はい。おにいのスパルタのおかげで無理やり覚えたことを抜き取るように解答欄を埋めれば、その分の知識は全て抜け出てました。多分、おにいは頭がパンクするかどうかギリギリまで押し込んで、テストの時に全開放ができるからあーいうことをしたんでしょう。

頭いいのにめっちゃ脳筋じゃん。


さてさて、すぐに家に帰ってぐだーってしたいから桃子ちゃんと一葉ちゃん誘おうとしたら、片方は生徒会の仕事と言って、もう片方は高等部の男子剣道部に喧嘩を売ってくるといって消えてしまいました。ヒサメちゃんベリベリ悲しいネ。一人で帰るの虚無いから絶対にしたくないので、しょうがなくどっちかが終わるまでテキトーなところで待つことにしました。具体的には、生徒会のお手伝いとして委員長会の板書やるとかで。


「それでは、委員長会をこれで終わります」


ただ、あんまり私の出番なかった。決まったことを黒板に書いただけで全部終わった。あとは部屋の隅っこで糸まきまきしてた。次に伸ばした時に絡まないようにしないとだから大変なんだよね、これ。


そして、委員長会が終わってから5分くらいしたら、なぜか今度はおにいに加えて、高等部の人たちが入ってきた。なんでここにいるのか聞いてみたら、中等部と高等部生徒会の交流会を今からやるんだそう。じゃあ私呼ばれてないからどっかいかないとジャン。あ、でもあのお菓子食べたい。


結局、私は桃子ちゃんがいていいよって言ってくれたから居残ることができた。高等部の生徒会の人たちとも話すことができてちょっと楽しかった。生徒会長さんめっちゃいい人だった。今度頭撫でてもらお。


「あー、そういえば予算の方だが……」

「えっ……本当ですか!?」

「ああ。こっちの顧問が言ってたから間違いない」


望み通り会長さんに頭をなでてもらってムフーってしてると、教室の隅から妙な話が聞こえてきた。桃子ちゃんとうちのおにいの話。ふむふむ、昨日愚痴ってた予算の話ですか。それで? 責任負えないと突っ返したら教頭が無理やりやらせろってやってきた? ほうほう。


なんか怪しいですね。こう、なんか不正的サムシングありそう。


これはちょっと調べる必要ありそう。

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